カカの天下181「サユカの任務、肘編」
「わたしは悟ったわっ!」
こんにちは、サユカです!
今日はサエすけの部屋でカカも一緒に、三人でひたすら漫画を読む一日を過ごしていたのです。サエすけ漫画いっぱい持ってるから。
そしてわたしは発見した!
「どったのサユカン」
「この漫画っていうものは、一番すばらしい恋愛の教科書だと思うの!」
「でもサユカちゃん、その漫画って格闘ものー」
それは置いといて!
「つまり、この漫画みたいにトメさんに」
「勝負を挑めば、殴りあった末に河原で分かり合えるってわけか」
「わぁ、男くさーい」
「ちっがう!」
まったく、何を言ってるんだこの二人は。
「つまり! トメさんに、食パンくわえながら登校中に衝突すればすべてがうまくいくのよっ!」
「まったく、何を言ってるんだこの人は」
ぅあ、たった今のわたしの心の中のセリフで反撃された!?
……ぇ? あれれ、なんか男の人の声だったような。
「どこだテレパシートメ兄! 久しぶり!」
わ、びっくりした!
「カカ? なんでキョロキョロしてるの、左右だけじゃなく上下まで」
「また逃がしたか……んーん、なんでもない。そいで、なんでそんなバカ丸出しなこと思ったの」
「サユカちゃんって時々頭おかしくなるよねー」
「そして君らはいっつも容赦ないわよね……」
友達の気安さで言ってるのはわかってるんだけど、ときどきマジで凹むんですけど……
「だってさ。この漫画、その出会い方したらそのままバラ色ハッピーエンドなんだもん」
「それ、格闘漫画じゃなかったの? サエちゃん」
「うん、そのヒロイン役の子と衝突したときに肘が入ってねー、ストリートファイトが始まるの。それで学校でも会うたびに戦いを重ねていくうちに結ばれるお話」
「結局戦うんじゃん」
「戦わないわよ! ただ、始めが肝心って言うじゃない? だからこの漫画と同じ始まりをすればトメさんとも……というわけで今すぐ登校中にトメさんに」
「肘をくらわすんだね」
「そう!」
あれ? そうだっけ?
「おもしろいね」
「でも登校中ってー、夏休み中に難しいこと言うねー」
「や、細かいこと気にしないでやっちゃおう」
さぁ、というわけで作戦実行!
口に食パンをくわえて、会社帰りのトメさんを待ち伏せ!
「さぁ、がんばってサユカン」
「がんばれーサユカちゃん」
何かが違うような気がしてならないんだけど……あぁトメさんがきたっ!
「や、やるしかないわよねっ」
「ほんとサユカンっておもしろいなー。変に流されやすくて」
「トメさんが絡むと特にねー。おもしろいからいいけどー」
カカすけとサエすけが何か言ってるけど緊張のせいで聞こえない……
ここから、新たな一歩が始まるんだ!
え、ええぃ! 突撃だ!
トメさんに向かってダッシュ!
ああでも怖いから目を瞑って……
あの漫画を思い出すのよ!
腰を落として大地を踏みしめ、下方から抉りこむように右肘!
相手が浮いたところで放った肘からそのまま裏拳!
勢いを殺さず左の掌底でとどめよ!
「思い出しすぎ」
どこからか声が聞こえてきたけどきっと気のせいだ!
「ぐほぁ!?」
あれ、トメさんと違う声。
目をあけてみると……そこには地面に倒れ苦しむ怪しげな覆面男。
間違えたっ!? でも誰これ。
「ひったくり犯の逮捕にご協力感謝します!」
ふぇ?
いつの間にか警官姿の……たしかシューさんだっけ、その人に手を握られてブンブン振り回されてる。ナニコレ。
「サユカン、ナイス肘!」
「サユカちゃん、かっこいー」
「サユカちゃん」
気がつけば目の前にトメさんが!
「ないすふぁいと!」
ビシッ、と親指をたてるトメさん。
えっと……なんかワケわかんないけど結果オーライ?
後になって自分がどれだけバカなこと言ってたか気づいた……格闘漫画なんかに流されるのはよくないねっ。
おとなしく少女マンガ読んでよ。
「結局また読むんかい」
あれ? またどこからか声が……
気のせいか。
サユカちゃんナイスふぁいと!
ちなみに格闘漫画は特に元ネタはありませんのであしからず。
にしてもカカ天のキャラって皆妙に強いなぁ……