カカの天下216「カカノテイオー」
「はあ!?」
「ね、お願いトメ兄」
どうも、いつも通り妹のカカに無理難題を言われたところのトメです。
「おまえなー、いったい何歳だよ」
「子供っぽいっていうのはわかるけどさ、ほら、なんか公園に置いてあるやつ見たら不意にやりたくなっちゃって……」
そういうことあるよなー。わかるけどさ。
「で、お馬さんごっこか?」
「うん」
この妹のすごいところは自分のやりたいことをストレートに口にできるところだ。恥ずかしいとかそういう感情は二の次なんだよな……良いことか悪いことかはわからないけど、後悔しなさそうな生き方だ。
「トメ兄、馬になって」
「……や、まぁ、いいけどさぁ」
「じゃ夕食は馬刺しだね」
「食べるんかい!」
「違うよ、刺すんだよ。おしりから」
いつだったか、カカが寿司屋で「馬の串刺し」とか注文してたのを思い出した。
「じょーだんじょーだん。ほら馬になって」
何年ぶりかな、こんなことするの……しぶしぶ言われたとおりに四つん這いになる。む、居間の畳が食い込んで少し膝が痛いな。
「じゃ、乗るよー」
「重っ!」
「まだ乗ってない!」
「うごっ!」
蹴られた……
「ほんとに乗るよ?」
「はいはい、どうぞ」
背中に重さがかかる。む、意外と軽い。こいつも大きくなったなぁと思ってたけど……女の子だし、小四ならこんなもんか。
「はいよー、ヘルパー!」
どっかに困った人でもいるんか。
「それを言うならシルバーだろ」
「はいよー、しるババァ!」
汁ババァ?
「キモいわ! シルバーだっての」
「なんでシルバーなの?」
「昔の西部劇の映画で、主人公の愛馬がシルバーって名前でな、そのときにハイヨー、シルバー! って言ったのが有名になったらしいぞ」
豆知識炸裂。
「ほれ、とにかく動くぞ。パカラッパカラ〜!」
「トメ兄……意外とノリノリ?」
「カカが小さいころよくやってたからな。ほれほれ!」
「おっ、うぁ、あっはは!」
カカが振り落とされない程度に動く動く! 正直言おう、結構楽しかったりする。
「やっほー! 我が弟に妹よ! 息災かー!?」
唐突にドアを壊しそうな勢いで入ってきた姉は、僕らのお馬さんごっこの現場を見て固まった。
「な、なにしてんのあんたら」
まずい。
「や、これはその……」
「た……たのしそー!!」
やっぱこうきたか。
「あたしもやる!」
目をギンギラギンに輝かせた姉はそう言って、入ってきたのと同じ勢いで外へと出て行った。
「あたしもやるって……誰とするんだろ」
「んー、タマちゃんにでもしてあげるんじゃないか?」
「そんな普通のこと、姉がするかな」
しないだろうな……まぁいいや。パカラッパカラ。
「きゃっふー♪」
しばらく遊んでいると……外から騒がしい足音が近づいてきた。
「……姉だね」
「多分な」
二人そろって玄関のほうを向くと……予想通り姉が飛び出してきた。
「ハイヨー! アタシガテイオー!」
姉は馬に乗っていた。
競馬っぽい名前をつけてるけど、その馬は誰がどう見てもシュー君だ。まさに「あたしが帝王」って感じの光景である。シュー君かわいそー。
「や! これ楽しいね! ほら、鳴け!」
「ひひーん!!」
「アタシガテイオーも楽しいってさっ!!」
それが楽しかったらシュー君、あんた本物だよ。
「とりあえずもっかい町内一周してくるね」
「もっかい……? ちょと待て。おまえまさか!」
「ぶち抜くよ! アタシガテイオー!」
「ひひーん!!」
シュー君、泣いてたな……自分で自分を逮捕したい気分だろうに。罪状はなんだろう。
「トメ兄! 私たちも姉に負けてられないよ!」
「負けでいいよ」
「でも賭け金とられるよ?」
「競馬じゃないっての」
「でも、賭け金」
むっ、いまだに僕の上に乗ってるカカに顔の向きを無理やり変えられた。視線の先には……なにもない。
なにもない!?
「ここにあった僕の財布は!?」
「ハイヨー」
「アホか、普通に走るわ!!」
あの姉、人の金をまた勝手に……ダッシュ!!
これだけを記しておく。
アタシガテイオーはものすごく早かった。
シュー君すげぇ。
姉はすげぇバカ。
姉は相変わらず犯罪ぎりぎりのことをしてくれます。
え? ぎりぎりじゃなくて犯罪?
警官が許してるからいいんです。世の中そんなもんです。
あと、いつもより更新が遅かったのでわざわざ心配していだたくメッセージがありまして……なんかすごい嬉しいです(笑)仕事の都合で遅れただけなので大丈夫ですよ^^わざわざありがとうでした!