カカの天下252「体育の授業、用意!」
「用意、ドン!!」
ちわ、合図と共に走り出していくクラスメイト達をぼやーっと見ているカカです。
私が走る番まで体育座りで待っているのですが……暇です。テンカ先生は全部生徒に任せてベンチで昼寝してるし。
「用意、ドン!」
「ね、サエちゃん」
「なにー?」
暇だからちょうどよく隣に座っていたサエちゃんに声かけた。
「走るときの合図さ。いっつも用意ドンで飽きないのかな」
「飽きるとかいうものじゃないと思うけどー」
「だってさ、夕飯がいっつもカツ丼とか牛丼だと飽きるでしょ」
「それは飽きるね」
「じゃあ用意丼も飽きるでしょ」
「それもそうだねー」
うん、ツッコむトメ兄と違ってサエちゃんはすぐに乗っかってきてくれるから好きだ。
「というわけで、新しいのを考えたらどうかと」
「例えば?」
「んとねー」
似たような言葉を考え中……考え中……ぴこーん(思いついた音)
「用意、パン!」
「パンの用意? 朝ごはんかなー」
私はあんパン派だ。
「用意、メン!」
「お昼はラーメンかー」
味噌味がいい。
「用意、ベン!」
「食べたあとはお便所?」
発射用意はオッケーかい?
「用意、あん!」
「あん♪」
ああん♪
「用意、じゃん!」
「じゃじゃーん!」
「じゃじゃじゃじゃーん!!」
「あの……カカちゃんの番だよ?」
「じゃん?」
意味も無くエキサイトしていた私はアヤちゃんの声で我に返った。
「それじゃいってくるじゃん」
「いってらっしゃいじゃーん」
サエちゃんに手を振って、いざスタートラインへ!
クラスメイトと並んで位置につく。
「用意――」
「だけ!」
私の言葉で変な沈黙。
「……だけ?」
「用意だけは終わったよ。続きをどうぞ」
「は、はぁ……」
思いついたからつい言っちゃった。
あ、もいっこ思いついた。
「用意、ド――」
「どんとこい!!」
喉を裂く気合と共に猛ダッシュ!
走る走る走る!
やった、いっちばん!!
……あれ?
「なんで他の人、走ってないの?」
「あの……今のどこで走ればよかったの?」
「あの……今のどこでストップウォッチ切ればよかったの?」
困惑してるクラスメイト達に、私は呆れて言った。
「あのね、『どんと来い!』って言ったんだから、『どん』で来ればいいに決まってるでしょ」
「あ、そうなの?」
「そう言われてみれば……そうなのかぁ」
首を傾げつつも納得するクラスメイト達。
「……なんかつまんないなぁ」
「んなこと言われてわかるかっ!!」
「あ、これこれ。何かツッコミないといけないような気がしたんだよ。ありがと久々登場のテレパシートメ兄! ……あれ。ここグラウンドの真ん中なんだけど姿なし……本当にテレパシー?」
「土の中」
「なるほど。さすが忍者だね」
「ではサラバ」
「またねお父さん」
親子の交流は順調だ。
「あ、あの、カカちゃん。もう一回走ってもらっていい?」
「仕方ないなぁ」
まったくもう……ほい、位置についた。
「よーい、ド――」
「ドドドドドドドド!」
「いつ始めんだよ」
スパーン!! と頭を叩いたのはテンカ先生。
「お。先生、起きたの?」
「あぁ。そろそろカカの番だし変なことするだろうと思って起きた」
「器用ですね」
「まぁな……お」
テンカ先生はふと何かを思いついたようにポンと手を打った。
「こんなのはどうだ。用意、ヘン!」
や、びしっと指差されて言われても。
「えと、変なことすればいいんですか」
「おまえはいつも変だから用意必要ないか」
失礼な。
「まぁいいや。時間ないからさっさと走れ」
ということなので、この後はドドドドドッと普通に走らされましたとさ。
授業シリーズ体育編です。
用意、便! が気に入ってます。
投票と一緒にリクエストとかも溜まってきてますが……まとめるまでもう少々お待ちください^^;なるべく応えていきますので!