カカの天下27「何が悪い」
「運が、悪い」
「はぁ、さようですかお姫様」
学校から帰ってきた妹カカは、開口一番そんなことを言った。
「聞いてよトメ兄! なんか世界が私をいじめるんだよ!」
「おお、世界を相手にしてんのか。おまえすげぇな」
「茶化すな!」
茶化す以外にどうしろと。
まぁ、このお子様の言動なぞいちいち気にしていたら身が持たないのだが、放っておくのもうるさくて身が持たない。
あれ、どっちにしても身が持たないじゃん。
……いいや。仕方なくいつも通り、話を聞いてやることにした。
とりあえずランドセル等を片付けさせて、僕とカカはちゃぶ台を間に挟んで対峙する。
「トメさんや、飯はまだかいの?」
「まだだよ。そんな妙にはまってるセリフいいから本題言えよ」
「ん、そうだね。じゃ、聞いて。私の運の悪さを!」
そんなもん話してどうなるのかは知らないが、まぁ話したいのなら話させてやることにする。
「まずね、今朝に登校してるときにね、靴紐が切れたの」
「そりゃ縁起が悪いな」
「でね、友達におはようって言ったら三回連続で無視されたの」
「そりゃ耳が悪いな」
「あとね、廊下ですれ違うとき男子とぶつかったんだけど、謝ろうとしたのに何も言わずに去ってったの。感じ悪いったらありゃしない」
「そりゃそいつが悪いな」
「次はね、算数の時間にあてられて、こんなもんわかんねーよ! って言ったらすごい怒られたの」
「そりゃ口が悪いな」
「それからね、授業中に今度お楽しみ会でやる劇の配役が決まってね、練習してみたんだけど皆もう全然だめで」
「そりゃ演技が悪いな」
「それ一回言った」
「ん? ああ、縁起と演技な。発音と漢字と意味が違う」
「そっか、なら合格」
合格ってなによ。
「それからそれから、放課後になって帰ろうとしたらまた男子にぶつかったの。そしたらその子、妙にふらふら吹き飛ばされちゃったの。私、そんなに強く押してないのに」
「あー。多分脚が悪いんじゃないか?」
「帰りの途中に犬にいっぱい吼えられたし」
「機嫌でも悪かったんじゃないのかなぁ」
「サエちゃんに遊ぼうって誘っても用事があるからって断られるし」
「都合が悪いこともあるだろ」
「途中で雨降ってくるし!」
「天気悪かったもんなぁ」
一通り言い切ったのか口を休めて、カカはひとつため息をついた。
「ほんと……運が悪い日だったよ」
「運というかいろいろ別のものが悪かったんだろうけど……ある意味、運が悪いか」
結局は単なる愚痴だろうが、とりあえず妹君は言いたいこと言ってすっきりしたっぽい。
僕は立ち上がり、夕食の支度にとりかかろうと台所へ向かう。
その途中、背後からだるそうな声が聞こえた。
「はぁ……宿題やる気起きない」
「そりゃおまえが悪い」
「あ、トメ兄。いまナス食べたくないから全部捨てといたから」
「麻婆茄子にしようとしてたのに!? タチ悪いぞおまえ!!」
今日も、そんな感じの我が家。