カカの天下20「嘘、本当? まぎらわしい」
「トメ兄!!」
突然玄関から響いた妹の声に、戸棚に隠してあったケーキを取り出そうとしていた僕はかなりビビリました。
電光石火で戸棚に戻した僕は、何事もなかったかのように玄関へ向かいます。
するとカカがちょうどホワイトボードに何かを書き終えたところでした。その書かれた文字とは……
『嘘のような本当の話』
なに、このお昼の番組のサイコロの目に書いてあるような文は。
「トメ兄……どうしよう」
すっ呆けた文を書いたわりに、カカの表情は今にも泣き出しそうなものだった。
「どうしたんだ、高校生に喧嘩でも売って負けたのか?」
なんとなくこいつならやりそうだなーとか思うことを言ってみたが、さすがに違っていたようだ。特に外傷は見当たらない。
よく見ると、カカは後ろ手に何か隠しているようだった。
「ん、なに持ってるんだ?」
「トメ兄……驚かないでね」
「なんなんだよ、いったい」
「いや、やっぱり驚いて。じゃないとなんかムカつくから」
「言ってくれるなオイ。というかさっさと見せろ」
カカはおずおずと後ろに隠していたものを前に出した。
それはB5サイズくらいの大きな封筒で……受け取ってみるとずっしりとした重さが。
あれれ、なんだか紙束が入ってるよ?
まさか、マサカ、MASAKA。
中を見てみると、お札がぎっしり詰まっていた。
「嘘のようだ……」
「でも本当なんだよ」
「この文章のとおりだ……」
「略して?」
「略してる場合じゃない! どうすんだよっていうかどうしたんだよこれ!?」
「道に落ちてた」
「本当に嘘のような話だ!」
「あ、逆になった」
「いちいちツッコむな!」
もしこれでビンタしたらすんごく痛そうなくらいに分厚い札束を手にして、僕は誰が見ても一目瞭然なほどにテンパっていた。
「ええと、とりあえず交番に……あれだよな、この場合一割もらえたりするんだよな」
「わ、そうなんだ。一割ってどのくらいかな」
「どうだろうな。どうだろうな。とりあえずこの重さからして五百万くらいあってもおかしくないんじゃないかな!」
「五百万! なんでそんなのわかるの!?」
「一千万円の重さが一キロだから(豆知識)それくらいじゃないかと!!」
「じゃ私たちはどれくらいもらえるの!?」
「五十万だ!!」
「いかしたおじさんが五十人!?」
「そうよハンサム諭吉が五十人よ!?」
「わっほぅ!」
「ぃやっほぅ!」
なんだかテンション上がりすぎて壊れていく二人に、近づく影が。
「あの、こんにちわー」
「あらお隣の!?」
「サカイさん!!」
上がりきったテンションのまま話しかける二人の勢いに押されながらも、サカイさんはいつものように柔らかく微笑んだ。うん、いい笑顔だっ!
「実はお聞きしたいことが……あら、そのお金」
「あ、これですか!?」
「いま拾ったんで交番に届けに」
「私のですー」
……のんびりした声で何をオッシャリマシタカコノ人。
「よかったですー。実家からお小遣いが届いたんですけど落としちゃって、困ってたんですー」
「そ、そうです、か……は、ははは、はいどうぞ……」
行き場のなくなった勢いは、僕をいい感じにもっと壊してくれました。
「……え、あれ、五十人のおじさんは?」
「カカ……おじさん達は全滅しちゃったんだ」
まさかご近所さんに一割よこせとは言えないし……
「ええ!? そうなの?」
「ああ……いきなり一個中隊ののんびりやさんに襲われ、武器のないおじさん達はあっけなく……」
「壮絶なオヤジ狩りだね……」
「ああ……警察には頑張ってほしいよ」
降って湧いた幸運が消えていく……この虚しさはあと三十分ほど僕とカカを壊し、サカイさんを困惑させ続けたのでした……