カカの天下260「トメの初恋」
どうも、トメです。
何の因果か誰かの陰謀か、カカ達に僕の初恋話をすることになってしまいました……
「トメ兄。はやく」
「風のようにはやくー」
「光のようにはやくっ」
「はいはいわかったわかった。えーっと、あれは小学校に上がる前だったかな」
「トメ兄、初恋はやいね」
ああ、本当に随分と前の話だ。その頃のことはあまり覚えてないが……初恋だったせいか、その部分だけはわりと覚えてる。
「初恋っていうのは、そのとき隣の家に住んでた女の子でね、物心ついたときからの幼なじみで、僕はその子と毎日のように遊んでたんだ。例えば……」
「今日はドリブルして遊びましょ!」
「いいよー。でもボールはどこ?」
「あんたをドリブルするのよ!」
「ぼくっ!?」
「うりゃうりゃー!」
「うあああああああ!」
「懐かしいなぁ」
若かりし頃の思い出に浸りながら目を細める。
「ね、ねぇカカすけ。これって仲いいのかしらっ」
「んー、いいんじゃないかな。これくらいなら」
「カカちゃんもやりそうなことだしねー」
「なるほどっ」
「続き話していいか?」
「「「あ、どぞどぞ」」」
そんなある日。
いつものように近所の公園で僕らは遊んでいた。
「今日はパスして遊びましょ!」
「ぼ、ボールは?」
「もちろんあんたよ!」
「え、ちょ、ちょと待って……あああパスってどこの誰にすんの!?」
「画面の前の皆様に! へい、パース!」
「また変なテレビ見たでしょおおおお!!」
そのとき、その子がふと動きを止めたんだ。
何かと思って彼女の視線の先を見ると、公園の隅で男の子三人が寄ってたかって一人の女子をいじめているのが見えた。
「あいつら、また……」
「知ってる子?」
「いじめてるほうはね。ちょっと行ってくるわ」
彼女はそう言ってその男子たちへと向かっていった。
「気の強い子でねぇ」
「トメ兄の話を聞いてると、気が強いっていうより」
「単純に強いんだと思いますー」
「それもそうだな。で、なんでサユカちゃんは『の』の字を床に書いてるの?」
「なんだかんだでやっぱ仲いいと判断したんだねー」
「自分で聞いといて落ち込んだかサユカン」
「……よくわからんけど、話進めるぞ」
「ドリブル攻撃!」
「いだだだだだだだだだだだだだ!!」
あれ痛いんだよなー、なんて思いながら僕はその子が男子をやっつけるのを見ていた。
「く、くそぅ……とんでもない攻撃しやがって!」
「いたいよぅ……うぅ、もうおまえなんかと遊んでやらないからな!」
「へんっ、望むところよ!」
「おまえみたいならんぼーな女、どうせ俺ら以外に友達いないんだろ!」
「残念でした! オレにはこれっくらいのことなら笑いながら付き合ってくれる、最高の友達がいるのだっ!」
その子のその言葉を聞いたとき、どきっとした。
僕さえいれば他はいらない。そう言ってるように感じたのかもな。
ドリブル攻撃は笑えないが。
「うぅ……覚えてろー!」
定番すぎる捨て台詞を残して、去っていくいじめっ子たち。
「覚えてたら今度はパス攻撃してやるわーっ! ふぅ。大丈夫かーってあれ? 女の子いない」
「に、逃げちゃったみたい」
「そっか。ま、いいや。へへ」
そのとき笑ったその子の顔が、すごく格好よく、可愛く見えて。
気がついたら好きになっていた。
「ま、子供のころの初恋なんてこんなもんだよな。ただ仲良くしてるだけで意識するようになったり……なんでサユカちゃんドリルみたいに『の』の字を書き続けてるの?」
「や、だって。ねぇ?」
「大丈夫だよサユカちゃん。トメお兄さんは初恋は実らなかったって言ってたんだよ? ちゃんとその子をボロクズのように捨ててくれたよー」
「人聞き悪いことを――」
「そんなことよりっ!」
うぉびっくりした。
「トメさん……その子、もしかしてわたしたちも知ってる人ですか!?」
「へ? あ、あぁ。よくわかったな」
「やっぱりっ!」
「わ、そうなんだー」
「自分のことをオレって言う女の子……って聞いて考えてはいたんだけど」
「おぅ、それでその初恋が終わったときの話だけど――」
そろそろ告白とかしちゃおうか、とか思っていたとき。
珍しく神妙な顔したその子が、こう言ったんだ。
「引っ越すことになっちゃった」
「……え?」
せっかく好きになったのに……
そのときはそう思ったよ。
次の瞬間、砕け散ったがな。
「隣に」
「……はい? 隣って、僕んちだけど」
「うん、だから隣に」
「……どゆこと?」
「んとね、昨日初めて知ったんだけど――オレ、トメの姉らしい」
「え? ぇ? ええええええええええぇぇぇぇええぇぇぇええええぇぇ!!!!」
「「「姉かい!!!」」」
「うあぁ!? な、なんだよ、わかったんじゃなかったのか?」
「や、私はてっきりテンカ先生かと」
「私もー」
「ていうか、お姉さんだと知らなかったのはどういうことですか?」
「うちの両親が五年ほど夫婦喧嘩して別居してたんだとさ。離婚寸前までいったから子供に余計なことは言わないようにしてたらしい」
「別居って……隣じゃん!」
「たまたま隣に母さんの親戚が住んでてな、お世話になってたそうだ。ま、そういうわけで僕の初恋は終わりだよ」
「あ、あのトメさん。その、お姉さんに、もう好きとかそういう想いはもってないんですかっ」
「もつわけないだろ実の姉に」
僕は極めて健全ですので。
あと、すっかりバケモノになってしまったアレに恋愛感情なんか持ちようがない。
「はいはい、話は終わり。風邪がうつらないうちに帰った帰った」
「「はーい」」
カカと一緒に二人を見送りに玄関へ。
「おじゃましましたー」
「今日はお話、ありがとうございますっ!」
丁寧にお辞儀する二人。
そしてぼそっとカカが言う。
「にしてもあの姉にトメ兄が初恋……ぷ」
「「ぷ」」
「おまえら帰れ!!」
あぁ話すんじゃなかった!!
僕だって今から思えば「ぷ」だよ!
……や、自分のことだから笑えねぇ。
はい、ようやく書き終えたトメの初恋、こんなオチです(笑)
初恋は実らない……皆さんはどうでしょうか? 私も実りませんでしたが、当時小さいころのことでもそのときのことは結構覚えてるんですよねー。
そうそう、話は変わりますが。
今回、携帯小説としてモバゲーのサイトにもカカの天下を投稿していくことにしました。まぁ先日この作品の文章を勝手に使われていたりもしましたが^^;そのサイトで掲載すること自体はいいことだと思いますので。管理は友達に任せたので『ルシカ代理人』という人がちょっとずつ話を載せていく予定です。特に文章を変えたりはしませんが、もしお暇でしたらそちらも覗いてみてください^^
にしても姉って……ぷ。