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カカの天下  作者: ルシカ
243/917

カカの天下243「魔法の誕生日」

「おはよう、カカ」


「……テンカせんふぇ?」


 おはようございまふ、カカでふ…… 


 なぜにテンカ先生が私の部屋に?


「実はな、今日は家庭訪問、というか家庭教師にきた」


「……ふぇ? なんで」


「てめーがいっつもテストに変なこと書いてて実際の学力がわからないからだよ! いいから顔洗ってこい!」


「あ、あと五分」


「おぅ、あと五分で顔洗って飯食ってこい!」


「あぅ……」


 早くしろー、とパシパシ叩いてくるテンカ先生に急き立てられ、寝起きで重い頭を抱えながら身体を起こす。


 せっかくの土曜日なのに、せっかくの誕生日なのに……ため息をつきながら部屋を出るとき、ふと振り返ってテンカ先生に聞いてみた。


「テンカ先生。今日って何の日か知ってる?」


「ああ、カカの――」


 お!


「厄日だ」


「……えー」


「いいから早くいけ」


「しくしく……トメ兄は?」


「仕事だ」




『ご町内のみなさま、本日は――』


「朝っぱらからうるさいなぁ。なんだろアレ」


「ほれ、余計なこと気にしないで手を動かす」


 選挙活動でもあるのかな、と窓の外を気にしつつ、言われたとおり手を動かす。


 はぁ、めんどい。なんで誕生日にテストなんかしなきゃなんないんだろ。


「……はい、終わったよ。国語のテスト」


「まだ時間はある。見直したりしてな」


「むー……これいつまで続くの?」


「全教科やるから、夕方までかな」


「えええええ」


「文句言うならまともにテスト書けばいいんだよ」


「まともじゃないほうが先生喜ぶじゃん」


「それはそれだ」


 ――そんなこんなで、テストが終わるころには外はもう真っ暗になっていた。最近は暗くなるの早いなぁ。


「なんだ、変なことばっかしてるわりにはいい点とるじゃん」


「一応授業は聞いてますから」


「ん、えらいえらい。ところでカカ」


「なんですかー?」


 ひたすらだるそうに返事をする私。誕生日に一日中テスト、という拷問で私の心は荒みきっている。


 ……グレてやるか。酒飲むか。たばこ飲むか。


「トリック・オア・トリートって知ってるか?」


「ハロウィンのときに子供が言う言葉ですよね」


 懐かしいな……私も去年言ってたっけ。かぼちゃ被ってお隣さんに包丁片手に押し入って……あれ。これもしかして犯罪?


 ま、いいや。時効時効。お隣さんの家はもう燃えてなくなっちゃったから謝りようないし。


「それがどうかしたんですか?」


「カカ。トリック・オア・トリート?」


「へ?」


「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、って意味じゃなくて。『イタズラ』と『お菓子』のどっちが好きかっていう問いだったら、どっちがいい?」


「どっちも」


「そう答えると思った。ほれ」


「ほぇ?」


 ばさっと音がしたと思ったら――視界が真っ暗に。なんか布を被された?


「ここで授業だ。イタズラとは何か。人を騙すこと、からかうこと。この辺が正しい意味だな」


 被された布はもぞもぞと私の身体に纏わりついてくる……これはテンカ先生の手?


「ぷはっ」


 ようやく顔を出せた、と思ったらぼすっ、と頭に軽い衝撃。これ……帽子?


「そしてイタズラをするにあたって大事なこと。それは標的をできる限り驚かすことだ!」


 パパパパパン! と連続した騒がしい音と舞うリボン……これ、クラッカー!?


「ハッピーバースディ、魔女殿」


「は、ハッピーバースディ!」


 私の両脇にいつのまにかひざまづいていたのは……放ったクラッカーを両手一杯に持ったかぼちゃ人間!?


「さてさて魔女殿! 今宵は少しばかり早いハロウィンと洒落込もうではありませんか!」


「そ、その声、お姉?」


 かぼちゃの仮面の中からくぐもって聞こえるノリノリな声は間違いない。じゃあもう一人の頼りなさそうなカボチャは、シュー君?


