カカの天下197「親戚の種類」
「カカちゃん、新聞紙かしてー」
えーと新聞新聞。おっと、どうも。カカです。
ただいま学校の大掃除の時間。夏休み中にたまった汚れを落とそうと、サエちゃんも窓磨きをしています。私はその手伝いです。
「カカちゃーん。窓ふくから新聞」
「はいはい。んー、四コマのってる記事のと、児童虐待の記事のと、どっちがいい?」
「料理の絵がのってるの、ない?」
「サエちゃんお腹すいてるんだね」
サエちゃんって気がつけば何か食べてるなぁ。でも細いし可愛いなぁ。ずるい。
「はい、料理の絵はないけど、中国産食品の安全問題の記事がのってるのだよ」
「わぁ、これはおもいっきり強く窓をふけそうだよー」
喜んでもらえてよかった。
「……食品をバカにするなー!!」
おー、すごい勢いで窓を拭いてく。
サエちゃん、こう見えて食べ物のことに関しては厳しいからなぁ。こないだサエちゃんちのチョコを勝手に食べたときなんか……お、思い出したくない!
「カカちゃん?」
「私はおいしくないよ食べないでサエちゃん!」
「なに言ってるのー?」
「……あ、ごめんごめん。ちょっと嫌なことを思い出して」
思い出したくないのに思い出しちゃった。恐ろしい記憶を……ちょっと気持ちよかった気もしないでもないけど。
「で、なに?」
「こっちの窓終わったから、次あっちー」
もう!?
「サエちゃんすごい。掃除のプロだね」
「まーねー」
「略してソウプロだね。ソープロ! ワープロの親戚だね」
「カカちゃん、それ、なんかソープのプロみたいだからやめてー」
「ソープ? ってなに?」
小首を傾げる私に、サエちゃんは少し考えてからいつもの笑顔で答えた。
「ソースの親戚だよー」
「へー、おいしいの?」
「トメお兄さんに聞けばわかるよー」
「わかった。帰ったら聞いてみる」
なんだろ。ソースの親戚って。
「ものにはいろんな親戚があるんだねー」
「そだねー」
「じゃ掃除の親戚ってなんだろ」
「なんだろねー」
「そうじ……とりあえずそういちさんはいそうだよね」
「いるかもねー」
……はて。なんかサエちゃんの反応が淡白になってないかな。
あ、そっか。
「サエちゃんの親戚は」
ビク、と少しだけサエちゃんの肩が震える。
「私とサユカンかな?」
でもその震えは――私がそう言った途端すぐにおさまった。
振り返ったサエちゃんは、笑顔だった。
「あははー、それ変だよー。私とカカちゃんとサユカちゃんは、親戚じゃなくて親友だもん」
「ごめん、そだった」
私とサエちゃんは笑いあった。
サエちゃんちの家の事情は詳しくは知らない。
でも夏休みのお盆のとき、親戚に会うと言っていたサエちゃんの顔を見る限り……サエちゃんにとって親戚という存在がいいものだとは、とても思えなかった。
だからそのときの話題には触れないように、親戚という言葉は使わないようにしてたのに……失敗失敗。
さ、気を取り直して掃除を終わらそう!
おまけ。家に帰ってからのやりとり。
「トメ兄、ちょと質問」
「なんじゃらほい」
「ソープっておいしいの?」
あれ、なんかトメ兄が石化した。
「……や、おいしい、といえばおいしいと言えなくもないがそれは店によるっていうかなんでカカはそんなことを……」
「トメ兄、おーい?」
なんか一人でぶつぶつ呟き始めた。
一体なんなんだろ、ソースの親戚って。
子供にとって、世界は不思議でいっぱいです。
大人になるまで知らないほうがいいこともいっぱいです。