カカの天下232「探しものと見つけたモノ、後編」
『失くしたものは戻らないこともある。壊れたものは直せないものもある。でもな、人の想いだけは、探し続けてれば絶対に見つかるんだぞ?』
そんなトメさんの素晴らしい言葉を、私は精一杯伝えている。
……カカすけとサエすけがケンカするなんて、初めて見た。よっぽどあの帽子が大切なものだったんだろう。
でも、あの二人が仲直りしないなんて、そんなのはダメだ。
絶対、ダメだっ。
「――というわけっ」
『……人の想いだけは、探し続けてれば』
「それで、どう? サエすけ。君はカカすけと仲直りする気、あるの?」
『…………』
「カカすけは探してたよ、君との仲直りのきっかけ。気絶するほどね。君は? 探す気あるのかなっ」
茶化したふうに言ったけど、わたしはずっとドキドキしていた。
二人は大切な友達だ。だからでしゃばってみたけど……電話の向こうにいるサエすけの反応を、びくびくしながら待っている。
――泥だらけのカカすけを布団に寝かせるのにトメさんを色々と手伝って。
トメさんに自分の家まで送ってもらって、その夜。
わたしはサエすけに電話した。
わたしのせいで二人の関係が悪化しちゃったらどうしよう。そんなことも考えてしまう。でも――わたしも、友達として、カカすけやサエすけの『一緒にいたい』っていう想いを探し続けないと!
……そうしてあげてって言ったのは、トメさんだけど。
ほんと、適わないなぁ。どれだけ惚れ直させれば気が済むんだか――
『……しょー』
「え!?」
まずぃ、考えるのに必死で聞きそびれた!
『仲直り、したくないわけないでしょー。お母さんにもらった帽子が失くなって悲しかっただけで……怒ってるわけじゃ、ないもん』
ほっとした。
カカすけも言い出したらなかなか聞かないヤツだけど、サエすけも相当なものだと思ってたから……ここで『仲直りなんかしたくない』って言われたらどうしようかと思った。
サエすけにも『仲直りしたい』っていう想いがあるんなら……大丈夫よねっ。
「じゃ、頑張ってねっ。わたしはもう何もしないから」
『……えー』
「えーって言わないのっ。もともと二人の問題でしょ」
『でも、手伝ってくれてもー。お礼はするよ?』
「どうせ怪しいお礼でしょ」
よかった、いつものノリだ。
あれから結構時間が経ってるし、落ち着いたみたい。
……あんな叫ぶサエすけ初めて見たから戸惑ってたけど、あれがお母さんの帽子だったんなら納得できる。サエすけにとってお母さんは特別だし、やっぱり動揺も大きかったんだろうなぁ。
「じゃ、明日学校で。せいぜい頑張ってねっ」
『うー、クレープ奢るからさー』
「ダメ、自分で頑張りなさいっ。おやすみっ」
さぁ、明日はどうなるかっ。
……おはようございます。
「…………」
「…………」
あれ?
昨日のトメさんのいいお話を聞いて、二人とも仲直りしようってなったんじゃなかったっけ。
「…………」
「…………」
なんか二人ともだんまりなんですけどっ。
「カカちゃん、おはよう!」
「……よ」
「サエちゃん、おはよう!」
「……ん」
通学路で会うクラスメイトへの挨拶にも、ほとんど反応しない二人。
だ、大丈夫かなぁ。
その後。朝のHRが始まるまで二人は口を聞かなかった。
そのくせ気にしてはいるようで、ちらちらとお互い見たりしている。でも視線が合いそうになると目をそらす。それを繰り返していた。
なんとかしたいのは山々だったけど、HRなので二人の元を離れざるを得ない。わたしだけ違う教室なのがもどかしい……
隣の教室のことばかり気にして身が入らなかった授業が終わる。休み時間が始まってすぐに隣へ、っと、テンカ先生発見!
二人の様子を聞いてみると、授業中もずっとそんな感じだったらしい。
「ったく、あいつら……二人揃って片想いでもしてんのかよ」
あ、確かにそんな感じかも。
お互い気になってるんだけど、口に出せない。みたいな?
「あの二人、オレは口出したほうがいいのか?」
「あ、いえ。トメさんが――」
「ああ、トメが言うこと言ったんなら大丈夫か」
それだけで安心したらしく、テンカ先生は口笛を吹きながら職員室へと戻っていった。
……あらまぁトメさんのこと、ずいぶんと信頼なさってるようで……って、今はそっち気にしてる場合じゃなかった!
教室を覗く。
休み時間だというのに、座りっぱなしで、いまだにちらちらお互いを盗み見ている二人。
番長と裏番長の微妙な雰囲気に、クラスメイトは怯えきっているみたいだ。廊下も他のクラスもうるさいのに、このクラスだけお通夜のように静まっている。
……早く仲直りしてよぉ。皆の心臓に悪い。
そんなこんなで、下校時間になっちゃった。
カカすけはそそくさと帰っていたらしく、教室にはすでにいなかった。
その代わり、ずっとカカすけのほうを気にしていたせいで疲れたのか、机の上でぐったりしているサエすけが見えたので突撃開始!
「サエすけぇ!!」
「うあぁー、な、なんだサユカちゃんかー」
「なんだじゃないわよっ。仲直りするんでしょ!」
「い、いざとなったらタイミングがー」
あぁもう、他の人には二人とも容赦ないのに、なんでお互いのことになると弱気かなぁ!
