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カカの天下  作者: ルシカ
189/917

カカの天下189「過ぎる夏」

「山だ!」


「てっぺんだー」


「空気がおいしいっ!」


 深呼吸していい気分なトメです。


 夏休みも終盤ということで、今日は最後の思い出作りに近くの山へ妹たちを連れてきました。


「やっほー!!」


 ――やっほー!!


 思い切り叫んだカカの声は、やまびことなって返ってきます。


「山だよヤッホー!」


「いい景色だよーヤッホー!」


「君らさ、いくらなんでも元気すぎ」


「サユカンも言いたいくせに」


「言いたいくせにー♪」


「そ、そんなことは……で、でもそこまで言うならしょうがないわねヤッホー!!」


 あ、やっぱ言いたかったのね。


「セミがうるさいヤッホー!」


 確かに山だけあって周りはミンミンの嵐だ。ミンミン。


「合わせてー、セミッホー!」


 なぜ合わせる。


「略してっ、ミッホー!!」


 なぜ略す。


「よーし、みんな、せーのっ」


「「「ミッホー!!!」」」


 ――ミッホー! ミッホー!! ミッホー!!


 やまびこも合わせて幾重にも重なる「ミッホー」という声。


「おまえらどこのミホさんのファンだ」


 ライブの声援にしか聞こえなかったわけで。




 さんざん「ヤッホー」とか「ミッホー」で遊んだあとは、シートを広げてランチタイムだ。


「ほれ、食え」


 僕お手製のお弁当を広げてみせると、三人はらんらんと目を輝かせた。ケモノの目だ。


「すごいお弁当!」


 そうだろうそうだろう。


「ほんとに、すごいですねーお弁当」


 うんうん。


「写真とりたくなるくらいすごいですねっ、お弁当!」


 弁当ばっかほめてないで誰か僕をほめろよ。




 ランチタイムのあとは、みんなで虫取りをして遊んだ。うむ、夏の遊びの定番だ。最近の子はやらないらしいけど。


「トメさんっ、セミを捕まえました!」


 さすがサユカちゃん、無難だ。


「トメおにーさん、クワガタ捕まえましたー、これ売れるんですよねー」


 さすがサエちゃん。おいしいところを持っていく。


「トメ兄、ほら。さんようちゅう捕まえた」


「それはただの幼虫だ」


 三葉虫ってのは大昔に絶滅した節足動物のことだぞ。


「じゃあ、ようちゅうさん?」


「なぜ虫にさん付けする筋合いがあるのか多いに疑問だが、まぁ間違ってはいないな」


 さすがカカ。一味違う。




 その後も僕とカカたちは目いっぱい遊んだ。


 子供というのは本当に次から次へと遊びを思い付くもので、まったく退屈する間もなく夕方になってしまった。


 遊び疲れた僕らは、ひぐらしの合唱に耳を傾けながら帰路についた。 


 ――下り道を歩く途中、ふと立ち止まる。


 楽しかった時間を振り返るように、山を見上げてみる。


 めっきり涼しくなってきた風に、山の木々が気持ちよさそうに揺れていた。


 ……夏もそろそろ終わり、だな。


 少し寂しさを胸に残しながら、僕は先行く妹たちの元へと急いだ。

  

 世界中のミホさん、勝手にアイドルにして申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます。

 

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