カカの天下236「家族を洗おう」
「トメ兄、今日は掃除をしよう!」
「どした、急に」
ごちそうさま、トメです。
休日の朝食を終えたところで、カカが突然そんなことを言い出しました。
「学校でさ、テンカ先生が『家は家族みたいなもんだから、たまには掃除しろよ』って言ってたから」
「へぇ、それでか。素直だな」
「や、テンカ先生が『オレはしないけど』って言ってたから。それで私がすれば私の勝ちじゃん」
「なんの勝負してんだか」
「人としてのレベルの勝負」
「カカってたまに変に難しめなこと言うよな」
たしかに掃除してない人よりしてる人のほうがレベルは上な気はする。
「だからやろう!」
「はいはい……ま、最近してなかったからちょうどいいか」
「じゃ、最初は風呂掃除な」
やる気満々のカカを使わない手はない。
とりあえずスポンジと洗剤を持たせてみる。
「りょかい! ごしごし……ねぇトメ兄。ここってお風呂場だよね」
「そうとしか見えないな」
「お風呂場ってなにするとこ?」
「なんだカカ。ボケたのか」
「ううん、だからツッコまなくていいよ」
「そのボケじゃなくて」
ボケ老人ならぬボケガキになったんじゃないかと心配になったんだが。
「で、なにするとこ?」
「普通に答えていいのか?」
「なんで皆おもしろい答えばっか言おうとするの?」
「おまえが言うな。で、普通に答えると身体洗うとこだな」
「だよねー」
うんうん、納得した風に頷いたカカは、ごしごし擦っていた浴槽をびしっと指差して言った。
「ずっとお風呂場にいるんだから、自分で身体洗いなさい!」
「無茶言うなよ」
なぜか浴槽に対して怒っているカカとお風呂掃除を終わらせ、続いてトイレ掃除にやってきた。
するとカカは目を細め、まるで誰かの肩を叩くかのようにポンポンと便器の端に触れた。
「いつも汚いものを食べてくれて、ありがとう」
「その表現ヤメロ」
「あ、飲み食いか」
「だからヤメレ」
たしかにその表現だとすごく哀れに思えてくるが、愛おしそうに便器撫でるな。なんか頭オカシイ人みたいだから。
なぜか妙に熱心にトイレ掃除を終えて。
「次は本棚の整理だな」
「まかしときー。ねぇねぇトメ兄。こんなに本が詰まってるんだから、この本棚はさぞかし頭がいいんだろうね」
「なぁ、なんでおまえさっきから家具をなにかと人扱いしてんだ?」
整理するために本棚から本を抜き取りながら、カカは純真な目で言った。
「家って家族なんでしょ。じゃ家具も家族じゃん」
うーん……
いいことを言ってる気もするが……
「あのな、それは家族みたいに家や家具を大切に扱おうってことで」
「うん、だから人権をそんちょーして大切にしてんじゃん」
「人じゃないし」
「人じゃなくても家族なんだよ!!」
あー、うー、なまじいいこと言ってる分タチが悪いなぁ。
「さて、本を全部出し終わったし……む、本を全部出した。ということはこの本棚の頭の中身はスッカラカン。つまり……」
カカは哀しそうに呟いた。
「本棚、バカになっちゃったね」
や、今のカカのほうがバカっぽいぞ。
なんだかんだで本棚の整理を終えたころ。
「やっほー! 元気にしてたか我が愛すべき家族よ!」
相変わらず前触れもなく登場した姉。そして――
「入ってくんな!!」
とび蹴りでソレを即追い出したカカ。
「ナイスだ!!」
おっと、思わず本音が。
「あ、あぶないな! なにすんのカカちゃん」
追い出したと言ってもしっかり防御はしている姉は、玄関の外から不満げに声をあげた。
「私の家族に妙なもん食べさせないで!!」
家族……? あ、家か。
妙なもん……? あ、姉か。
要は家が(いろんな意味で)汚れるから入ってくるなと。
「あ、あのー。あたしも一応あんたらの家族なんだけど」
「家のほうが大事だよ」
「ええっ!?」
「それは同感」
「ええええっ!?」
おっと、思わず本音が。
……なんにせよ、この変な考え方は直しておかないと厄介そうだな。
「ちなみにカカ。僕らは家に食べさせていいのか?」
いまのカカの理屈だと、家にいる=食べられている、ということになるんだが。
「私たちはおいしいからいいの。姉はまずい」
「それも同感。ちなみに消化されたりはしないのか?」
「家に胃袋なんかあるわけないじゃん」
この妹の頭の中は便利にできてるなぁ。
掃除は大事ですよね!
たまにはしましょう!
え? 私はしているか?
……掃除しようって、言うだけなら簡単ですよねぇ(ぉぃ