カカの天下239「誕生日計画の裏側、そのさん」
「ここがカカちゃんの誕生日会場?」
「そうよっ」
「へー……」
「ど、どーしたのよサエすけ」
「ん、べつにー」
本当に大丈夫よねっ、って感じで心配なサユカですっ。
今日はカカすけの誕生日会場の下見にきたのですが……その会場というのが何を隠そうサカイさんち。
サエすけにとっては母親の家なのです!
この家はサカイさんの本家の別荘で、サエすけが生まれてからは来たことがなかったはず、とのことですが……サエすけ小首傾げてるけど本当に大丈夫なんでしょうねっ。
なにはともあれ、ドアについているインターホンを鳴らす。
「はい、サケイですが」
聞こえてきたのは……おじいさんの声? それにしてもサケイって……サエすけにバレないための配慮なのはわかるけど、もうちょっとマシな名前があったんじゃないかしら。
「あの、サユカですっ」
「うむ、待っておった。今出迎えにゆくからしばし待たれよ」
「は、はいっ」
だ、誰なのかしらこの人っ。
サカイさん、サエすけにばれないように対処するって言ってたけど……
「待たせたのう」
やがて現れた声の主は、想像どおりのひげもじゃのおじいさんだった。白い髪の毛もモジャモジャで、なんだか物語に出てくる魔法使いみたいな風体だ。
「ようこそ、サユカちゃん。そしてお友達の……サエちゃんかな?」
「あ、はいー。今回は無理を聞いてもらってありがとうございますー」
「おお、おお……なんと礼儀正しい子じゃ。それに可愛らしい」
「いえ、そんなー」
「それに見たところ頭もよさそうじゃ。サユカちゃんという仲のいい友達がいるということはきっと優しいのじゃろう。うむうむ、サエちゃんは世界一すばらしい――」
「あ、あの、サケイさんっ!」
「む、おお、すまなかったね。つい」
な、なにがついなの?
それにこの感じ……まさかっ!?
「ごめん、サエすけ。ちょっとサケイさんと話あるからここで待ってて」
「んー? いいよー」
わたしはダッシュでサケイ老人に近寄って――その首根っこを掴んで爆走。庭に生えている木の影に隠れた。
「あの……サカイさん。その格好はっ?」
「あはー、ばれたー?」
おじいさんの格好、おじいさんの声。でもその喋り方は紛れもなくサエすけの母親、サカイさんのものだった。
「んしょ、っと。ふふ。正体をバラしさえしなければ近づいてもいい、って許可もらったのー」
つけひげを外すとあらフシギ。元のサカイさんの声に戻った。
「そのひげ……」
「このひげね、ボイスチェンジャーなのー。どこかのちびっこ名探偵が使ってるのと同じのだよー」
なんてわかりやすい説明だっ。
「これでわたしはサケイおじいさんに成りすますからー」
「……わかりました。そのまますすめていけばいいんですね」
嬉しそうだわサカイさん。
「ふふふー。久々にサエと喋っちゃったー♪」
「サカイさん、よだれ、よだれがひげにしみこんでるっ」
嬉しすぎるみたいだわーサカイさん。
まぁ、なにはともあれこれで大丈夫かなっ。
「あのー、サケイさん」
「あらあら――じゃなかった。うむ、なんだねサエちゃん」
あぶっ! サエすけいつのまに背後に? 大丈夫と思った矢先にこれかぁ……ひげチェンジャー外してるときに声かけられなくてよかったわっ。
「このお屋敷、見覚えがあるんですけどー。もしかしてお母さんのー」
ぜんっぜんよくないし大丈夫じゃないっ!!
「ごめんサエすけちょおおおおっとサケイさんとお話がっ!!」
「う、うんー」
「ぐほぉあ!?」
わたしはサケイさんの首におもいっきしラリアットをかましてそのまま引きずって――再び適当な木の影に隠れた。
「サエすけ覚えてるじゃないのー!!」
「あれー?」
「あれーじゃない!!」
「てへ♪」
「てへでもない!!」
「ごめんなさい」
「謝られても仕方ないっ!!」
「どうすればいいのー?」
「どうしょうもないっ!!」
ええもうホントどうしょうもないわよ! ああもうどうしようどうしよう……
「んー」
と、慌てふためいているわたしの肩をぽんぽんと叩いて、サケイ老人は言った。
「大丈夫、見てなさいなー」
ぽかんとするわたしを尻目に、サケイ老人はサエすけに向かって歩いていく。わたしも慌てて後を追う。
母のことが絡んでいるせいか、サエすけの目は緊張している。そんな自分の娘に、サケイ老人は優しく語りかけた。
「あのなぁ、サエちゃん。この家はもともとサカイさんという女性の持ち物じゃった」
「サカイってお母さんの旧姓です!」
「ふむ、そうか。しかしなぁ、その女性は何かあったのか、ある日を境に突然元気をなくしてな、サカイだけに」
「ダジャレはいいです」
「おぉ、すまん。そして元気をなくしたサカイさんは詐欺にあってしまい、その支払いのために急遽この別荘を売り払う必要があったのじゃ。詐欺で作られた借金はなくなったようじゃが、今どこで何をしておるか、わしにはわからん……」
「そう、ですか……そんなことがー」
よくもまぁペラペラと……
落ち込んだサエすけの肩をぽんぽんと叩くサカイさ――いや、サケイ老人。
一人にしておいてやろう、そんな風にこちらへ近づいてきたサケイ老人はこっそりわたしに耳打ちしてきた。
「ちょろいもんでしょー」
「この大嘘つき!!」
「こういうの得意なのー。えっへん」
「娘を騙しといていばるなっ」
「でもきちんと誤魔化さないと、本家にばれたら二度とお話できないしー」
「うっ……」
それを言われると……そうせざるを得ないこの人が可哀想に――
「泣いてるサエ、可愛い……」
「サカイさん、はなぢ」
可哀想に、なぜかどうしても思えないのよね。ひげを赤くしてるこの人見てると。
……とにかく、このまま下見がうまくいきそうで今度こそよかったわ。
「あの、サケイさん! 母のことを思い出したいので、たまにここに来てもいいですかー?」
「それは困るっ!!」
……本当にうまくいくのかしら。
やっぱ不安だわっ!
おまけ。
「あ、思い出した。サエがここに来たときのことー」
「遅いんですよ思い出すのが!」
「妊娠がわかるまでただの体調不良だと思ってたから、ここに静養にきたのよー」
「……ぇ、妊娠が、わかるまで?」
「つまりー、サエがわたしのお腹の中にいるときにここにきたわけねー」
「ぇ、ええ!? それでここを覚えてるって……」
「フシギなこともあるもんだねー」
ついにサエちゃんと接触したサカイさん! いろいろ大変そうだけど(はなぢとか)乗り切れるのでしょうか。
まぁサエちゃんの母親=元祖腹黒ですからうまくやるとは思いますが^^;