「お姉など知らぬ! 我が名はカボチャ! でっかくて煮物にするとおいしくて目にいい、魔女のしもべ!」


「な、なんだかわかんないけど楽しそうだねお姉……それにさっきから魔女ってなんのこと――」


「ほれ」


 テンカ先生が向けてくれた鏡に映ってるのは――魔女っぽい衣装に身をつつんだ私!? 真っ黒なローブに大きな帽子、それに手作りっぽいビーズや飾りがきらきら光ってて、まるで本当の魔女みたい!


「嫌なことの後に嬉しいことあるといいもんだろ。誕生日おめでとう、カカ」


 私の呆然とした顔を見て『イタズラ』成功ととったのか、テンカ先生は改心の笑みを浮かべている……


「て、テンカ先生……知っててくれ――うぉあ!?」


 ちょっと熱くなった胸のうちを語ろうかと思ったそのとき、私の身体がカボチャに持ち上げられた!


「ごちゃごちゃうるさい! 暗くなるまで待ってるうちに練習しすぎて疲れてんだあたしは!」


「ちょ、なにすんの!?」


「いってらっしゃーい。オレもあとで『お菓子』のほう食べにいくからなー」


「え、なに、うあ!」


 カボチャは私の身体を担いだまま窓の外へ飛び出した。ちょっと、何この乱暴な扱い! あんたしもべじゃなかったの!?  


 勢いよく走る姉カボチャに揺さぶられて文句も言えないまま、たどり着いたのは玄関前。そしてそこに鎮座している――おみこし!?


「な、なにこれ」


「神社にあるのかっぱらってきた」


「捕まるよ!?」


「こっちには警官がいるんだ。全然問題なし」


「あ、あはは」


 この頼りなく笑う相棒カボチャを警官扱いしていいのかなぁ……


「しかもなんかごちゃごちゃに飾りつけしてあるし」


「おみこしハロウィンバージョンよ! さー乗った乗った!」


「え、乗るって――放り投げるな!!」


「魔女は飛ぶもんだろ」


「飛ばされるもんじゃないでしょ!!」


 文句を言いつつ着地したのは、おみこしの天井の上。そこには座席とクッションが設けられてたからうまく着地できたけど……ここまで改造しちゃっていいのこれ!?


「さー、いくよ!」


「お姉様、黒猫忘れてます」


「あ、そだそだ。魔女には黒猫だよねー。ほい」


 ぽん、と私の膝の上に置かれたのは、黒いネコミミつけたタマ!?


「おめえとにゃー、カカ」


 おめでと? にゃ? かわいいなコンチクショウ!


「今度こそ行くよ! せーの!」


「うおぁっと!?」


 カボチャ二人の手によって、私が乗るおみこしが担ぎ上げられる! 前に姉カボチャ、後ろにシューカボチャ。


「ハッピ〜ハロウィン♪」


「ハッピ〜バ〜スディ♪」


 歌いながら軽快に出発して、ゆらゆら揺れながら歩くカボチャみこし……って!


「ちょとカボチャ! こんな格好でこんなおみこしでこんなバカで外を出歩いたら――」


「おー、きたきた!」


「カカちゃーん、おめでとー!」


「おめでとうだ、いつかの客よ」


「誰だか知らんがおめでとー!」


 ……はい? ナンデスカこれ。


 なんでご近所の皆様が外に出てるの?


 しかもなんで私を祝ってくれてるの!?


「ね、ねえカボチャ! これどゆこと!?」


「あー、朝のうちに『こんなんやるから祝ってやってねー』って挨拶回りしといたんスよ魔女様」


 朝聞こえた『ご町内の皆様――』ってそれか!?


「ほらほら、主賓が呆然としてたらつまんないよ。手でも振ってあげな、魔女様」


「あ、あはは、どもー」


「カカちゃんおめでと〜ららら〜♪」


 あ、アヤちゃんだ。なんか歌ってくれてる。


「ククちゃんだっけか。おめでとー」


 ありがとー知らないおじさん。でも名前違うよそれだと81だよ。


「いつも読んでるぞー!!」


 ……この声援はよくわからない。


 手をぶんぶん振りまくっていい気分になってきたところで、大きな屋敷の前へとたどり着いた。見慣れたそこはサカイさんち!