「あのね、トメさんの話忘れたの? 仲直りしたいって想ってるんなら、カカすけとの友情ちゃんと探しなさいよっ!」
「さ、サユカちゃんくさ――」
「くさいセリフだってのはわかってるわよっ、でもね、君らが仲直りしてくれないとこっちも困るのっ」
「サユカちゃん、他に友達いないもんねー」
「大きなお世話よっ」
よし、調子戻ってきたわね。
「とにかく追いかけなさいっ、いますぐっ」
「は、はいー」
カカすけはすぐ見つかった。
昨日の大雨も止んだから、改めて湖に来ていたのだ。
でもカカすけは、昨日みたいに必死に湖をかき回してはいなかった。
やる気がないというよりは、他のことを考えていて手がつかない、といった様子だ。ため息なんかついてるし……多分サエすけと同じ心境なんだろうなぁ。
わたしはサエすけの背中を押す。
サエすけはおそるおそる、カカすけに近づいた。
「……よぅ」
サエすけらしくない声のかけ方だ。緊張してるのかな。
「……よぅ」
肩をびくりと震わせたものの、サエすけと同じ挨拶を返すカカすけ。
……わたしはお邪魔だろうし、このまま木の影でじっとしていよう。
盗み聞きする気はないけど、じっとしていて聞こえてくるものは仕方ないわよねっ。
「ぼ、帽子、見つかった、かなー?」
「見つかったら、こんなことしてないよ」
「そう、だよねー」
「……うん」
ぎこちないなぁ。がんばれ二人とも!
「あのさー、こんなことしてても楽しくないでしょー?」
「……別に、そんなこと、ないよ」
「うそつき」
「うそじゃないもん」
「うそだよー。だって湖かき回してるだけだよ?」
「それが面白いんだよ!」
「何にも出ないのに面白いわけないでしょー! うそつき!」
「うそじゃないもん!!」
あ、ああ、また昨日みたいに!
昨日みたいに……ううん。
――大丈夫。
トメさんが言ってたもの。お互いが仲直りしたいって想い続けてれば大丈夫だって。
頑張って、二人とも。
頑張ってっ!
「うそつき!」
「うそじゃないって何回言ったら――何回、言ったら」
「……カカちゃん?」
「……昨日、何回言われても聞かなかったの……私、だよね」
そう、これは昨日と同じ。
昨日の、やり直し。
「……でもね、ホントにうそじゃないんだよ?」
まだ言うか――
「私は……サエちゃんといれば、いつだって楽しいし、嬉しいん、だから」
――お?
「カカ、ちゃん……わ、私だって、帽子がなくても、カカちゃんが、いれば。それでいいって、言いたかったのに、さー」
「ぅ、その……ごめん。そんな風に思ってくれてたなんて、思わなくて」
「ううん! 私だって、その……怒ってなかったんだけど、悲しくて、その、当たっちゃって」
「やっぱりあの帽子、大切なものだったんだね」
「うん……自分ではそうでもないと思ってたんだけど……でも、カカちゃんのほうが大切だもん。だから昨日みたいな無茶、しないでね。倒れたって聞いたよー?」
「……見つけないと、サエちゃんがいなくなっちゃいそうで」
「私だってカカちゃんがいなくなるの、イヤなんだからね」
「や、私だって」
「私だってー」
「私のほうが」
「私のほうがだよー」
また言い争ってる。
でも今度のは、笑いながら。
冗談交じりに遊んでる。
「「……ごめん」」
どちらともなく言い出したその言葉で、今回のことは一件落着のようだった。
はぁ……まったく。
友達も楽じゃないねっ!
汗かいたぁ……
「サユカンも、ごめんね」
「サユカちゃん、ありがとー」
「うぉいえあ!? いつの間に背後に」
「いつだっているよ。だって私たち、いつも一緒だもんね?」
「うんうん、見えなくても背後にいたりするんだよー」
「サエちゃ、それこあい」
「背後霊か君はっ」
「そのとーりー。ぴと」
「くっつくなっ」
「私もピト」
「暑苦しいわ二人ともっ。ったく、もう……ぷっ、あはは、変なとこ触るな!」
暑苦しいけどどこかくすぐったくて、わたしは笑いをこらえることができなかった。
いつもの、ううん。いつもよりずっと楽しそうなカカすけとサエすけ。
今まで曇っていた分、天気も気分も晴れ晴れしてる。
二人とも、ちゃんと『仲直り』を見つけたねっ。
よかった。
本当に、よかった!
おまけ。
その夜のこと。
『でねーっ、なんか昔わたしがあげた帽子が泥だらけで流れてきてさー! あの子、わたしのこともう嫌いになったのかなー! うああああああん!!』
「さ、サカイさん落ち着いてっ。それはですね違うんです――」
『わたしも泥とお酒に沈んでやるうううう!』
「待ったっ、ちゃんと説明しますから早まらないで! あと泥はともかくお酒はどっから出てき――サカイさん? サカイさん!?」
余計なものを見つけてしまったどこかの母親が電話ごしに半狂乱になったりもしたけど、これはまた別のお話。
これにて今回のケンカは解決です(どこかの母親を除いて^^;
カカとサエちゃん。仲のいい二人を描くうえで、どうしても書きたかったのが今回の話です。
ふとしたことでケンカになる、これは日常でよくあることだと思います。子供ならばなおさらのこと。
でもケンカして仲直りしてこそ生まれる絆もあると思います。カカ達を書いていると、笑い、ほのぼの以外でもそういった部分も書きたくてしょうがなくなくなりまして……
明日からはいつも通りコメディですのでご安心を!
くさい言葉とか書いちゃってごめんなさい! でもくさい言葉とかお話、大好きなんです!(笑
それでは、これからもカカ達の日常ドラマにお付き合いいただけたら嬉しいです^^