カカの天下189「過ぎる夏」
「山だ!」
「てっぺんだー」
「空気がおいしいっ!」
深呼吸していい気分なトメです。
夏休みも終盤ということで、今日は最後の思い出作りに近くの山へ妹たちを連れてきました。
「やっほー!!」
――やっほー!!
思い切り叫んだカカの声は、やまびことなって返ってきます。
「山だよヤッホー!」
「いい景色だよーヤッホー!」
「君らさ、いくらなんでも元気すぎ」
「サユカンも言いたいくせに」
「言いたいくせにー♪」
「そ、そんなことは……で、でもそこまで言うならしょうがないわねヤッホー!!」
あ、やっぱ言いたかったのね。
「セミがうるさいヤッホー!」
確かに山だけあって周りはミンミンの嵐だ。ミンミン。
「合わせてー、セミッホー!」
なぜ合わせる。
「略してっ、ミッホー!!」
なぜ略す。
「よーし、みんな、せーのっ」
「「「ミッホー!!!」」」
――ミッホー! ミッホー!! ミッホー!!
やまびこも合わせて幾重にも重なる「ミッホー」という声。
「おまえらどこのミホさんのファンだ」
ライブの声援にしか聞こえなかったわけで。
さんざん「ヤッホー」とか「ミッホー」で遊んだあとは、シートを広げてランチタイムだ。
「ほれ、食え」
僕お手製のお弁当を広げてみせると、三人はらんらんと目を輝かせた。ケモノの目だ。
「すごいお弁当!」
そうだろうそうだろう。
「ほんとに、すごいですねーお弁当」
うんうん。
「写真とりたくなるくらいすごいですねっ、お弁当!」
弁当ばっかほめてないで誰か僕をほめろよ。
ランチタイムのあとは、みんなで虫取りをして遊んだ。うむ、夏の遊びの定番だ。最近の子はやらないらしいけど。
「トメさんっ、セミを捕まえました!」
さすがサユカちゃん、無難だ。
「トメおにーさん、クワガタ捕まえましたー、これ売れるんですよねー」
さすがサエちゃん。おいしいところを持っていく。
「トメ兄、ほら。さんようちゅう捕まえた」
「それはただの幼虫だ」
三葉虫ってのは大昔に絶滅した節足動物のことだぞ。
「じゃあ、ようちゅうさん?」
「なぜ虫にさん付けする筋合いがあるのか多いに疑問だが、まぁ間違ってはいないな」
さすがカカ。一味違う。
その後も僕とカカたちは目いっぱい遊んだ。
子供というのは本当に次から次へと遊びを思い付くもので、まったく退屈する間もなく夕方になってしまった。
遊び疲れた僕らは、ひぐらしの合唱に耳を傾けながら帰路についた。
――下り道を歩く途中、ふと立ち止まる。
楽しかった時間を振り返るように、山を見上げてみる。
めっきり涼しくなってきた風に、山の木々が気持ちよさそうに揺れていた。
……夏もそろそろ終わり、だな。
少し寂しさを胸に残しながら、僕は先行く妹たちの元へと急いだ。
世界中のミホさん、勝手にアイドルにして申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます。