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カカの天下  作者: ルシカ
204/917

カカの天下204「逆」

「ただいまー」


 トメです。


 今日も今日とて、いつも通り味気ない仕事を終えて帰ってきました。でも家に帰れば面白い妹のおかげで刺激的な時間が過ごせます。刺激的すぎるのも困りものだけど。


 さぁ、今日はどんな予想外な刺激があるんだろう。面倒なのは勘弁してくれよ。


「カカー?」


 僕は期待を込めて、人の気配がする居間を覗きこみました。


「わぁ、とっても予想外」


 どう予想外かと言いますと。


 まず、カカがいます。


 壁際で逆立ちしながら。


「と……トメ、兄」


 あら、悪ふざけかと思ったら若干苦しそう。


「なにしてんだ、上から読んでも下から読んでもカカ」


「さ、逆立ち、してるからって、変な風に呼ばないで」


 逆さまだから、つい……うまいこと言ったと思うんだけどな、自分でも。


「それで? なんで逆立ちしてんの」


「さ、逆立ちの練習、してたら」


「してたら?」


「干してある洗濯ものに、脚がからまった」


 なるほど。うちは天気が悪いとき、居間の角っこに小さな物干し竿を置いて洗濯ものを干すからなぁ。


 見てみると、干していた僕のジーンズがうまい具合にカカの脚にからまっていた。両手が塞がってるし、これは自分じゃ取れないな。


「は、はやく、とって」


「まぁ、いいけど。ちなみにどれくらいの間その体勢でいるんだ?」


「ど、どうでも、いいから早く」


「や、大丈夫そうならもう少しこのままにしといて、日頃の行いを反省させようかなーと」


「お、鬼……」


 いやね、冒頭で妹がくれる刺激が楽しみとか言いましたけれども。


 何事もほどほどが一番でござんしょ?


 なんでもやりすぎないように、日頃から躾は必要なのですよ。


「時間なんて、わかんない……時計見れないもん」


 そりゃそうか。


「とにかく……もう限界」


 あー、腕がぷるぷる震えてるね。片足を上に引っ張られながら、なんとかバランス保とうと頑張ってるね。


「なぁ、それ手を床から離したらどうなるんだ?」


「さっき、試したら、なんかぐるんぐるんなって死ぬかと思った」


 ぐるんぐるんか……


「やらないでよっ」


「ばれたか」


 見てみたかったのになぁ。


「そろそろ、どこかに沈んでしまいそうな勢いです……」


 げ、なんか本当に顔色悪い。


「沈むな! 浮上しろ! いまほどいてやるから!」


 さっさとほどいて……この、くそ! 結構固いな。


「天に昇りそうな気分です……」


「浮上しすぎ!!」


 とにかくヤバめだ! 兄がふざけてたせいで病院行きだなんて、昔の姉が僕にやったみたいなこと、するわけにはいかん!


「よし、ほどけた!」


「ふにゃー」


「ぐほっ!」


 解放されたカカの脚が、そのままカカト落としとなって僕の腹部に命中した。


「はぁ、ふぅ、ふぃー……早くほどいてよホントに! 危なかったんだからね!!」


「だ、だからってカカト落としはないだろ……」


 よく効いたぞ、カカト落とし……カカだけに。


「おやじギャグ」


「何も言ってないだろ!?」


「カカのカカト落としはよく効くなぁって顔に書いてある」


「……まじか」


 なんにせよ助かってよかった。


 まったく、本当にとても刺激的な毎日だ。


 カカト落としさえなけりゃ、ちょうどいい刺激だったんだけどなぁ。腹痛い……


 逆立ちって疲れるんですよねぇ。

 上から読んでも下から読んでもカカ。えー、さっき気づきました(笑)

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