カカの天下204「逆」
「ただいまー」
トメです。
今日も今日とて、いつも通り味気ない仕事を終えて帰ってきました。でも家に帰れば面白い妹のおかげで刺激的な時間が過ごせます。刺激的すぎるのも困りものだけど。
さぁ、今日はどんな予想外な刺激があるんだろう。面倒なのは勘弁してくれよ。
「カカー?」
僕は期待を込めて、人の気配がする居間を覗きこみました。
「わぁ、とっても予想外」
どう予想外かと言いますと。
まず、カカがいます。
壁際で逆立ちしながら。
「と……トメ、兄」
あら、悪ふざけかと思ったら若干苦しそう。
「なにしてんだ、上から読んでも下から読んでもカカ」
「さ、逆立ち、してるからって、変な風に呼ばないで」
逆さまだから、つい……うまいこと言ったと思うんだけどな、自分でも。
「それで? なんで逆立ちしてんの」
「さ、逆立ちの練習、してたら」
「してたら?」
「干してある洗濯ものに、脚がからまった」
なるほど。うちは天気が悪いとき、居間の角っこに小さな物干し竿を置いて洗濯ものを干すからなぁ。
見てみると、干していた僕のジーンズがうまい具合にカカの脚にからまっていた。両手が塞がってるし、これは自分じゃ取れないな。
「は、はやく、とって」
「まぁ、いいけど。ちなみにどれくらいの間その体勢でいるんだ?」
「ど、どうでも、いいから早く」
「や、大丈夫そうならもう少しこのままにしといて、日頃の行いを反省させようかなーと」
「お、鬼……」
いやね、冒頭で妹がくれる刺激が楽しみとか言いましたけれども。
何事もほどほどが一番でござんしょ?
なんでもやりすぎないように、日頃から躾は必要なのですよ。
「時間なんて、わかんない……時計見れないもん」
そりゃそうか。
「とにかく……もう限界」
あー、腕がぷるぷる震えてるね。片足を上に引っ張られながら、なんとかバランス保とうと頑張ってるね。
「なぁ、それ手を床から離したらどうなるんだ?」
「さっき、試したら、なんかぐるんぐるんなって死ぬかと思った」
ぐるんぐるんか……
「やらないでよっ」
「ばれたか」
見てみたかったのになぁ。
「そろそろ、どこかに沈んでしまいそうな勢いです……」
げ、なんか本当に顔色悪い。
「沈むな! 浮上しろ! いまほどいてやるから!」
さっさとほどいて……この、くそ! 結構固いな。
「天に昇りそうな気分です……」
「浮上しすぎ!!」
とにかくヤバめだ! 兄がふざけてたせいで病院行きだなんて、昔の姉が僕にやったみたいなこと、するわけにはいかん!
「よし、ほどけた!」
「ふにゃー」
「ぐほっ!」
解放されたカカの脚が、そのままカカト落としとなって僕の腹部に命中した。
「はぁ、ふぅ、ふぃー……早くほどいてよホントに! 危なかったんだからね!!」
「だ、だからってカカト落としはないだろ……」
よく効いたぞ、カカト落とし……カカだけに。
「おやじギャグ」
「何も言ってないだろ!?」
「カカのカカト落としはよく効くなぁって顔に書いてある」
「……まじか」
なんにせよ助かってよかった。
まったく、本当にとても刺激的な毎日だ。
カカト落としさえなけりゃ、ちょうどいい刺激だったんだけどなぁ。腹痛い……
逆立ちって疲れるんですよねぇ。
上から読んでも下から読んでもカカ。えー、さっき気づきました(笑)