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カカの天下  作者: ルシカ
230/917

カカの天下230「探しものと見つけたモノ、前編」

 暑いですね、サエですー。


 秋も真っ最中で少しずつ寒くなってきたところ、なのに今日は日差しが強く、久々に暖かい日和となっておりますー。


「サエちゃん、その帽子いいね」


「うん、たまにはかぶろうと思ってー」


「でもちょっと大きくない? 頭からずり落ちそうよっ」


 公園の近くにある湖に遊びにきた私とカカちゃんとサユカちゃん。何をするでもなく木々の隙間を縫いながら歩いていると、私の帽子の話になりました。


 ちょっとブカブカの、つばがおおきい白い帽子。たまにずり落ちそうになるけど、私の宝物の一つです。


「お気にいりなんだよー。まだ使うとは思わなかったけど」


「そだよね。もう十月なのに今日は暑いよね。太陽もそんなに仕事してないで、のんびりサンマでも焼いて食べてればいいのに」


 カカちゃんサンマ食べたいのかなー。私も食べたいな。


「もしかして太陽がサンマを焼いてるから暑いのかもよっ」


「なるへそ。サユカン冴えてるね」


「焼けたサンマ、降らしてくれないかなー」


「サエちゃん、それ食べるの難しくない?」


 意味のない、でもなんとなく楽しい会話をしながらの散歩。


 お気に入りの帽子をかぶって、のほほんと歩いて……うん、いい気分だー。


「でさ、そろそろ何かして遊ばない?」


 でもカカちゃんはただ歩いているだけじゃ退屈だったみたいだ。何か遊ぶものはないかなーときょろきょろ辺りを見回している。


 と、その視線が私の帽子に止まった。


「んふ、サエちゃん。その帽子、フリスビーみたいだよね」


「えー」


「うん、確かに飛びそうではあるわねっ」


「やだよー、そんなのー」


「まあまあ、そう言わずに! 一回だけ、ね?」


「……しょうがないなぁ。落とさないでよー」


 白い帽子だから汚れたら目立っちゃう……けど、カカちゃんなら大丈夫だよね。運動神経いいし、落としたりしないよね。


「ありがとっ。ほらサユカン、そっち立って」


「はいはいっ」


「いくよー、それっ」


 ふわり、と帽子が舞った。


 帽子はゆっくりと回転しながら、見事なコントロールでサユカちゃんの元へ――


 たどり着く前に、風が吹いた。


 唐突な風は無情にも帽子をさらう。


 湖の方へ。


 木々に隠れて、帽子はすぐに見えなくなった。


「…………ぁ」


 カカちゃんが口を開いたまま、血の気の引いた顔で声無き声を発した。


 私は目を見開いて、そのまま動けなかった。


 サユカちゃんだけがすぐに行動した。帽子が消えた、湖の方角へと走る。


 私とカカちゃんもすぐに急いだ。


 サユカちゃんが湖を覗き込んでいる。私は周囲を見渡した。でも白い帽子の姿はまったく見えない。


「……湖に、落ちた?」


「わかんないわ。でもこっちの方に飛んできたのは確かだし、ここにないってことは」


「落ちて、沈んじゃった、かなー」


 努めて明るく、私は言った。


「あはは、もう、仕方ないなーカカちゃん。落とさないでって言ったのにー」


「ごめ……ごめんっ、サエちゃん。ほんとごめん!」


 泣きそうな顔で謝ってくるカカちゃん。


 うん、いいよ。カカちゃんだもの。


 これくらい、別に――


「探すから! なにか長い棒使って、湖かき出せばなんとか!」


「や、いいよー、そこまでしなくても」


「だってサエちゃん、怒ってるもん!」


 ……え?


 私が? まさかー。


「怒ってなんか、ないよー」


「うそ。だって、帽子がなくなったときすごく怖い顔したもん」


「そんな、怒ってなんか」


「ごめんね、絶対見つけるから」


「ねぇカカちゃん聞いて、私は怒ってなんか――」


「待ってて。あ、この棒なんかよさげ」


「だから――怒ってないって言ってるでしょ!」


 自分でも、驚いた。


 こんな大声が、自分の口から出るなんて。


「……怒ってるじゃん」


「帽子のことは怒ってないよー、でも、カカちゃんが」


 しつこいから、ちょっとイラッとして――


「怒ってるよ!」


「……怒ってない!」


「あ、あのさ。二人とも」


 サユカちゃんが割って入る、でも私たちの耳には届かない。


「怒鳴ってるじゃん!」


「カカちゃんがしつこいからでしょ!」


「だって探せば見つかるかもしれないじゃん!」


「もう湖に沈んじゃったんだよ! 見つからないよ! だから別にいいって言ってるのに!」


「別にいいならなんでそんな怒ってるのさ!」


「……もういい! 探したいなら勝手にすれば!」


 きびすを返す。後ろで何か聞こえたけど無視した。


 早歩きで歩く。


 歩く。


 目が熱い、胸が熱い。


 熱くて、痛い。


 カカちゃんのわからずや。


 私は怒ってなんかいないのに。


 怒ってなんか――


「あら、サエおかえ――どうしたの?」


「……なんでもない」


 出迎えてくれたおばさんに適当に答えて、自分の部屋へ。


 投げやりにベッドに倒れこんで、私は泣いた。


 赤ん坊のように、なりふり構わず泣き喚いた。


 怒ってなんか、ない。


 ただ、お母さんにもらった帽子をなくして。


 カカちゃんとケンカして。


 すごく、悲しいだけ。 


 今回はシリアス風味のお話です。

 

 コメディを期待して読んでくださっている読者様には申し訳ありませんが、これもカカ達の日常の一部ということで、よろしければお付き合いくださいませ。


 次回に続きます。

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