カカの天下253「おねだりおねだり」
ども、ぼけっとテレビ観てるトメです。
今見ているのは『初恋は実らない』という、なんともネガティブなタイトルの恋愛ドラマです。
でもタイトルのわりには、主人公とヒロインは一話でくっつく→二話で別れる→三話でもっかいくっつく→四話でもっかい別れる……と、こんな感じで実って実らなくてを繰り返している。せわしないけど、これはこれでおもしろい。
ヒロインにベタぼれされてる主人公がちょっとムカつくけど。まったく……こんな綺麗な人に想われてんならちゃんと気づいてやれよ。
それにしても初恋、かぁ。たしかに実らなかったな。というかそもそも……
「トメ兄!」
と、苦い想い出を振り返ろうとしたところをカカの声に遮られた。
「テレビ見てるの? 手伝うよ!」
「どうやって」
「効果音つけたげる」
カカはテレビの画面に見入った。ちょうどよりを戻す場面だ。
『私、やっぱりあなたのこと好きなの!』
「ずぎゃーん!!」
『ぼ、僕もさ!』
「きらりーん♪」
『ちょっと待った! 彼はあたしのよ!!』
「びびでばびでぶー!!」
「やかましい」
スパーン、と頭を叩いて黙らせる。
「効果音はわかるが、最後のはなんだ」
「唐突に登場したから唐突に思いついた音を言ってみたの」
「あそ。とにかくそんな手伝いはいらん」
「じゃあ他に何かお手伝いさせて!」
なんでそんなに……あぁ、そっか。
お駄賃目当てか。もう日がないもんな。
「んー、させてやりたいけど、今は特に手伝ってほしいことはないな」
ゆったり休憩中だし。ドラマは終わったけど。
「そこをなんとか……トメ兄どこいくの」
「トイレだよ」
立ち上がって居間を出る……なぜかカカもついてくる。
「トメ兄、トイレ手伝うよ!」
「何をどう手伝うのかは興味あるが、怖いからいらん」
ひっついてくるカカを引き離し、ドアを開けてトイレイン!
「ねー、とめにー」
ドア越しから何か聞こえるけど無視。
ふぅ……。
む、なんかこの状態、最近もあったような。
「じゃあせめて応援する! フレー、フレー、ト・イ・レ! ガンバレガンバレこ・う・も――」
「いらんと言うに!!」
恥ずかしいことを大声で言うな! これだから子供は……
用をすませて外に出ると、そこには手を差し出しているカカが。
「応援料ちょうだい」
「僕が恥ずかし料ほしいくらいだ」
その手を跳ね除けて居間へと戻る。そして頬を膨らませながらもついてくるカカ。
「おねがいとめにー! おねがいおねがいおねがいとめにぃー!!」
「そんな舌ったらずな口調で言ってもダメなもんはダメ!」
ちょっと可愛いけど。
「よし……じゃあ」
あぐらをかいた僕の内腿の上に座り、寄り添ってくるカカ。なんだなんだ。
僕にぴったりくっついたまま、カカは自分の胸元のシャツを引っ張りながら流し目らしきものを送ってきた。
「おにぃさん♪ ここにチップ、はさんでくれないかしらぁん」
「きしょ」
「キショいって言うな!」
や、だってねぇ。こんなガキに迫られても。
「だいたい挟めるような胸などなかろうに」
「脇に挟むから大丈夫。かもんべいべ」
「色気も何もねーな」
体温計じゃあるまいし。
「ね、とめにぃ。お願い!」
「つーん」
「ツンしたんならデレしてよー」
それ僕のキャラ違うし。
「ねね、お願い」
「何もせずにお金をやれと?」
「うー……これからしばらくお駄賃なしでお手伝いするから!」
「つーん」
「つ、次の算数のテストで80点以上とる!」
「つーん」
「うぅ、えと、えと……これからトメ兄のことお兄ちゃんって呼んであげるからっ!」
「つー、ん?」
それってなんかプラスなのか?
「ああもう! じゃ次のテスト、全部80点以上とるからっ!」
ふむ、こんなとこか。
「いくらほしいんだ?」
「……あと700円」
「今言ったこと、守れるな?」
「うん!」
「守れなかったら身体で払ってもらうぞ」
「いやん」
「いやなのか。じゃあ――」
「うそですっ! いやじゃないです喜んでこの身を捧げます!」
「よろしい。ほれ」
財布を取り出して小銭を渡してやると、カカは飛び上がって喜んだ。
「やったぁ! お兄ちゃんがやっとデレッた!」
「デレ言うな」
「じゃ早速買ってくるね! ありがとお兄ちゃん!」
ま、目的が目的だしすぐにあげてもよかったんだけどね。使える機会は使わないと。
……にしてもお兄ちゃんか。
意外といいな。
トメはすごいですねぇ。
私だったらこんなおねだりされたら一発KOですよ。
あ、ちなみにカカにちょっと邪魔されてしまいましたが……近々トメの初恋話やりまーす^^