カカの天下277「正しい風邪の倒し方」
「最近、風邪ひいてる人多いよね」
「うん、わたしのクラスでも休んでる人結構いるわ」
「うちのクラスもだねー」
ぽつぽつと目立つ空席を見ながら「お大事に」と心の中で念仏と一緒にとなえているカカです。あれ、念仏はダメか。成仏しちゃうし。
「サユカンは風邪ひいたりしないの?」
「わたしは結構、そういうのに強いほうね」
「ちぇ、サユカンの看病楽しそうなのに」
「何をする気よっ」
それはもう色々と可愛がってあげますよ。例えば……
『けほっ、けほっ……カカすけたち、お見舞いまだかなぁ。あ。電話っ、もしもし? あ、カカすけ。え……来れないの? あ、そう……べ、別に気にしなくていいわよっ。こっちは風邪ひいてるのよ? ちょうど君らの相手するのだるいなーとか思ってたところよっ。うん、うん……気にしないで遊んできなさいよっ! じゃあねっ……はぁ……そっか。こないのか……もっかい寝よ……寂しくなんかないわよ……ね、ケロたん。君が一緒に寝てくれれば、わたしは全然さびしく……さびしく……なんかっ……ぐすん……寂しくなんかないもん……うぅ』
「――みたいな感じでぬいぐるみ抱いてさみしがるサユカンをね、窓の外からサエちゃんと二人して見守るの!」
「うあー、すんごくニヤニヤできそー」
「……わたしの部屋、二階なんだけど」
「ハシゴとか使ってがんばる」
「隣の家にお邪魔してでもがんばるー」
「そこまでしてがんばるなっ!!」
そんなこと言って、もしお見舞い行かなかったら本当に泣いちゃうくせに。
「そういやサエちゃんは最近風邪ひかなくなったよね。去年は何度もひいて休んでたんじゃなかったっけ」
「私の場合はねー、身体が弱かったのは心の問題があったから」
「心の問題? あ、そういえば私と仲良くなる前って苛められてたりしてたっけ」
今じゃそんなの全然なくなったけど。というか撲滅したけど。私が。
「うん、他にも色々あったんだけどねー。でも今は心が無敵だから風邪なんかひかないよ」
「へー。でも私、いつも自分が無敵だと思ってるわりには風邪ひくよ?」
「カカすけは自分が無敵だと思って無茶しすぎるのよっ」
むぅ、たしかにそうかもしれない。でも小さいころから「若いうちは無茶してなんぼ。なぜなら無茶しても大体は許されるから」って姉に叩き込まれて育ったから、いまいち加減がわからない。
「とりあえず……私は風邪には負けるわけだ。これじゃ無敵って言えないね。風邪を倒さないと!」
「どうやって倒すのよそんなの」
「んー、風邪ってどこにいるのかな」
「今年の風邪はのどにくるって言うねー。セキしてる人多いし」
「よし! じゃあ風邪ひいてる人の、のどを片っ端から潰せば!」
「たしかにそうすれば風邪ひいてる人はいなくなるねー。この世から」
「それだと最後には誰もいなくなっちゃうわよっ」
それは盲点だった。
「んー……風邪ひいたときって、どうする?」
「薬を飲んで寝るわね」
「つまり、風邪より薬のほうが強いんだよね。薬が風邪をやっつけるんだし」
「そういうことだねー」
「じゃあ薬に勝てば風邪に勝ったことになる! あ、先生。ちょうどいいとこに」
「んだよ」
授業の準備にきたテンカ先生を捕まえた。
「薬に打ち勝つためには、どうすればいいですか!?」
「……麻薬でもやってんのか、カカ」
本気か冗談か警察に電話しようとするテンカ先生を必死に止めて、私たちは事情を説明した。
「風邪に勝つには? そんなの簡単だ。たとえばオレは風邪なんかほとんどひかない。なぜかわかるか?」
「バカだからですか?」
「……いい度胸してるじゃねぇか」
「いふぁい! いふぁいい!」
口をびろーんと伸ばされて痛い! だってバカは風邪をひかないって言うし!
「あのな、風邪なんて全部のどを通ってくるんだ。なら、のどを鍛えればいいんだよ」
「のどを……腹筋みたいに、のど筋とかあるんですか?」
「のど立て伏せとかー? 腕立て伏せみたいに」
「そんなテレビでびっくり人間がやりそうなことすんな」
あと鍛えるとすれば……スクワットとか。
「のどワット?」
「電気でもつきそうだなそれ」
「わかった、のどジャンプ!」
「首が飛んでいきそうだからやめとけ。あのな、もっと簡単な鍛え方があんだよ」
「カカ、おかえりー……なにやってんだ」
がらがらがらがら。
「うがい。のど鍛えてるの」
「おー、そりゃえらい」
「トメ兄もやりなさい」
「そだな」
がらがらがらがらがらがらがら。
はい、ちょー普通のオチです。
のど筋とかのど立て伏せとかしませんよ(見てみたいけど
でもなんだかんだ言ってこれが一番だと思うのですよ。外へでるとき、帰ってきたとき、起きたとき、寝るとき。
がらがらがらがらーっと。