カカの天下190「乾杯は終わらない」
「かんぱーい」
「かんぱい、っと」
カチン、と互いのジョッキグラスをぶつけて自分のビールに口をつける。
んぐんぐんぐ……ぷはぁー! ども、トメです。オヤジくさいとか言わないでくださいね。
今日は先日の飲みなおしということで、再びテンと飲みにきました。
「今日はカカとか追っかけてきてないだろうな」
「大丈夫だ、今日は教えてねぇよ。サユカも言いたいことは自分で言うらしいしな」
「だからさ、サユカちゃんは何を言いたいんだ?」
「教えない」
「なんでさ」
「そのほうがおもしろいからだよ、命短し恋せよ乙女。かんぱーい」
「もうしただろ」
「酔っ払いっていうのは何回もするもんだ。ほれ」
カチン、とジョッキをぶつける。
「誤魔化したな」
「いやいや、もうすぐ夏休みが終わるんだぜ? 乾杯くらい何回もさせろよ」
「嬉しそうだな」
「まぁな」
テンはビールをぐいっとあおって飲み干し、通りがかった店員さんに声をかけた。
「そこのおねーちゃん! 生一つ!」
「あ、はーい。生ビールをお一つですね。ご注文は以上でよろしいですか?」
「あとね、おねーちゃんを一つ」
オヤジかおまえは。
「あー、すいません。私は非売品なんですよー。なにせ世界に一つしかないレアものなので」
そりゃそうだ。手馴れてるなぁねーちゃん。
にこやかに去っていく店員にひらひら手を振って、テンはこっちに向き直る。
「もともとオレは学校が好きで教師になったんだ。そりゃ授業が始まるとなったら嬉しいもんさ」
「へぇ、やっぱ子供好きなんだな」
クールっぽい顔に似合わず可愛いこと言うな。
「ああ、特にカカみたいな変なのは大好物だ」
「好物とか言うな」
食べるなよ?
「なんだよ、トメだってカカとかサエとかサユカとしょっちゅう遊んでるじゃねぇか。大好物なんだろ? 小学生の女の子」
「変質者みたいな言い方やめい!」
食べたりしないからな絶対に!
おいしそうとはちょっと思うけど! って何言ってるんだ僕は!?
ちょっと酔ったかな……口に出さなくてよかった。
「おいしそうねぇ、やっぱ好物なんじゃん」
「口に出してたのか僕!?」
けけけ、と意地の悪そうな笑い声をあげるテン……くそぅ、やっぱ酔ったかな。
「ビールだけじゃすぐ酔うわ。つまみ頼もう」
「おぅ、オレはなんでもいいからトメの好きなの頼めよ」
「んー……じゃイカの黒造りを」
「トメはサエちゃん狙いか」
「なんでだ!?」
「黒色の選んだから」
「なぜサエちゃんのイメージカラーを知ってる」
「前にスイカ割り大会してただろ。そのとき観客に混じってたんだよオレ。グッジョブ!! って最初に叫んだのオレだぞ」
あー、大騒ぎしてたせいで結構な人数の野次馬が集まってきてたからなぁ。全然気づかなかった……
「だから、別に僕はロリコンじゃないんだからそういうのは――」
「でもシスコンだろ?」
「……や、その、違」
「わないだろ?」
…………や、たしかに最近カカのこと以外で趣味とかないなぁと思ってたところだけどさぁ、でもシスコンっていう響きがその、ねぇ?
「シスコンにかんぱーい」
「……かんぱい」
カチン、とジョッキをぶつける。
「大好きな妹にかんぱーい」
カチン、ときた。コノヤロウ。
「テン、いい加減にしろよ。おまえだって子供を大好物って言ってるんだからロリコンみたいなもんなんだからな」
「おぅ、オレはロリコンだぞ」
あれ、認めやがったこいつ。
なんて男らしいんだ。女のくせに。
「かんぱーい」
「……かんぱい」
にやにやしているテンを睨みながら、僕は本日何回目かの乾杯をした……
ええい! 負けっぱなしは癪だからせめて酒だけでも勝ってやる! まずは追いつかないとんぐんぐんぐ!
「すいませーん、生おかわり」
「オレもー」
はやっ!!
三時間後。
酒でも口でも全敗な僕がいた。
こなくそー。
前回の飲み編が書き足りなくてもう一回書いちゃいました。かんぱーい。
でもまだ書き足りないですね^^;
まぁこの二人は今後もたまに飲むことになるでしょうし、いいですけどねっ。まだ泥酔編とか書いてないですし……ふふふ。