 門をくぐってしばらくすると玄関が見えてきて――あれ、玄関は見慣れない感じになってる。なんか赤と黒でおどろおどろしい装飾が……


「終点です、終点です、お忘れ物の無きよう、お気をつけくださいませ」


「忘れ物って、私何も持ってないし」


 まったくもう、と地面に降ろされたおみこしから下りる。


「カカ! みゃー!」


「あ、タマちゃん忘れた!」


「だから言ったのに。相棒忘れちゃだめよん」


 得意げに笑う姉カボチャ、なんかムカつく。けどおみこし楽しかったから許したげる。途中でやってくれた『加速装置!!』とか『急旋回!』とか『宙返り!!』とかおもしろかったし。


「パーティ会場へようこそー♪ ひゅーどろどろどろ」


「サエちゃん!!」


 出迎えてくれたのは白装束に三角布、幽霊みたいな衣装に身を包んだサエちゃんだった。長い黒髪もマッチしてるんだけど……ニコニコ笑顔が眩しすぎてちっとも怖くない。というかこれはこれで可愛い!!


「誕生日おめでと〜、どろどろ〜」


「あ、ありがとうサエちゃん!」


「……おめでとっ!」


「あ、サユカン、ありが――」


 不意に現れたサユカンの姿をみて、思わず言葉に詰まる。


「な、なによっ」


 黒いマントにタキシード、口に牙を生やしたドラキュラスタイル!


「似合う……」


「やかましい! うがーっ!!」


「わー、血を吸われるー!」


「すあれる〜」


 タマちゃんも交えてきゃいきゃい遊んでいると、サカイさんちの玄関が開いた。


 そこから現れたのは、おじいさん? の、格好をした……


「なにしてんの、サカ――」


「ごほん!! ようこそ魔女君!!」


 あれ? 声はおじいさんだ。でもあれどう見ても……


「君を歓迎しよう! 着いてきたまえ」


「サユカン、あの人」


「いいからいいからっ、いこっ」


 なんで慌ててるんだろサユカン。ま、いいか。


「さて、パーティ会場へ行く前に歓待室へ行こう。まずはそこでゆっくりするといい」


「かんたいしつ?」


「カカ魔女ちゃんのために用意した部屋だよー」


「なぜかわたしは入らせてもらえなかったのよねー」


 サユカンが不満そうにぼやく。


 でもその部屋を見ると……なるほど、これはサユカンを入れるわけにはいかないな。


「な、な、なにこれ!? 部屋中に……」


 そう、部屋中に貼られまくっているのは、なんといろんなアングルから撮られたサユカンの写真だったのだ!!


「こんな写真、いつのまにっ!?」


「タケダ君に盗撮させたのー」


「す、ストーカーの部屋みたい」


「それをイメージしたんだよー」


「なぜに犯罪者の部屋をイメージするのかっ!?」


 激昂する吸血鬼サユカンに、幽霊サエちゃんはのほほんと答える。


「えー、だって私たち『ずっといっしょ』っていつも言ってるでしょー。ストーカーと同じだよ」


「同じにすんな!」


 さすが幽霊、サユカンの怒りが通り抜けて伝わってない。


「とにかくっ、こんな部屋じゃくつろげないでしょ! さっさと食堂行くわよ!」


「え、もう行くのかの、せっかく頑張って貼ったのじゃが……」


「行くのっ!!」


「むぅ……」


「魔女様、こちらが部屋に貼られている写真の集大成でございます」


 差し出される分厚いアルバム。サユカちゃん写真集って書いてある。


「苦しゅうない、よくやった」


「ほめていただき、ありがたき幸せー」


「……そこ、なにしてるのっ?」


「や、別に」


「なんでもー」


 あとで見よう。


 そして連れていかれたのは、色紙で作られたリボンや人の顔のようにくりぬかれたカボチャなどで妖しく飾られた食堂。


 そこに待っていたのは――


「トメ兄、おっとこまえ!!」


「うっさい」


 恥ずかしそうに俯くミイラ男トメ兄。


「こんな手抜き衣装より、それを見ろよ」


「それって――うわぁ」


 トメ兄が指差したテーブルの上には……ケーキっぽいものが宝物のように光っていた。


 や、ほんとにスポットライト当てられてる!?


