カカの天下193「花火すぱぱん」
「こんばんわっ、トメさん!」
「こんばんはートメお兄さん」
「ただいまトメ兄」
「おかえりー」
毎度おなじみ三人娘を出迎えるのはもちろんこの僕、トメです。
ここは僕の家の庭。別になにか植えてるわけでも飾ってあるわけでもなく、庭というより空き地と言ったほうが近いかもしれない。
それでも四人で花火ができるくらいの広さはある。
そう、今日は夏休み最後の日。
最後の最後に花火をしよう! ということで、夜にも関わらずサエちゃんやサユカちゃんもうちに集まったのだった。もちろん親御さんの許可はとってある。
「いっぱい買ってきたよー」
カカはスーパーの袋を掲げて楽しそうに言った。サエちゃんとサユカちゃんを迎えに行くついでに花火を買ってきてもらったのだ。
子供だけで夜道を歩かせるのが危険だって?
襲われても返り討ち。
警官は知り合いがいる。
無問題!!
「じゃ早速やろー」
「おし。バケツに水も入れたし、始めるか!」
いつだったか姉が置いてった高級たばこセットについていたライターを取り出す。どこら辺が高級かというと、とにかく金ピカなのだ。付いていたたばこも金ピカだった。
それだけだ。ほんとに高級なのか胡散臭いことこの上ない。
でもこの際、使えれば細かいことはどうでもいい。
綺麗な火の花を咲かせてくれよ!
「じゃ、どの花火からやる?」
はい! と手を上げるカカ。
「ねずみが爆発するねずみ花火!」
こえぇよ。んなスプラッタな花いらんわ。
はーい、と手を上げるサエちゃん。
「こうもりが出てくるこうもり花火でー」
手品ですかそれ。
はいっ、と手を上げるサユカちゃん。
「UFOを呼び寄せるUFO花火でっ」
花火っていろんなことができるんだなぁ。
はい、と一応僕も手を上げてみる。
「僕はロケット花火がいいな。最初に景気よく打ち上げて――」
「ロケットを落とすんだね」
「そうそう、しっかり狙い定めて撃墜! ってどんだけ飛ぶんだよ花火って」
「ちょっとそこの宇宙まで」
ちょっとじゃないし。
んー、皆の主張がばらばらだ。
「じゃ、間をとって誰も選ばなかったこの発破を」
「「「64!!」」」
なんかいきなり三人の声がハモった。
「なんだいきなり」
「や、『はっぱ』って聞くと条件反射で九九の数字が出てきて」
さすが小学生。染み付いてるね。
「とにかくやるぞー!」
僕はセットした発破に火をつけて急いで逃げた。
数秒後――激しい破裂音が連続する!
「すぱぱぱぱぱぱん!!!」
なぜかカカは口で言ったが、とにかくそんな感じの音が耳に響いた。
いいねー、花火って感じ!
「じゃ次はこのミニ打ち上げ花火だ!」
「ぽしゅん」
「ひゅるるるるー」
「っぱぁぁぁぁぁんっ!!」
だからなんでいちいち口で音を言うんだこいつら。
まぁ、楽しそうだからいいか。
その後も僕らはありったけの花火に火をつけまくって遊んだ。
――夜の庭に咲いては散っていく光の花々。
夏の最後を彩るには申し分ない時間だった。
「ちりちりちり……」
「ちり……ちり……」
これ線香花火の音ね。言ってるのはカカとサエちゃん。
「ぽしゅん」
あ、サユカちゃんの声と共に火が落ちた。
「ご臨終です」
「なんまいだーなんまいだー」
「これが本当のお線香花火ねっ!」
ほんと仲いいなーこいつら。
明日から学校。でもこいつらにとっては場所が変わるだけで、結局いつも一緒にいるってことは変わらないんだよな。
……うらやましいな。
そんなことを思いつつ、僕は次の花火に火をつけるのだった。
「……ちりちり」
「あ、トメ兄……ぷふ」
「トメお兄さーん♪」
「トメさん可愛い……」
「なんだよニヤニヤするなよおまえらだって口で言ってただろ! ちょっとやってみたくなったんだよ悪いか!!」
「「「べーつにー♪」」」
こいつらムカツク。
さて、夏休みも終わり、明日から新学期が始まります。すぱぱん!!
え? 土曜日?
ゆとり教育だから学校は休み?
そんなの知りません^^