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カカの天下  作者: ルシカ
233/917

カカの天下233「飲んだくれジェラシー」

「で、何を言ったんだって?」


「……うるさい」


「まま、そう言わずに。後学のために教えてくださいよ、センセ」


「先生はおまえだろ、テン」


 これだから絡み酒は厄介だ。


 どうも、絡まれてるトメです。


 今日はテンの誘いで飲みにやってきました。場所はもちろん行きつけになってしまった居酒屋『病院』です。


「おーい、ねーちゃん。輸血たのむー」


 テンが厨房に向かって声を張り上げる。『輸血』というのはこの店のオリジナルカクテルの名前だ。たしかに赤いカクテルだけど……すごい名前をつけるもんである。「輸血おかわり」とか言うと異様さが一層目立ちそうだ。


「んぐんぐ……ぷはぁ! ねーちゃん、輸血おかわり」


 言ってるし。


「大盛りで」


 なおさら異様だし。


「それで……話は戻るが」


「戻さなくていいぞ、吸血鬼」


 吸血鬼候補、二人目だな。ちゃぷちゃぷ赤いもんばっか飲みやがって。ちゃぷちゃぷ。


 ……ちょっとおいしそうじゃんか。


「オレはな、教師として聞かないわけにはいかないんだ。トメ、おまえカカ達になんて言ったんだ?」


「だから、別に――」


「あんだけ仲良かったやつらが大ゲンカしたんだぜ? しかも女同士で」


「女っていっても子供だろ」


「女のケンカは子供のころからレベル高いんだよ」


 ……悪うございましたね男のケンカは低レベルで。


「それがたった一日しか続かなかったんだぞ?」


「続いてほしかったみたいな言い方だな」


「それを仲直りさせてこそ教師じゃねぇか」


 それはもっともだと思うけど……


「オレの出番を盗りやがって」


 教師なら生徒が仲直りしたことを素直に喜べよ。


「というわけで、カカ達に何を言ったかさっさと教えろ」


「……別に、母さんが昔言ってたことをそのまま言っただけだ」


「ほほぅ。なんて言ったんだ?」


 テンのことだ。どうせ僕が言わなかったらカカ達に聞くだろう。


 まぁ、僕が考えた言葉でもないし、言っちゃっても恥ずかしくないか。


「……まずケンカの原因は、カカがサエちゃんの大切な帽子を失くしたことなんだよ。で、カカがその帽子を見つけないとサエちゃんと仲直りできないって無茶するから――」


「おお、我が妹君よ! 無茶するのはやめたまえ! 無茶はいつものことだけど!」


「なんだそれ」


「そのときのトメの様子を演じてみた。気にせず続けろ」


 なんかキャラ違うような……


「あ、ああ。それで、失くしたものは戻らないこともある――」


「はい、失くしたものは戻らないこともある!」


「なぜ繰り返す」


「いいからいいから」


 妙にテンション高いな。酔ってるのか?


「……壊れたものは直せないものもある」


「はい、壊れたものは直せないものもある! 聞きましたか皆さん!」


「皆さんて誰だ!」


「いいから続けろって」


「……えっと」


「はい、えっと!!」


「そこは繰り返すな!」


 コントかこれは。


「ったく……えーっと。でも、人の想いだけは探し続けてれば絶対に見つかるんだぞって」


「でも、人の想いだけは! 想いだけは見つかると!! いい言葉いただきました!!」


「て、テン?」


「聞いたか? 聞いたなてめーら!?」


「「「うんうん」」」


「どちらさま!?」


 なんか店員も客も僕らのテーブルの近くに集まってる!?


「よし、これをメモって帰るのだ! わかったなてめーら!!」


「「「はーい先生」」」


「生徒!? この人らみんな生徒なの!?」


「お〜もいはか〜なら〜ず見〜つか〜るぞ〜♪」


「歌うな!」


「皆さんご一緒に!」


「「「お〜もいはか〜なら〜ず見〜つか〜るぞ〜♪」」」


「ご一緒するな合唱するな無駄にハモるな!!」


 ぜぇ……はぁ……こんなに勢いよくツッコみまくるの久々で息切れてきた。僕も歳かな。


「ちくしょーいいこと言うなぁトメ先生!」


「だから先生はテンだろ……って、あれ」


「トメ先生のコノヤロー……がく」


 コノヤローってそれ悪口か? とかツッコむ暇もなく。


 テンは電池が切れたようにぐったりして、やがて動かなくなった。


「……すー、すー」


 寝てる!?


「あー、潰れましたねテンカ先生」


「あ、院長店長」


 院長店長というのは、早い話がこの店『病院』の店長だ。『病院』だから院長とも呼んでほしいらしく、院長店長というよくわからない呼び方で慕われているおっさんだ。


「前に一緒に飲んだときはザルだったのに……」


「ウコンの力ってすごいですよね」


「なにっ!?」


「それがなかったらテンカ先生、そんな強くないですよ」


 そんな酔っ払い防止アイテム飲んでドーピングしてたのか……じゃ、素だと僕のほうが強いのかな。


「そんな準備を忘れるなんて、よほど悔しいことでもあったんですかねぇ」


 カカ達の仲直りに関与できなかったのがそんなに悔しかったのか。


 とにかく……ふっ、勝った。この間の飲みでは会話も酒も負けっぱなしだったし、いい気分だ!


「ではトメさん。こうなったらこの人絶対起きないので、背負って送っていってあげてください」


「……え? 家まで持ってくの? これ」


「特別お持ち帰りメニューでございます。料金はいりません。あ、でもお勘定はよろしくお願いします」


 ……なんか、やっぱ負けたような気がしてきた。


「どうやら傷心のご様子。輸血、いりますか?」


「いらん!」


 くさい言葉を言った人はからかわれるのが宿命です。

 トメ兄ざまぁみろ(マテ

 それは冗談ですが、テンカ先生の意外な弱み発覚。お酒の弱い人にはやっぱりウコンですね。


「輸血おかわり」

 病院で非常時に言ったら不謹慎すぎてぶっとばされますね。

 非常時じゃないのでぶっとばさないでください病院関係者の皆様。

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