カカの天下280「感謝の仕方、2nd」
「忘れてた……」
放課後になり、帰る準備を始める生徒たちの中で、私カカは一人で愕然としていました。
「どしたのーカカちゃん」
「サエちゃん……いまのテンカ先生の言葉聞いた?」
「今のって、帰りのホームルームの『そういや先週は勤労感謝の日だったな。感謝し忘れてた生徒はこの後でもいいから何か感謝しとけイェーイ』ってやつ?」
そんなノリよく喋ってなかったような気はするけど。
「そう。私、感謝するの忘れてた……サエちゃんは、おじさんとかおばさんに何かした?」
「感謝の言葉をあげたよー」
やばい。私は言葉すらあげてない。
「何かしないと!」
「カカちゃん、意外に律儀だねー」
「だって恩は売れるときに売っておかないと!」
「カカすけ……君、サエすけみたいなこと言うわね」
お、サユカンだ。
「サユカンは自分の親になんかした?」
「プレゼントしたわよ」
私だけ何もしてない!
「どうしよう! ねぇ、何すればいいと思う!?」
「うーん、そうだねー……」
「とりあえずわたしらと同じことしてみれば?」
「でもそれだけだとつまらないねー」
「あ、じゃあいろいろアイデア言ってみてくれないかな。メモするから!」
と、いうわけで。
三人で頭をつき合わせて教室で案を出し合った後、すぐに帰宅。
仕事から帰ってきたトメ兄を居間に座らせて、作戦開始だ!
「で、何が始まるのん」
「えっとさ、ほら。先週って勤労感謝の日だったじゃん」
「ああ、どっかの誰かさんが何も言ってくれなかった勤労感謝の日な」
……根に持ってるな、これは。
「とにかく感謝はしてるし、今からもっとするんだから、細かいことは気にしないの!」
「はいはい……そんで、どう感謝するって?」
「よくぞ聞いてくれました! 私たちが考え出した感謝の数々、覚悟して受けるのだ! まずは……礼!」
感謝の日、つまりはいつものお礼をする日なんだよね。
だから、まずは礼だ!
「気をつけ!」
ピシッ。
「礼」
ペコリ。
「さよーなら」
「どこへ行くんだ」
あ、つい。学校の終礼のくせで。
「次。いつも働いてくれてることへの感謝の言葉いきます」
「ほいほい」
「ぐっじょぶ!!」
「……や、確かに『いい仕事っ』ていうのは勤労感謝っぽいけどさ」
「サエちゃんはこれで済ませたらしいよ」
「軽いなーサエちゃんち」
「次。プレゼントいきます!」
「お、次はまともそう……って、どこにいくんだ」
「プレゼント作ってくる。決してのぞかないでください!」
「おまえはどこぞの鶴か」
感謝する日、つまりは恩返しの日。恩返しといえば鶴、というのはおとぎ話大好きなサユカンのアイデアだ。
「すぐにどこぞの鶴みたいに身体の一部をむしってプレゼント作ってくるからね」
「むしるって何!? どこを! そんなのいらないぞ!」
「まぁまぁ遠慮せずに」
むしるって言っても髪の毛だし。
ぷち、いたっ。さて、これをどうするか。
結ぶ?
あみあみ……
あやとり!
うーん違う……よし。
「おまたせ。はい」
「はい、って……髪の毛一本そのまま渡されても」
「思いつかなんだ」
「カカさ、そろそろ後先考えて行動するようにしないか?」
「そうなったら人間つまらなくなるってお姉が」
「だからって姉みたいにおもしろ街道まっしぐらもどうかと思うぞ」
それもそうか……
「あとは、えっと」
手を叩く。ぱん、ぱん。
で、ぺこり。
「おがむな」
なんまいだー、ってダメか。
「あとはあとは」
「あー、カカ。感謝してくれるのはわかったから、もうそこらへんでやめとけ――そろそろ変なのが出てきそうだし」
「後半なんて言ったの?」
ボソボソ言ったから聞こえなかった。
「や、もう充分だって言ったんだよ」
「ほんと? 嬉しかった?」
「嬉しい嬉しい」
「じゃあ明日ケーキ買ってきてくれる?」
「はいはい、しょうがないな――って、なんで僕がプレゼントするハメになるの」
バレたか。
「カカ、おまえちゃんと僕に感謝してるのか?」
「してるよ。超感謝、略してカンチョウ」
「その略しかたやめい!」
「カンチョウ……」
じり。
じり、じり。
「艦長! 発射であります!」
「その指をどこに発射する気だああああああ!?」
どどどどどどどどど!! 最近走ること多いなぁ。それはさておき。
ちゃんと感謝してるんだよ、トメ兄。
ちょっと照れくさいだけで。
そう、照れくさいから――ぷすっとな!
……この後のトメ兄のことを書くのはやめておこう。
トメ兄の名誉のために。
これが、一番の勤労感謝のプレゼント♪
二年目の勤労感謝はこのようにぷすっとなりました。
よかったね、トメ。この小説だけ読んでると君は妹に構うばっかりで本当に働いてるのかコイツとかたまに思うこともあるけど、いつもご苦労様。
そして働いている世間の皆様(自分も含め)遅れましたがいつもお疲れ様です。