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カカの天下  作者: ルシカ
271/917

カカの天下271「その手を握って」

「……つかれた」


 休みの日の朝、僕ことトメは居間でテーブルに突っ伏してグッタリとしていました。


 たった今まで何かしていたから疲れた、というわけじゃない。昨日の疲れが抜けていないのだ。


 昨日は姉たちに付き合わされてひどいめにあった、というのもあるが……実はテンに呼び出される前にもちょっと疲れていたのだ。


 カカの、世話で。


 夕飯の準備はいつものこと。でもカカが最近テレビの影響で始めたトランプ占いがうざかった。


 夕飯の準備をしているときも、夕飯の最中も、夕飯のあとも……ずっとその占い相手として付き合わされていたのだ。


 別にこんなのお安い御用だ。伊達に十年も兄をやってるわけじゃない。


 でも……


「ちょっと、疲れたな……」


 さすがに疲労がたまるとイライラしやすくなるし、面倒なことが煩わしくもなる。


 朝食の用意をしないと……


 でも、なんか、だるい……


 目を開けたままボーッとテレビを見つめていると、後ろで物音が聞こえた。


 振り向いてみると、そこにはカカが立っていた。


 目をつむったまま。


「おはよ。起きたのか」


「ぐー」


「寝てるのか」


「ぐ?」


「どっちだよ」


 壁に寄りかかって立ちながら、カカは器用に寝ていた。


 ……さては夜遅くまでトランプ占いしてて寝不足だな、こいつ。


「んむー」

 

 目をしょぼしょぼ擦りながら周囲を見回す。今度こそ起きたかと思うがそれは甘い。こうなったカカは一時間は寝ぼけたままなはずだ。


「さむい」


「ああ、最近寒いな」


「手がさむい」


「ああ、そこに炊飯器があるから手突っ込んでろ」


 わざわざ起こすのも面倒だし、投げやりに僕は言った。


 でもカカは炊飯器じゃなく、僕の近くに寄ってきた。


 座布団をずらして、ぽすん、と僕の隣に座る。


「なんだよ。僕は炊飯器じゃないぞ」


 僕の中には白い米なんかないぞ。赤いもんばっかだぞ。


「手、さみー」


「ん、あ? 手?」


 なんか握られた。


「あくしゅー」


「ん、ああ、はいはい。握手握手」


 冷たい手してるな、こいつ。


「ぶんぶん」


 無意味にぶんぶん上下に振られる僕の手。何がしたいんだ。


「お?」


 なんか握手から握り方を変えてテーブルに肘をつかされた。


「のこったのこったー」


「腕相撲したいのか? 僕は今そんな気分じゃ――」


「ごー」


 ズダン!!


「いてぇよ!!」


 寝てるくせにフルパワーで勝つなよ!


「かちー」


 あー手が痛い。まったくこいつは、いつもいつも……


「んー……」


 好き勝手やり放題で、今もこんな満足そうにニヤけながら寝やがって。


「くー……」


 こんな、満足そうに。


 こんな、無防備に。


 こんな――幸せそうに、笑いやがって。


「……はは」


 あ?


 僕、なんで笑ってんだ。


 疲れてたんじゃなかったっけ。


 イライラしてたんじゃなかったっけ?


 それがなんで笑いながら、握られてないほうの手でカカの頭なんか撫でてるんだ?


「ったく、しょうがないやつ」


 ――そう、しょうがない。


 相手は妹なんだから。


 小憎らしいところは、ほんっとーにたくさんあるけど。


 結局はやっぱり、可愛いと思ってしまう。


 こいつが笑ってれば、僕も笑ってしまう。


 多少疲れても、こいつと笑うためなら別に構わないと思えてしまう。


「損な役割だよな……」


 やれやれ、と苦笑しながら。


 僕は敵わない妹の手を、握り返したのだった。


 ぎゅっ、と。


 ズダン!!


「……再戦の合図のつもりはなかったんだが」


 再びくらった腕相撲の衝撃による痛みをこらえながら、僕はひくひく笑う。


「さ、さて! 朝飯つくるかな」


「はよつくれー」


「……やっぱこいつムカつく」


 和やかな時間は一瞬だけ。


 でもそれですっかり元気になってしまってる僕がいた。


 なんかズルいよな、カカって。


 可愛い子はズルいです。

 えぇズルいですとも。


 でも何も悪いことなんてありません。

 えぇありませんとも。


 その手を握って笑えるのなら、きっとそれだけでいいのです。


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