カカの天下215「クリック」
「おー、これがパソコンか」
「カカすけ、パソコン初めて見たの?」
「んなわけないでしょ。これがサエちゃんちのパソコンかぁってこと」
「私は初めて見たー」
「サエすけがかいっ。これ君のでしょがっ」
そういうわけです、カカです。
どういうわけかって? 会話で察してほしいなぁ。あ、うそうそ冗談。
今日はサエちゃんちがパソコンを購入したということで、サユカンと二人で見物しにきたのです。あ、私は本当に初めて見るわけじゃないよ? 友達の家で何度か触ったし、一応学校にも置いてあるし。授業では使ったことないけど。
「とりあえず電源いれてみよっ、買ったばかりでも絵を書いたりゲームしたりはできると思うし」
「電源はー……どこ?」
「ここでしょっ。サエすけ本当に持ち主?」
「触るのは初めてで……」
おろ、いつものニコニコ顔に少し余裕がないような……珍しい。
「あ、ついたー」
でもパソコンは無事にスイッチオンされました!
「サユカちゃん、やるー?」
「これはサエすけのでしょ。やっぱ最初にいじるのはサエすけじゃないと」
「……カカちゃーん」
その瞳に負けそうではあるけど……
「私もサユカンに賛成。はい、座った座った」
浮かない顔のサエちゃんの肩を捕まえて、パソコンの前に座らせる。
サエちゃんはパソコンのデスクトップ画面を恐る恐る覗き込んだ。
「え、えっと……絵を描いたりするのはどうするのー?」
「まずね、このマウスを動かすの」
「え、ここにねずみが入ってるのー!?」
「怖いこと言うな! ……ちょとカカすけ。どした」
……ご、ごめ……ぷはははは!
「ま、いいや。マウスっていうのはこれの名前。これを使って画面の矢印を動かすの」
「こ、こう?」
「違うっ、画面に直接マウス押し当てるんじゃなくてっ」
……お、お腹が痛い……うくく……可愛い……
「カカすけも腹抱えてうずくまってんじゃないわよっ。まったくもう、マウスはね――」
「サエちゃん、そのマウスの先端、光ってるでしょ」
うずくまってるなって言われたし、サユカンの言葉を遮ってどっこらしょ。
「う、うん」
「それを画面に向けて、ビーム発射! パソコン動けぴっぴるんって言えば思い通りに動くよ」
「わ、わかったー。ビーム発射! パソコン動けぴるっぴん!」
「ぶはははははははは!!」
「遊ぶなカカすけっ」
「動かないよー。あ、ぴっぴるんだったよね。ぴるっぴんって言っちゃったよー」
「君も信じるなっ!」
あーおかしー。腹いたいー。
ホント余裕ないんだなーサエちゃん。普段なら絶対こんなこと言わないのに。
「まったく……マウスっていうのは――そうそう、そうやって動かすの。それでそこをクリックする。クリックっていうのはね――」
「う、うん……うん」
ふー、やっと笑いが落ち着いてきた。
「ほら、そこをクリック」
「うん」
お、なんとかできるようになったかな。サユカンって面倒見いいなぁ。
「で、そこを右クリック」
「うん」
もう笑いどころはないかな?
「……右クリックだってば」
「やってるよ」
「ちがうちがう、右クリック」
「こうでしょー?」
「だから! 右クリックだってば!!」
「だからー、ちゃんと右腕でクリックしてるじゃん!」
ブッ!!!
「じゃあ左クリックって言ったら左腕でクリックするんかい!」
「あ、う、えとー」
さ、サエちゃ、か、かわいふはははははは……
「……カカすけ。君、今日笑ってばっかりね」
「わ、笑い死ぬ……というか、萌え死ぬ……」
「か、カカちゃん、なんでそんな悪魔みたいな目で私を見るのー?」
「ふふふ……次はどんなことして笑わせてくれるのかなー」
「そ、そんなぁ」
サエちゃんがこんな弱気になるの珍しいしね。
徹底的にいじめてやる! むふふー♪
その日、私は初めてサエちゃん『で』遊んだ。
伝説の右クリック炸裂!
言いたいことはそれだけです!(ぅおい