 近づいてそれをまじまじと見てみる。


「これ。私たちの色?」


 そのケーキっぽいものは、私とサエちゃんとサユカンのイメージカラーに染まっていた。


 説明すると、上からみた円を三等分して、それぞれが苺ソースの赤、チョコソースの黒、桃ソースのピンク色に染められている感じ。


「すごいでしょっ、これね、トメさんとシュ――」


「トメお兄さんが、用意してくれたんだよー」


「……や、僕が出したお金は半分も」


「いい仕事するよねー、トメお兄さん」


「トメ兄……ありがとう!!」


「え、や、まぁ……き、気にするな」


「あくまでシューさんの名前出さないのね」


「サユカンなんか言った?」


「へっ、いやっ、べつに」


「でもこれ。ケーキじゃなくて……せんべいじゃん! 無理やりろうそく刺してるけど」


「だってカカちゃんがせんべいのほうがいいって言うからー」


「バースディせんべいよ! 作ってくれるところ探すの大変だったらしいわよっ」


「そ、そっか……ありがとう。でもこのせんべい、トメ兄がいないね」


「む、そういえばそうだな。でもほら、僕はイメージカラーとかないし」


「いえいえ、トメお兄さんもいますよー。ほら、これ」


「……ろうそく?」


「刺さってる感じがツッコミっぽいじゃないですかー」


「……おいおい」


「失礼する! その、か、カカ君! おめでとう」


「誰だっけ」


「がーん!! 俺だよタケダだよ」


「あー、そういえばそんな名前だっけ。あれ、タケダ君だけ普通の格好だね」


「格好わるいねー」


「君らの衣装を手伝わされてばかりで時間がなくなっ――!!」


「さて!」


 パン! と手を叩いたトメ兄に、歓談していたみんなが注目する。


 みんな? 


 そう、みんなだ。


 気がつかないうちに、私の大切な人達が皆、この食堂に集まってる。


「今宵は少し早いハロウィンでございます。そして我らが魔女の誕生日! さてさて、早速ですがバースディケー……じゃなくてバースディせんべいのろうそくに火をつけたいと思います」


「よーし、トメ兄を燃やしちゃえ!」


「ちょっと待て僕のイメージがろうそくと決まったわけじゃ――ってこら姉カボチャ本物の僕に火をつけるな!」


 ミイラ男だけに燃やせるとこいっぱいあるからね。


「……はい、つきました! さぁ魔女殿! 魔法で火を吹き消すのです!」


「トメ兄さ、言ってて恥ずかしくない?」


「うっさい! サエちゃんが書いた台本にそう書いてあるんだよ!」


 ……サエちゃんの?


 そっか。


 考えてみればすぐわかること。


 驚きと嬉しさで、わかるまで時間がかかったけど。


 この飾りつけも、みんなの衣装も。


 このハロウィン自体が、全部手作り。


 これが、きっと――


「ふーっ!」


「カカ、誕生日おめでとう!!」


「「「おめでとー!!」」」


「さてさて! つきましては、このパーティの主役、魔女様から一言いただきたいと思います」


「魔女って私、だよね?」


「そうです! いっつもいっつも魔女のように周りをめちゃくちゃにして」


「魔女みたいにおもしろくてー」


「魔女みたいに可愛い、君よっ!」


「……ふっふっふ、それじゃ魔女らしいこと言ってやる! しもべたちよ、命令だ!!」


 魔女らしくバサッとローブを翻し、気取って帽子を投げ捨てて。


 私は目一杯の笑顔で叫んだ。


「全員、私に抱きつけ!!!」


 一瞬の静寂、それはすぐに騒がしくなる。


 寄ってたかってもみくちゃにされる中で、私は思う。


 嬉しすぎて熱いくらいの胸を押さえて。


「さぁ、トメ兄を捨ててせんべい食べるよ!!」


「だから本当に僕を捨てようとするなって!!」


 今宵はハロウィン。


 イタズラとお菓子と、魔法の夜。


 そう、これこそがきっと――本当の魔法。


 笑顔の、魔法。


 みんな……ありがとうっ。


 これからもっと魔女っぽくなるから、よろしくね!


 カカ、とても長い誕生日おめでとう!

 そう、いつものよりかなり長かった!

 前のカカラジ並に長かったですね(笑

 やー、伏線作りすぎましたかね。でもおかげで作者的には満足いく出来になったと思います。


 読者様はいかがでしたでしょうか?

 例によって読んでるほうがちょと恥ずかしいような場所もありますが……作者はそんなん大好きなんでご勘弁!


 カカ、本当におめでとう。これからもおもしろ魔女でよろしく^^


 ではでは、また明日!

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