カカの天下249「進化するトイレ」
「トメ兄、あのさ。聞きたいことが」
「ちょっと待ってくれ。トイレ行ってからな」
トイレトイレ……ども、ちょっとそわそわなトメです。
「トイレと私、どっちが大事なの?」
「今はトイレだ」
「……いいなぁ、トイレ。いっつも皆の人気者で」
「トイレ羨ましがってどーする」
「だってさ、時には行列までできるんだよ? セイジ食堂でも行列なんて見たことないのに」
あそこはほとんど地元の常連の人しか使わないからなぁ。おいしいんだけど。
「名前変えてトイレ食堂にしたらお客さんくるんじゃない?」
どんなメニューが並んでいるのか想像したくもない……おそらく居酒屋『病院』と似たようなノリで……うぇ、したくないと言いつつ想像してしまった。お食事中の皆様がいたらマズイから言わないけど。
「便秘定食とか、売れるかも」
「せっかく考えないようにしてたのに!」
でも比較的ソフトな定食を言うあたり、カカも空気を読んでいる。
「便秘にいいものばっかりの定食。よさげじゃん?」
「でもそれ頼むと『私は便秘です!』って公言することになるぞ」
「本当に悩んでる人はなりふり構わないもんだよ」
おまえ悩んだことあるんか、ってそんなことより。
「ところでさ、そろそろ入っていいか?」
実はもうトイレの扉の前でドアノブを握っているとこだったりする。トイレへと立った僕をカカがトットコとついてきたのだ。
「トイレと私、どっちが――」
「トイレ」
無駄に引きとめようとするカカの言葉を振り切り、僕はトイレへ入った。
「ふん、だ。いいもんいいもん。そんなにトイレがいいなら便器にキスでもしてればいいんだ!」
なんか拗ねてるけど放っておく。
ふぅ。
……ちょっと沈黙。
「で、おいしい? その定食」
「どの定食だよ!?」
「えっと、し――」
「言わんでいい!」
「じゃあおいしいかどうかだけ」
「何も食べんし飲まんわ!」
ここは食堂じゃないっての。
こんなフローラルな香りで落ち着いた色調で静かで考え事に適した場所……って、あれ、なんか食堂、というか喫茶店の説明みたいになってる! トイレと喫茶店って近いのか!?
「新感覚、トイレ喫茶?」
「メイド喫茶みたいなノリで変なもんつくるなっ! あと人の心を読むな!」
「トイレって独り言多くなるよね」
「……あ、言っちゃってた? ごめん」
そら僕が悪いな。恥ずかしながら素直に謝る。
……そういやトイレに箸とかフォーク置いてる店もあったけど。あの店、しばらく行ってないなぁ。
さて、と。
用を足してトイレを出る。
目の前にはお辞儀をしたカカが。
「ありがとうございました」
「だから食堂じゃないと言うとるでしょうが」
「小サイズをお一つで二百ハ十円になります」
「高いのか安いのかよくわからない値段だな」
何が小サイズなのかは気になるけど聞くのやめとこ。
カカの相手を適当にしつつ、居間へと戻る。
「で、聞きたいことってなんなんだ?」
「あのさ。思ったんだけど……トイレにも、男のトイレと女のトイレあるじゃん?」
「あるな」
「じゃ、うちみたいに男女共同のトイレって、オカマなの?」
「……あぃ?」
「便器なのにお釜とはこれいかに……あ、これで釜飯を!」
「だから妙なメニュー作るなっつうに!!」
――後日。
テレビにて『トイレカフェ』の特集を見た僕は唖然とした。
「……あるんだ、トイレの」
ちなみにカカは怒った。
「アイディア盗られた!!」
「や、どう考えても店作った人のほうが早く思いついただろ」
にしても驚いた。
いるんだ、カカみたいな発想する人。そしてそれを実現しちゃう人。
……ちょっと行ってみたいじゃないか。
メニューに釜飯あったら怖いな。
これをほとんど書いたあとに調べたんですけど、トイレカフェって本当にあるみたいですね。
さすがにカカが発案したようなメニューはないでしょうが(笑)
さてさて、明日はおなじみのカカラジです。
新しい企画なんか発案しちゃったりする予定です。まぁ、わりとありきたりな企画ですが……お楽しみにっ。