表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カカの天下  作者: ルシカ
217/917

カカの天下217「とある親の想い方」

「――という感じで、素晴らしい右クリックしてましたよ?」


「あぁ、な、なんて可愛いー……も、萌え死ぬー」


「カカすけと同じこと言ってますね」


「はぁ、ふぅ……ふふふ。パソコン送ってよかったー」


 どうも、サユカですっ。


 今わたしがいるのは近所の小さな喫茶店、『ユーラシア大陸』です。小さいくせに名前はでっかいです。


 とにかく、そんな目立たない喫茶店でわたしとサカイさんは紅茶を飲みながら話しています。内容はもちろん、サエすけのことです。


「あのパソコン、サカイさんからの送りものだったんですね。内緒みたいですけど」


「お給料入ったし、これくらいはしたくてー」


 サエすけにそっくりのニコニコ顔が今にもとろけそうになってる。


 そんなに右クリックの話が可愛かったのかな。口には出さなかったけど、わたしもそのときのサエすけ可愛くて可愛くて頭撫でたりしたくてしょうがなかったのよね。


「親バカですねっ」


「……ふふ、違うわよーサユカちゃん。わたしはねー、馬鹿な親」


「何か違うんですか?」


「意味が違うの、全然ねー。また、サエのこと教えてね」


「……はいっ、できるだけは」


 なんだか疲れたように笑うなぁ、サカイさん。仕事とか忙しいのかな、やっぱり……


 いろいろ事情あるんだろうけど、娘のために頑張ってるんだよね。


 前はいろいろ考えちゃったけど、やっぱりこの人はサエすけの母親だ。娘の心配をしながら、それでも頑張ってるんだ、きっと。


 だからわたしはたまにこうして連絡をとって、サエすけの近況を伝えたりしている。


 サエすけのためにも、この人に頑張ってほしいから。


「ところでサユカちゃん、申し訳ないんだけど……」


「はい、なんですかっ」


 サエすけの親友として、わたしもできる限り協力しないとっ。


「ここのお会計、お願いできるー? わたし、お金なくてー」


「あれっ、財布忘れたんですか?」


「いやー、あのー、パソコン買ったらお金なくなっちゃってー」


「そ、そうですか、それは仕方な――」


「あとゲームとかDVDとか漫画とか買ってたらいつの間にかスッカラカンにー」


 急に協力する気が失せてきた。


「あの……サカイさん、娘のために頑張ってるんですよね?」


「そりゃーもー。でもね、頑張るにはいろいろと必要なのー」


 それはわからないでもないですけど……


「仕事だるいけど頑張ったしー、ほしいもの買わないと割に合わないしー」


 前から薄々感じてたけど、もしかしてこの人、ダメ人間なんじゃ……


「だからサユカちゃん払ってー。払わないと二人とも食い逃げ犯で捕まるよ♪」


 このダメ人間タチが悪いっ!!


 サエすけの黒い部分が大人になった感じだっ!


「うぅ……わかりましたよぅ」


 こんな大人になっちゃダメだ。もしなるならそう、トメさんみたいな大人に!


「サユカちゃん、顔が溶けてるよー」


 はっ、いかんいかん。


「とにかく、わたしが払いますよ、払えばいいんでしょ、もう!」


 サエすけ、君が不憫だよ、まったくもう。


 わたしはしぶしぶレジを済ませ、外へ出る。


 サカイさんは自分の策がうまくいったからかニコニコしている。なんかムカつく。


 こういうのサエすけにやられるとすぐ許せるけど、大人相手だとなんか……大人のくせにってどうしても思ってしまう。


「今日はごちでしたー、サユカちゃん」


「……別に、いいですけどっ」


「うんうん、ごめんねー」


「まったくもう……ここで話が聞きたいって言ったのサカイさんなのにっ。お金持ってないって最初からハメるつもりで――」


「お詫びと言ってはなんだけど、はい、これー」 


 っと。


 わたしがイラつきに任せて喋ってたのを遮って、サカイさんは小包を差し出してきた。


「これ、なんですか」


「みんなで食べてー」


 開けてみると、中には美味しそうなエクレアが四つ……


「あの子、そこのエクレアが大好きなのー。でもちょっと高くてー、ここ来る前に買ったんだけど、思ったより使っちゃった」


 あははー、と呑気に笑うサカイさん。


「あの子にこれ食べさせたいと思ったら、それしか考えられなくてー」


 ……先に言ってくれればいいのに。


 わたしは思った。


 この人はサエすけみたいにズル賢い部分もあるし、ダメ人間みたいな部分もある。


 でも、やっぱり。


 ちょっと抜けてるだけで、不器用なだけで。


 ちゃんとサエすけの母親なんだ。


 この人の笑い方があまりにも優しいから、イラついていたわたしにもそれが理解できた。


「……はい、いただきます。お仕事がんばってください、サカイさん」


「うん、頑張るよー。ほしいゲームもでるしー」


 ……この人、やっぱダメなのかな。


 それともそういう風に見せてるだけなのかな。


 謎だっ。


 最近サカイさんが絡むとシリアス風味に……なると見せかけてふざけたり。つかみどころのない人です。さすがサエちゃんの母親。

 

 でも、なんだかんだで頑張ってるみたいです。

 ゲームとか漫画に支えられながら……ダメ人間じゃないですよっ、頑張るときに頑張ってるならっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