カカの天下205「マパーマとはなんでしょう」
「ね、そういえばタマゴしばらく見てないね」
「ん? なんだよ。今朝に卵焼き食べたじゃんか」
もう忘れたのか。ボケたのか?
あ、どうも。ボケた妹を持つトメです。
「違うの! だからさ、タマゴだよ。どうしてるのかなーって」
「だからさ、何の卵のことを言ってるんだよ。生んだのか?」
「人間が生むはずないでしょ何言ってるの」
妹が冷たいよぅ。
「だからさ、ほら。私が名付けた姉娘のタマゴ! 略してタマ!」
「略だったのかタマって!? 初めて聞いたぞそれ!」
「言ってないけどなんとなく察してよ」
「さっき言われた言葉そっくり返す。おまえ何言ってるの」
無茶ばっか抜かしおって……
「でもたしかに、ここ最近見てないなぁ」
「元気してるのかな、私のライバル」
そういえば……よくわかんないけどカカはタマのこと敵視してるんだよな。敵視と言いつつ気に入ってるっぽいけど。
「姉の友達に預かってもらってるって言ってたよな。姉に聞いてみるか」
と、いうわけで。
姉に電話して聞くと、その友達の住所を教えてもらえた。
そんなにうちから離れていなかったし、今ならその友達も仕事が非番で家にいるとのことなので、早速行ってみることに。
「えっと……あった、この家だ。赤い屋根だし間違いないだろ」
姉に聞いた住所が指す家は、なかなか立派な一戸建てだった。
「我が家より立派だね」
「そだな……じゃ、とりあえずピンポン鳴らすか。姉の弟だって言えば突然の訪問も大丈夫だって言ってたし」
「姉の友達……どんな人が出てくるんだろ。ワクワク」
「確かに楽しみだな。あの姉にどんな友達が――って、あれ?」
ふと声が聞こえた気がして、そちらを振り向くと――中庭があった。
「カカ、あれ」
「んー?」
二人してその声のする中庭を覗き込む。
するとそこには――姉娘タマを抱いて話しかけている男の姿が。
「いいでちゅかータマ。僕のことはパパ。お姉さまのことはママ、って呼ぶんでちゅよ? ほら、言ってみなちゃい」
「マパー」
「こらこら合体しちゃだめでちょー」
「パーマ」
「誰もパーマなんかかけてないでちょー。パーマってお金かかるんでちゅからねー。ほら――」
と、ここで僕らにようやく気づく男。
考えてみれば姉に友達なんて、そんなにいるはずないよねぇ。そして急に行っても問題ないはずだわ。なんせ顔見知りなんだから。
はい、もう言うまでもないと思いますが。そこにいたのは姉の舎弟で警官、シュー君その人でした。
「あ、あの、トメさん、カカさん……いつから聞いてました?」
「別に何も聞いてないでちゅよ? マパ君」
「うん、何も聞いてないでちゅ。パーマ君」
「お願いしますなんでもします奴隷にでも犬にでもなりますからどうかお姉さまにはこのことはご内密に」
おー、警官が土下座してる。ほんとよわいなこいつ。
「カカー」
「相変わらず呼び捨てか、いい度胸だなーこの」
いつの間にか下ろされてたタマとじゃれつくカカは、文句を言いつつも楽しそうだ。
「しかしさ、この子だいぶ喋れるようになってきてるのに……赤ちゃん言葉はないんじゃないか? マパさんや」
「マパは勘弁してください……ほら、ちっちゃい子とか可愛い動物にはどうしてもそういう言い方になったりしますでしょ?」
そういう人もいるよなぁ。
「でも、仰るとおりタマさんは」
お子様にまでさん付けか。
「結構喋るんですけど、僕のことをまだパパと呼んでくれなくて……」
「おまえ、パパちあう」
あ、びしっと言っちゃった。
「マパでじゅぶん!」
充分、か。パパとマパの違いはよくわからんが、将来有望だなこの子。
「う、ううぅ! なぜタマさんは僕をパパと呼んでくれないのか……」
悲しみにくれるシュー君。どれだけの時間か知らないけど、今までタマを育ててきたんだろうなぁ。なのにパパと呼んでもらえない……それは悲しいよな。
「僕のことをパパと、お姉さまのことをママと呼ばせれば……いろいろとこっちのものなのに」
……そゆことか。意外とセコくいろいろ考えてるんだなシュー君。
「ま、居場所もわかったことだし。今度からはちょくちょく遊びに来るか、カカ」
「仕方ないなぁ!」
うれしそー、我が妹。
「しかたぁいなぁ!」
おまえは何が仕方ないんだ、タマ。
「マパは!」
あー、それは確かに仕方ない。
というか、どうしようもない。
タマちゃんどうしてるの!? みたいな声があったので久々にタマちゃん登場です。マパーマとはなんなのか……読めばわかりますね、はい、つなげただけです。
タマちゃんはシュー君の家で預かってもらってます。ちなみにシュー君の仕事中は家族がタマちゃんの面倒をみています。
シュー君、父親になれるのかなぁ。
多分むりだろうなぁ。