カカの天下191「泳げないのもステータス」
「ほい、おいっちにー、おいっちにー」
おいっちにーカカです。
今日は学校のプールに来ています。サユカンを泳げるようにしようと、サエちゃんと協力して猛特訓中なのです。
「うぅ……この間、トメさんが教えてくれるって言ってたのになぁ」
私に手を引かれてバタ足しながらぼやくサユカン。
「仕方ないでしょ。泳ぎに行く暇なかったんだから」
「ほらほらー、足下がってるよー」
少し不満顔のサユカンだけど、サエちゃんに言われてしぶしぶ脚を動かす。
おっとっと、サユカンが急に進んできたから手を引いてる私はちょっとよろめいた。
まったくもう、急におっとっと(お菓子)食べたくなっちゃったじゃんか。
「ねえカカちゃん。サユカちゃんのバタ足はもう大丈夫じゃないかなー」
「うん、手の動きの練習ももう大丈夫だと思う」
一旦サユカンを引く手を離して、サエちゃんと向き直る。サユカンは「おっとっと」と言いながらも体勢を立て直した。サユカンも食べたいのかおっとっと。
「じゃ、なんでサユカン泳げないんだろ」
「うーん、潜ることも少しはできるんだしー、泳げてもおかしくないよねー」
「……そ、そう? じゃ、いっかい泳いでみる!!」
「あ、サユカン」
止める間もなくプールの端まで移動するサユカン。
水中で壁を蹴る。すいっ、とまっすぐ進んだサユカンはクロールの形に腕を振って水をかく。
うん、綺麗な動きだ。バタ足も勢いがある。
でもなぜかそのまま沈んでいった。
「サユカン、だいじょぶ?」
「はぁ……はぁ……なんとか」
レスキューカカによって助け出されたサユカンは息も絶え絶えに返事をした。
「サユカちゃんさー、もしかして息継ぎがうまくできないんじゃないかなー」
ああ、なるほど。そこがあったか。
「じゃさ、泳ぐ前に深呼吸を十回くらいしてみたらどうかな。こないだテレビで見たんだけど、すごい潜れる人がやってた。しばらく息止めてても大丈夫になるんだって」
海女と書いてアマとかいう人の話だったかな?
「じゃ、やってみる!」
「私たちは潜って水中でサユカちゃんの様子を見てみようかー」
「そだね」
サユカンは深呼吸を繰り返した後、再びプールの端へと移動した。
水中で壁を蹴って、スタート!
泳ぎ始めた!
ブバッ!!
吸いためた空気が口から全部出た!!!
サユカンはそのまま沈んだ……
「サユカちゃん、だいじょぶー?」
「げほっ、げほっ、げほっ……な、なんとか」
レスキューサエちゃん(多分有料)に助けられたサユカンは死にそうなくらいセキをしながら答えた。
「んーとー、たぶん、潜るだけなら大丈夫でも、水中で身体を動かすと息を止めてられないんじゃないかなー。ほら、一度のことをいっぺんにって慣れてないと難しいでしょー?」
おー、さすがサエちゃん。私の惚れた女だけあって頭がいい。
「じゃ、どう、すれば……」
「思いっきり口を固く閉じればいいんじゃないかな」
助言を受けたサユカンは三度、プールの端へと移動した。溺れまくってるくせにたくましい。
私とサエちゃんは潜ってサユカンの様子を見る。
サユカンが水中で壁を蹴って泳ぎ出した!
ぎゅ、と固く結ばれる口。
ブバッ!!!
鼻から空気が吹き出した。
「ふぃあぃー。はぁぃー、ふぃぅー、はぁぃぁー……」
カカサエレスキューコンビによって救い出されたサユカンは不思議な呼吸をしていた。
なんかヤバめ。
「鼻とは盲点だったねー」
「ガムテープで閉じちゃおうか。水の中でも少しはもつでしょ」
「それ、意味あるのかなー」
「慣れるのが大事だし、息継ぎとかできるようになるまで、ってことでどうかな」
と、いうわけで。わざわざ更衣室まで戻ってとってきたガムテープを使ってサユカンの鼻を閉じる。ついでに口も閉じる。なぜ更衣室にそんなものがあったのかは知らない。
「さぁ、サユカン、ゴー!」
「頑張ってーサユカちゃん」
んむ!! と喋れないながらも気合を入れるサユカン。三回も溺れたのに根性あるなぁ。
勢いこんでプールに入るサユカン。
そのまま沈んだサユカン。
あれ?
もう溺れた?
「そういえばー、口と鼻で息ができないと、人って死ぬんじゃなかったっけー」
……あ。
レスキューコンビ出動!!!
殺人犯コンビになる前に急げ!!
――結局、その日のうちにサユカンが泳げることはなかった。
息が出来ないと人は死にます。忘れないように。
……忘れる人いないって(^^;
題名の意味ですが、泳げない=教えてもらえる=交流が増えるきっかけになる、というものです。
そのステータスを生かしてトメと接近!
できませんでしたね。残念!