カカの天下273「カカVS姉娘、筋トレ」
「カカー」
「なっ、あっ、にー?」
おいっちに、さんしっ、どうも、カカ、です!
ただ、いま、トレーニング、中で、腕立て、伏せ、してます! いち、にっ!
「部屋入っていいかー」
「さん、じゅ! ふぅ……いいよ」
私は腕立て伏せをやめて立ち上がり、タオルで汗を拭きながらトメ兄を出迎えた。
「お邪魔します。あ、ホントに邪魔しちゃったか」
「いいよ、ちょうど三セット終わったとこだし」
「いつも思ってたんだが、そのトレーニングって何セットやってるんだ?」
「何セットとかは別にないよ。んとね、いつも腕立て腹筋背筋その他もろもろやってるんだけど」
「カカって女子だよな」
「そうだけど。男子に見える?」
「……や、見えない。小さい頃の姉に見える」
「やめてよ、あんな男とか女とか越えてる人みたいだなんて」
たしかに姉に言われたとおりにトレーニングしてるけどさ。
「で、どんだけやってるんだ?」
「全部できなくなるまで」
ん、なんでポカンと口開けてるの。
「ぜ、全部?」
「うん、腕ガクガクお腹ブルブル背中ギチギチになったら終わり」
「……そりゃ強くもなるわ」
おかげで運動全般で男子に負けたことがない。
「んで、なにか用? 私まだこれやるんだけど」
「ああ、実は――」
「あんたとはよく二人きりになるね、タマ」
「カカー」
「カカお姉ちゃんって呼びなさい」
「カカおっちゃん」
「誰がおっちゃんだ」
と、いうわけで。
例によって例のごとく、お姉が連れてきたタマを押し付けられたのだった。
なんでもシュー君の家が今誰もいないらしい。たまにうちに預けられるのはそういうときらしいんだけど……じゃあお姉の家はダメなのかな、というかお姉はどこで寝泊りしているのだろう。いまだに知らないんだけど。
「おっちゃーん」
「おっちゃん言うな。お姉ちゃんって呼ぶの!」
「おねぇー」
「私をお姉と一緒にするな!」
まったくどいつもこいつも……
さて、トメ兄はタマを私に押し付けてさっさと部屋に戻っちゃったし、どうするかな。シュー君が仕事終わったら引き取りにきてくれるらしいんだけど。
とりあえずトレーニングやっちゃうかな。
「いち、に……あれ、タマもやるの?」
「やうー」
腕立て伏せの姿勢をとった私のマネをしようとするタマ。お腹が床についてるから寝転がっただけって感じだけど。
「よし、私についてこれたらあんたはレベルアップしてタマゴになるのだ!」
「めだまやきー」
「そうそう、目玉焼きになるの。いくよー。いっちにっ、さんしっ、ごーろく」
十回目くらいで横を見てみると、そこには頑張っているタマの姿が。
「いーちーにーさーんーしー」
ごん、ごん、ごん、ごん!
なんか頑張って額を床にぶつけてる!?
「やめなさい、タマ!」
「うー。痛い」
「ならやめようよ!」
理由のないわけのわからない行動ばっかり……これだから子供は厄介なんだよ!
え? 私はどうなんだって?
私もまだ子供だもん。だからいいの。
「まったくもー……腕立てはだめだね。じゃあ腹筋をやろう」
ごん、ごん、ごん、ごん!
「だからなんであんたは頭を打ちつけたがるの? 頭を割りたいの? そりゃタマゴになれとは言ったけどさ!」
「いたいー」
「ならやめようよって言ってるじゃん! あのね、頭を割っても目玉焼きはできないんだよ!?」
「スクランブルエッグならできそうだけどな。ケチャップいりの」
「……トメ兄。それしばらく作らないでね」
当分食べたくない、スクランブルエッグ。
「で、トメ兄。覗き?」
「人聞き悪いこと言うな。おまえがドア閉め忘れてたんだろうが」
「閉じろゴマって言ったよ」
「それで閉じるわけなかろう」
「トメ兄に言ったんだけど」
「僕はいつからゴマになった?」
お? 気づかなかったけどトメ兄の後ろに誰かいる。
「シュー君だ」
「あはは……こ、こんばんは」
「意外と早く迎えにきてな、それ知らせにきたんだよ」
「ありがとうゴマちゃん」
「昔そんなアザラシいたな、ってなぜに僕が」
「シュー!」
「ああ、はいはいタマ様、帰りましょうねー」
相も変わらず呼び捨てにされてるのを聞いて、私とトメ兄の憐れみ光線(目から発射)がシュー君を貫く。
「シュー君。まだ、なんだな」
まだ、というのは前回シュー君が自分を「パパ」と呼ばせるために決行した『お菓子で言うこと聞いてもらおう作戦』のことだ。実にセコい。
「……ふふ、まだ五つ、です……」
ちなみにその高級お菓子セットは一つ五千円だ。
「二万五千円か……」
「私の分は?」
「あ、えっと……一つお持ちしました。どうぞ」
ひゃっほい。
「苦しゅうない」
シュー君は苦しゅーだろうけど。
「カカ、おまえは遠慮ってもんを知ったほうがいい」
「私よりもタマに教えたほうがいいかと。さっきの見たでしょ? そのうち自爆しちゃうよ」
「ふむ、でも爆発ってところは姉の娘らしいな」
そして爆発してもピンピンしてそう。
「ああ、痛い! タマ様、そんなに頭突きしないでください!」
「……や、シュー君のほうが金銭面とか精神的に爆発するかもしれないな」
「大丈夫じゃないかな。爆発するほど火薬はいってなさそうだもん」
果たしてタマがシュー君を「パパ」なんて呼ぶ日がくるのだろうか。
こないでほしい。
そしたらもっとお菓子もらえるかもしれないし。
頑張れシュー君、味方はいないぞ(ぉぃ
相も変わらずひどい扱いなシュー君ですが……彼も好きでやってることなので問題ないでしょう(本当か?
本来ならトメという常識人(多分)がそのお金の無駄遣いを「おいおい」と止めるはずです、が、それをしないのは……さて、なぜでしょう?(笑)
答えはカカラジででも書きます^^