カカの天下203「すっぽんぽん」
「おーいカカ」
「なに、トメ兄」
こんばんは、ご紹介に預かりましたトメです。
ただいま夕食どき。カカはテーブルについて僕がご飯をもってくるのを待っています。
「へい、すっぽんお待ち」
「へ、えっ、これが!?」
そう、先日カカが食べたがっていた、というか飲みたがっていたすっぽんの血だ。
さっき、近所のサカイさんからお裾分けしてもらったので、早速グラスにそそいで置いてみたわけだ。
「ご飯食べる前に、ちょっと口つけてみないか」
「おぉ……これが、すっぽんぽんの血」
「ぽんが多い」
飲んだら脱ぎ出しそうな血だな。うあぁ、なんて犯罪チックなアイテムだ!
「これを飲んだら空が飛べるんだよね!」
「え、あ、いや」
そういえばそんなこと言ってたな……
「空を飛べるほど元気になる、って言ったけど、本当に空を飛べるわけじゃないぞ?」
「空を飛べるほど元気になるんだよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ飛べるんじゃん」
ああもう! ニュアンスでわかれよお子様!
「とにかく飲んでみるね」
あ、くいっと飲んじゃった。
あ、顔をしかめた。血だもんなぁ。飲みにくいだろうに。
あ、グラスを置いた。
「どうだった?」
「……若い娘の血は格別じゃのう」
なんの漫画の吸血鬼のマネだそれは。
「すっぽんの血だっての」
「若いすっぽんぽん娘の味は格別じゃのう」
それは確かにおいしそ……いやいや!!
「……お?」
「ん、どしたカカ」
冗談を口にしていたカカの動きが止まった。
と思ったら、なんだかそわそわし始める。
「お、おいどうした」
「イェイ!!」
「なんだいきなり」
「なんかイェイな気分なの! 身体が熱い!」
あー、すっぽん効果か。身体が温まってきたのかな。
「イェイ!」
しかしやかましい
「ワンダフル! ビューティホー! エキサイトウーマン!」
素晴らしいがどうした美しいがどうした興奮した女がどうした。
「ああ、興奮した女っておまえのことか」
「今の私なら空を飛べる! さぁ学校の屋上へレッツ」
「ゴーすんな! 飛ぶならここでやれ。ほら、グラス片付けてやるからテーブルの上で」
行儀が悪いけどカカを落ち着かせるためだ。仕方ない。
「えー、低い」
「空を飛べるなら低くても飛べるだろ」
「でも滑空時間とか速度とか」
「そんな細かい知識はいらん! さっさとやれ」
「ぶー」
文句を言いながらもテーブルの上に立つカカ。
そして無意味に手をばっさばっさと振って……ジャンプ。
もちろん飛べるはずもなく。
ぽとり、とカカは墜落した。
顔面から。
もちろんぽとりなんて可愛い音じゃなかったけど、あんまりリアルな音を表現するのも痛々しいので勘弁してほしい。
さて、畳とキスしたまま動かないカカは……
あ、がばっと起きた。
「いまちょっと浮いたよ!?」
「……はいはい」
幸せなやつだなぁ。
元気出たのはなによりだけど。
「じゃ、これからちょっと外を走り回ってくるね。走ってるうちにまた浮くかもしれないし」
「変な噂たつからやめろ!」
前言撤回。
元気すぎるのも面倒だ……
――このあと、カカを落ち着かせるのに一時間もかかってしまった。
迸る勢いを食に向けさせました。そしたらカカはすごい食べました。炊飯器の中身もすっぽんぽんとなりました。
……違った。すっからかん、か。
恐るべし、すっぽんぽんの血。
はい、先日言ってたすっぽんぽん編です。
でも誰もすっぽんぽんになってなくてすいません。