カカの天下196「食欲は気まぐれに」
「最近涼しくなったね」
「そだなー」
居間で座りながらダラダラ中のトメです。
同じくダラダラごろごろしてる妹のカカがそんな話題を振ってきました。
「夜なんか結構寒いよね」
「昨日は確かに寒かったな。あ、毛布いるか?」
「うんうん、ほしい」
うーん、今年は急に暑くなったり寒くなったりするなぁ。にっくき異常気象だ!
……や、原因は僕ら人間なんだけどね。
「先週まではすんごく暑かったのにね」
「今じゃ寒いなんて言葉が出るんだもんな」
「ほんとほんと、暑いなんて言葉もう使わないよ」
「夏はもう終わったなぁ」
「アイス食べたい」
……この妹は。
「話の流れまったく無視でありますかお嬢さん」
もう暑くないだの言ってたのに、いきなりアイスですかい。
「食欲は突然に」
「何のタイトルだそれは」
「そんな映画とかありそうじゃない?」
「おいしそうな映画だな」
観ているうちに腹が減ってくるに違いない。
「とにかく急にアイス食べたくなった」
「どんなアイスがいい? あずきか」
「あずきはね、昨日あずさちゃんって子とケンカしたから食べたくない」
類似品だな。
逆に食べてやればすっきりするかもしれないのに。
「苺とか」
「あれ赤いもん」
ぴったりじゃん。ダメか。
「バニラとか?」
「三日前にバニーガールがテレビで踊ってたんだよね。それ観てたからお腹いっぱい」
おやじかおまえは。しかも「バニ」しか合ってないし。
「メロンは」
「最近のアンパンマンはメロンパンナちゃんあんまり出ないんだよね」
それ、食べない理由になるんか?
「んー、オレンジは」
「さっきカフェオレ飲んだし」
だから「オレ」の二文字しか合ってないうえに理由になってないから。
「カカ……おまえ食べる気ないだろ」
「あるよ?」
「じゃあ何のアイスが食べたいんだ」
「んー……と」
ちらりとカカに視線をやると、さらにごろごろしながら考えているようだった。ごろごろ。
「やっぱりそんなに食べたくないかも」
「それみろ」
「そーめん食べたい」
「オイコラ」
こいつなんでもアリだな。
「こないだ食べ飽きたって言ってただろ」
「や、毎日食べてたら慣れちゃってさ」
各方面からおすそ分けでもらったそーめんはすでに完食済みだ、長い戦いだったが。
「しょうが焼き定食が食べたい」
「カカおまえいい加減にしろ」
「食欲は唐突に」
「それはもういいから」
ちょっと変わってるし。さっきの続編か?
「本とかにありそうじゃない?」
「あー、太りそうな本だな」
そんな感じでだらだらーっと夕食を何にするか会議をしていたら……
スーパーの閉店時間になっていた。
というわけで。
「トメ兄……この野菜炒め、お肉入ってないよ」
「我慢なさい……」
余り物での粗末な食事となりましたとさ……
食欲は突然に
食欲は唐突に
食欲は気まぐれに
これ、「食欲」を「恋」に変えたらどこにでもありそうですねっ!
それだけです! 意味はありません!! すいません!