カカの天下26「眠れ姫」
「ぐほぁ!」
こ、こんにちわ……トメです……
いきなり聞き苦しい音声を聞かせて申し訳ない……
しかし許してほしい。なにせ僕はいま寝ていたのだ。なのに突然腹に人間っぽい重量が乗っかったのだから「ぐほぁ」くらい言ってしまうのは仕方ないだろう。
まぁ驚いたとはいえ、どういう事態か予想はつくのだが……
僕は腹への重量をうざったく思いながら上半身を起こし、部屋の電気をつけた。
そこには予想通りの光景。僕のお腹に跨っているのはいつ何時も常に傍若無人と名高い妹、カカである。
「……何をしておるか、妹」
「トメ兄、寝れない」
時計に視線をやると、午前1時。お子様のカカはいつもはとっくにご臨終の時間だ。はて、昼寝とかしていたようには見えなかったんだけど。
「学校で寝すぎた」
「学校でかよ」
「だってうちの担任の先生が何を思ったのか午前中めいっぱい使ってアリクイのお話するんだもん。いい加減眠くなるよ」
「なぜにアリクイ」
「大好きなんだって」
担任というとあのぽやーっとした先生か。なるほど、アリクイとかナマケモノが好きと言われても納得できそうなキャラクターだ。むしろアリ食ってそうだし。
「でさ、寝れないんだけどどうしたらいいのかと思って」
「とりあえず僕にボディーブロウしてみたわけか」
「そゆこと」
「おやすみ」
僕は構わず布団を被って寝ようとする。しかしカカは器用にも跨りながらジャンプし――全体重をかけて僕を押しつぶした。
「ぐはぁ!」
「ほらほら、そんな芝居がかったかけ声いいからさっさと眠れる方法教えてよ」
「本気で痛いんだよ!」
「軟弱者ー。粗忽者ー」
「意味わかってんのか……?」
やれやれ、と僕は起き上がり、とりあえずお腹のカカをどかす。
「そうだな……お腹いっぱいになったら寝れるっていうよな」
「そんなことしたら太るじゃん」
「あとはお酒飲んだり」
「私、未成年」
「ええい、こんなときだけ常識的になりおって」
とはいえ小三の子供に酒はまずいだろう。僕の友達は小五で親に連れられ飲み会デビューしたけど。もちろん潰れたらしいけど。
寝起きでふらふらした頭でなんとか考える。安らかに眠れる方法……
「死ねば?」
「殺すよ?」
「ごめん」
眠いせいか過激なこと言っちゃった。子供相手にいかんいかん。
「おお、温かい牛乳でも飲むか? 結構寝れるぞ」
「牛乳嫌い」
「あーこんにゃろ腹立つ」
一体どうしろってんだ……睡眠薬なんてものはこの家にないし……
お。いいこと思いついた。
「カカ、ちょっとこっちきな」
「ん」
お腹からどかされて少し離れて立っていたカカはてくてくと僕に近づいた。
「後ろむいて」
「私の後ろに立つな!」
「座ってる」
「ならいいや。ん」
素直に従うカカ。僕はカカの両肩を掴み、首筋の真下あたりを軽くもむように押してやった。
「なにしてんの?」
「眠れるツボついてる」
「おお、そんなの知ってるの?」
「まあね。だんだん眠くなってきたろ?」
「おー、そいえば、なんか、眠く……」
声が眠そうになってきたので適当なところで離す。
「おし、これで寝れるだろ」
「うん……寝れそう……ありがと」
本当に眠そうにふらふらしながら、カカは自分の部屋へと戻っていった。
……子供って本当に単純だな。
よく眠れるツボなんて僕は知らない。こういうのは案外「眠い、眠い」と思い込めば眠れるもんなんだ。だから適当に眠くなる理由を作ってやればいいだけのこと。
だってねえ、肩もんだだけで眠くなるはずないじゃん?
さて……僕も寝よ。
……
…………
………………目が冴えて寝れん!!