カカの天下257「サエちゃんがいっぱい」
どもー、トメです。
今日の夕方にサエちゃんたちが旅行から帰ってくるとのことなので、僕とカカとサユカちゃんは駅の改札口前まで迎えにきていました。
言い出したのはサエチンが切れておかしくなってきたカカです。
サエチンとは何かって? たばこのニコチンみたいなもんですよ。
「サエちゃん……サエちゃーん!」
「ねぇカカすけ。君、なんか病気っぽいよ?」
同感だ。
「ま、サエちゃんを吸えば治るだろ」
「す、吸うって、どこをですかトメさんっ」
「え? あ、そだそだ。たばこじゃないんだった。吸わないよな……」
吸うとしたらどこだろうか。
「あ、サエちゃん!」
カカが嬉しそうに駆け出すのを見てホッとした。
よかった。これで妙なテンションのカカとオサラバできる。よかったよかっ――
「サエちゃん! しばらく見ないうちに歳をとっちゃって……」
「……あぃ? あんじゃってぇ?」
よくねぇよ!!
「カカ! その人はサエちゃんじゃない!」
どっからどう見てもばーさんだろうが!
「え、でも帽子」
「白い帽子かぶってるだけのばーさんだろうが!」
「失礼な若造じゃな!」
「え、あ、すみませんおばあ様!」
「わしゃじーさんじゃ!!」
「……うそん」
だってスカートはいてるのに……あ、怒って行っちゃった。
「か、カカすけ。大丈夫?」
「あー、サエちゃんが見える。なんか忙しそうに働いてる……」
「それ駅員! サエちゃんの二倍は身長あるのにどうして間違える!」
「二倍……はありますね、たしかに。何食べたらあんなにおっきくなるんでしょうっ」
「サエちゃん!」
「そりゃサエちゃん食べたらそれくらいおっきくなっても不思議はないけどさ」
「何が起こるかわからない毒キノコみたいなもんですよねっ」
「それ、なんか姉みたいな扱いだなぁ……って、あれ。カカは?」
そういえば「サエちゃん!」って叫んだよな。っていうことは……
「会いたかったよー!」
また違う人に声かけてるし!
「サエちゃん! しばらく見ないうちに真っ黒になって……」
「カカ、それ黒人さんだから」
いきなり抱きつかれた黒い外人さんは困惑して――
「オゥ! カワイイデスネー」
してないし喜んでるし。
「オゥ! ソレホドデモー」
「ニホントワ、ナンテスンバラスィークニナノデショー!」
「イェース! アイアムジャパーン!」
おまえが日本じゃないデショー。
「イェーイ! イッツロリッコガール!」
「イェーイ! アイアムイェーイ!!」
なんか仲良くなってるし。
「メールアドレス交換した」
なんか交友関係広めてるし!
「カカすけ……君すごいわね、わたし英語なんて全然わかんないのにっ」
や、いま使われた英語ってイェーイくらいなんだけど。
「イェーイ♪」
人違いしたくせに楽しそうだなカカ。
「あ、サエちゃん!」
今度はなんだ――と思ったら本物だよ!
「サエすけっ」
「わ、お出迎えだー」
お土産っぽい荷物を抱えたサエちゃんは嬉しそうに微笑んだ。その顔を見る限り、旅行は楽しかったみたいだな。
「サエちゃーん! サエちゃあああん」
「あれ、カカちゃん熱ある?」
「……え?」
僕とサユカちゃんは顔を見合わせ、慌ててカカに駆け寄った。
おでこに手をあてる。確かに熱い。
「もう、トメお兄さん! ずっと一緒にいて気づかなかったんですかー?」
「……面目ない」
顔が赤いのはサエちゃんが帰ってくるんで嬉しいからとばかり……
「風邪ひいてるかどうかなんて見ればわかるじゃないですかー。ちょっとおかしいなーとか思わないとダメでしょー!」
「だ、だってこいつ、いつもおかしいもん」
「言い訳しないのー! 早くカカちゃんを休ませてー!」
「は、はい!」
「うぅー、サエぢゃーん」
「カカすけ。とりあえずベンチいこっ」
サエちゃんに会って気が抜けたせいか、カカはフラフラと倒れそうになっていた。
――結局その日はサエちゃんのお土産話も聞けないまま、カカを病院へと連れていって終わった。ただの風邪だそうだ。
サエちゃんサエちゃんと病気みたいに言ってると思ったら、まさか本当に病気だったとは……
すまん、カカ。気づいてやれなくて。
だっておまえ、いっつも変なんだもん。
今日のカカは二割り増しくらいに変だったのに……トメなら気づけると思ったのに!
まぁ、えてして恋の病と風邪の病は似たようなもんですし(そうか?)気づきにくいのも仕方ないのかもしれません。
それにしてもアイアムイェーイ!
……や、言ってみたかっただけです(笑)