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カカの天下  作者: ルシカ
238/917

カカの天下238「カカっぽい店」

「ご注文はお決まりでしょうか?」


「はい、えっと――サバの味噌煮込み定食で」


 お決まりになって注文なさいましたトメです。


「カカは何にする?」


「んー」


 今日はカカと一緒に珍しく和風なファミレスにきています。


 それというのも、今日の食事を済ませるつもりだった近所のセイジ食堂が休みだったからです。


 ちなみに入り口に貼ってあった紙には『本日、不機嫌により休業いたします』と書いてありました。うーん、ふりーだむ。


「ほら、カカ。さっさと決めな」


「じゃ、豚のしょうか焼き定食」


 しょうか焼き……消火焼き?


「火を消してんのか焼いてんのか、どっちだ」


「じゃあ火をいっぺん消してからまた焼くってことで」


 なんだその新しい調理法。


「かしこまりましたー」


「かしこまるの!?」




「料理長、オーダー入ります」


「おぅ、言ってみろバイト」


「サバの味噌煮込み定食と、豚のしょうか焼き定食お願いします」


「……消火焼き?」


「火をつけて、一旦消して、もう一回つけるやり方で焼いてくださいとのことです」


 ボッ(火をつける音)、カチ(消す音)、ボッ(またつける音)。


「……これでいいのか」


「きっとお客様も喜びます」




「私は気がついた」


「どんなことに気づいたんだカカ。くだらないことか? どうでもいいことか?」



「どうでもいいこと」


 正直でよろしい。


「この、言葉の点々あるじゃん」


「点々? ああ、濁点のことか」


 『゛』のことだ。


「これをつけたり消したりすることでおもしろいメニューが生まれるんだよ!」


「たとえば?」


「店員さーん」


 お、さっき無茶な注文をかしこまった店員だ。


 カカはメニューの『豚しゃぶサラダ』を指差しながら言った。


「豚ジャブサラダお願いします」


「ジャブですか」


「強烈なやつをお願いします」


「かしこまりました」


 だからなんでかしこまるんだこの店員。 




「料理長。追加オーダー、豚ジャブサラダ入ります」


「……ジャブだぁ?」


「はい、豚のジャブ入りました」


「誰が豚とボクシングしてんだ?」


「お客様です」


「…………」


「ではお願いします」


「……客も客だが、あのバイトもバイトだな」




「ロースカツに『゛』つけるとローズカツ!」


「バラのカツか。食べてみたい気もするな」


「このブランド豚の一品っていうの、ちょっと変えたらプラント豚になる!」


「おー、レベル落ちるな」


「このぶたせんべいはふたせんべい!」


「……ふた? 鍋の蓋みたいなせんべいか」


「あじの塩焼きはあしの塩焼き!」


「足の……うぁ。おいしくなさそー。しかも何の足かわからんし」


「お楽しみのところ、失礼します」


 おお、さっきのイカした店員だ。


「こちら、豚のしょうか焼き定食でございます」


「……消火、したんですか?」


「はい、お望みどおりに」


 この店、変だ。


「では、こちらはサバの味噌煮込み定食でございます」


「あ、はいはい僕」


「おもしろくなくてすいません」


「やかましい」


 店というか店員が変だ。


「では、こゆっくりどうぞ」


「こゆっくり?」


「ごゆっくりの『゛』を抜いて、小さくゆっくりということです。では……」


 爽やかに去っていく変な店員。


「トメ兄、この店いいね!」


「……ああ、カカ向きだな」


 店は変でも定食は美味かった。


 おいしさ、雰囲気。

 どこで食べるかお店を選ぶ基準はいろいろありますが……私はおもしろい店員がいるところを選びたいです。

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