カカの天下25「冬のお手紙」
おはようございます、いつも愚妹がお世話になっております、トメ兄です。
今日はちょっとご報告したいことがあります。今朝、起きて外を見るとちらほらと白い粉が降っていました。
そう、雪です。
今年初雪となります。
それが嬉しくて、ちょっとあなたに聞いてもらいたくて手紙を出しました。
「きもい」
なんて、ちょっと感傷的過ぎますかね。
「きもいってば」
まぁ、そんなのもたまにはいいかと思い――
「あーきもっ」
「うるさいぞ!」
人がいい感じに浸りながら手紙を書いていたっていうのに……このお子様はなぜ邪魔するかなぁ。
「それ、お姉への手紙でしょ。絶対サブイボたつよ。間違いない」
「や、せっかく珍しく住所わかるんだし、たまには真面目に書いてみようかと」
「きもいだけだっての」
「なあ、そのきもいって言葉、言われると結構傷つくんだぞ?」
「知らないよ」
「うわ冷た。雪が降ったからか?」
まぁ、そんなこんなで。
カカの言うとおりで僕はいま、日本全国を勝手気ままに渡り歩いている姉に手紙を書いていたところなのだ。
この姉はたまにお土産として妙なものを送ってくる以外は一年に一回交流があるかどうかというとんでもないヤツなのだが、一応は血を分けた姉。手紙くらいは出してやろうという素晴らしき家族の絆を発揮してみたわけだ。
「しかたないなぁ。じゃあ私がちゃんと見本を見せたげるよ」
「へえ。じゃあ何を書きたいのか言ってみろ。そのまま僕が書いてやる」
「おっけー」
カカは自信満々に頷いて、コホン、とわざとらしく咳払いをした。
「やっほーお姉。カカだよ」
さてさてカカ選手、さすがに最初は無難な滑り出しです。冬だけに。
「そっちはお便秘ですか? 私は電気です」
おっと。予想通り、なんか変な感じになってきました。
「今日はね、初雪が降ったんだよ。そろそろお姉も冬眠の時期だよね。クマみたいに」
なぜかケンカ売ってきました。
「こっちはね、もうトメ兄が大変なんだよ。ご近所のおねーさんに欲情するわ、そのくせそこの家の犬にセクハラするわ、お姉が送ってきたものをゴミ処分みたいな感じで友達の誕生日に送りつけるわ、海へ落ちて魚に助けられるわ……あ、さっきの冬眠っていうのもトメ兄の発言だから」
いつの間にか僕がケンカ売られてました。
「ほんと、どうしようもないよね。というか、わけわからないよね。なんなのかねこの人」
ほんとなんなのかねこの娘。
「私はね、ちゃんといい子にしてるよ。もうクラスの男子なんか私が廊下を通るだけで避けて頭を下げてくるくらいなんだから」
それは俗に言う番長というものではないでしょうか。いつの間に学校シメたんだこいつは。
「それで、私が結局は何が言いたいかと言うと……トメ兄はお姉のことをバカにしてるってこと。冬眠なんかしてる場合じゃないよ?」
その発言でおまえも姉をバカにしてると思うんだが。
「あともう一つ」
ふむ。
「お年寄りが喜びそうな微妙な高級品ばっか送ってくんな!!」
それも同感だ。
「でもあえてもっとやれ!」
どっち。
「そっち」
なんで僕の心の声に応えてんの。
「ふう、まぁこんなところかな」
一仕事終えた顔でカカは言った。
「ってわけで、皆元気でやってます、っと。よし完成」
「……あれ? 私の力作は?」
「誰が書くかそんなもん」
「えー」
カカは不満げに声を上げたが、僕は構わずに封筒に手紙をいれた。
……数日後。
姉から返事が帰ってきた。
「どれどれ……なんだ、短いな」
「なんだって?」
「えーっと……トメの根性叩きなおしに近々もどる!!」
「わ、お姉ちゃん帰ってくるんだ」
「なんでだ。僕、自分に不利なことは何も書かなかったのに……!」
「ああ、私も手紙出したから」
「は!?」
「どうせトメ兄のことだから無視するだろうと思って。あれ言いながら私も手紙書いてたんだよ」
しまった……手元に集中しすぎて気づかなかった。
そして、近々姉が帰ってくる。
武者修行するとか言って家を飛び出し、喧嘩とカツアゲで生計を立てながら旅をしているという我が家の伝説の姉が……
……いまさら気づいたけど、この姉って犯罪者?