カカの天下254「かなしいカボチャ」
「ただいまー」
おかえりー、の声が聞こえなくて寂しいお兄ちゃんなトメです。うあ、お兄ちゃんとか自分で言うと気持ちわる。
さて、靴はあるのに返事がないとはどういう了見だあの妹……ん?
いつものように玄関にあるホワイトボードを見てみると、そこには……
『本日の夕食はカボチャ定食!! 居間にあります』
そんな普通ぽいことが書かれていた。
普通っぽい……
カカ、病気か?
心配しつつ、とりあえず玄関へあがる。
そして居間を覗くと――
「さぁ召し上がれ!!」
テーブルの上に乗っているカカの姿を見て僕石化。
「召し上がれ?」
「……あ?」
もう一回言われて我に返る。
「何を召し上がれと?」
「カボチャ定食な私を」
そう。
カカはカボチャ定食になっていた。
「その格好はなんだ?」
「可愛いっしょ」
可愛いかと聞かれればとてつもなく可愛いと言わざるをえないが。
「そ、その格好はなんだと聞いてる」
べ、べつに頬の緩みを我慢してるわけじゃないんだからな!
「なにって、だからカボチャだよ。下から言うと、まずはカボチャの靴下!」
ニーソックスのオレンジが眩しいゼ。
「カボチャパンツ!」
丸出しだぞ。
「カボチャのTシャツ!」
黒い三日月な目がキュートだね。
「カボチャの手袋!」
小カボチャに手を突っ込んだだけだろが。
「カボチャの仮面!」
あ、去年僕が作ったやつだ。
腐ってる。
におう。
「明日はこれでサエちゃんを脅かすの!」
まぁ確かにそのスカートはき忘れた格好――じゃなくてカボチャだらけな格好ならインパクトあるだろうさ。
「なるほどね……とりあえず仮面は作り直してやるよ」
「わ、ありがと。臭かったんだよ、これ」
だろうな。よくかぶるよこんなの。
「カカ、ずいぶんと浮かれてるな。そんなに明日が楽しみか?」
「当然! ちゃんと皆に声をかけて計画立てたんだよ! ハロウィンなところはちょっと被っちゃうけど、せっかくだし私のときよりもっと盛大に――」
そのとき、突然電話が鳴り響いた。
浮かれてるカカは元気よく「私が出るー!」と電話へとすっ飛んでいった。
「はい、もしもし! 笠原ですが――あ、サエちゃん?」
お、明日の主賓か。これはこれは……
「明日? えっと、何の話だったかなぁ」
おー、ごまかしてるごまかしてる。
「……え。明日から、旅行?」
……なに?
「そう、なんだ……おじさんとおばさんからのプレゼントで……何時から行くの? そう、そっか……じゃあしょうがないよね。うん、ほんとは覚えてた……けどわかった。見送りにいくね! いやいや、やっぱりそういうのは当日に祝わないとさ。うん、うん……わかった。じゃ、また明日ね」
がちゃり、と電話を切ったカカは……目に見えて落ち込んでいた。
「カカ……サエちゃんは」
「明日から旅行なんだってさ!」
わざと明るい感じに言ってみせるけど、悲しみが隠しきれていない。
「あーあ、せっかくいろいろと用意したのに……全部、ダメかぁ」
「えっと、あれだ。ほら、旅行から帰ってきてからってわけには」
「こういうのは当日じゃないとだめだよ。さ! そうと決まればサユカンとか姉とかに電話しないと! 明日は皆で見送りだ!」
威勢よく言って電話に向かうカカ。
でもその背中は震えていた。
「おっきなプレゼントの箱に私が入ってさ、飛び出すの。私がプレゼントだよ、食べてー、みたいな感じで。おもしろいと、思わない?」
「……ああ、サエちゃん。喜んだだろうな」
「はぁ……せっかくのサエちゃんの誕生日。ちゃんと祝ってあげたかったのに」
「祝ってやればいいだろ。こういうのは気持ちが大事だし」
「うん……そうだよね。サエちゃんも『お祝いの言葉がもらえるだけですごく嬉しい』って言ってたし。でも……でもさ」
そうだよな。
わかってるよな、そんなこと。
でも、盛大に祝ってあげたかったんだよな。
「カカ。暗い顔は今日だけにしとけよ。そんな顔で見送られたら、サエちゃんだって誕生日の旅行を楽しめないからな」
「うん……あ、サユカン? 実は明日、サエちゃんが――」
カカの電話する声を聞きながら、思う。
両親からのプレゼントで旅行っていうのはいいと思う。
でもさ、タイミング悪いぞ神様よぅ。
こんな展開、誰も望んでないだろ。
……責任とって、なんとかしろよ!
さて、気づいていた方はいましたでしょうか。
そう、カカの天下の最初のほうを見ればわかるとおり……ハロウィンと文化の日の間にサエちゃんの誕生日があったのです!
ちなみにその間にある「めくりめぐり」の話は後日談を混ぜた単独話なので、細かい日にちについてはツッコまないようにお願いします^^;
しかしその誕生日もカカのときのようにはいかないようです。旅行行きが変更になったりはしません。このままカカは落ち込んだまま、サエちゃんを盛大には祝えないのでしょうか。
――明日へ続きます。