カカの天下177「サエちゃんは見える人」
「ただいまー」
「おかえりー」
「おかえりなさい、トメお兄さん」
どうも、お盆にも関わらず出勤させられてるトメです。うちの会社のお盆休みは明日からたった三日……少ないぞぅ。もと休ませろぅ。
「あれ、サユカちゃんは?」
「お墓参りあるからこれないんだってさ」
「今頃、きっとお墓の前で報告してますよー。好きな人が、できました……って」
おお、青春ドラマっぽい。
にしてもサユカちゃん、好きな人がいるのかー。クラスの子とかかな。
「そんなことホントに言ってるかと思ったらニヤニヤしちゃうよね」
「……あ、ほんとに言ってたみたいだよー」
サエちゃんさま、なぜに誰もいない方向を向いているのでせうか?
「サエちゃん、なんでわかるの?」
「こちらの方がそう言ってるのー」
「どちらの方!?」
この人です、とサエちゃんが向ける視線の先には冷蔵庫しかないんですけど!?
「どちらの方って……あちら」
そう言って上を指差すサエちゃん。
……天国のお方?
「あちらってどちらよ!!!」
あちらどちらこちらってうるさいな。
「ほら、お盆だからいっぱいいるんだよー」
「なにがいるの!? あ、言わないで! いるわけないんだから!」
「あれ、サユカちゃんの話聞いてニヤニヤしないのー?」
「できるかっ!」
そういえばサエちゃんって見える人だっけ。
そしてカカはそういうのが大の苦手な人なんだなこれが。
ちょっと迷ったあと、くーんくーん……と怯えている犬のように僕にすがり付いてくるカカ。
「暑い」
げしっ、と蹴り飛ばした。だってマジに暑いもん。
「私は寒いんだよ!」
「それは羨ましい」
「じゃあ代わってよ!」
「どうやって?」
「トメ兄が怖がって私がツッコミやるの!」
「カカこわーい」
「私に怖がるな!」
もう何がなんだか。
「カカちゃん、可愛いですねー」
「サエちゃん……あのテーブルの下に潜りはじめたヤツのどの辺が可愛いのか、君とは今度じっくり話したいと思ってるよ」
「じゃあ一晩明けますね♪」
明けるんだ……
「トメお兄さんはそういうの、怖くないんですか?」
「ん? 幽霊とかか」
「はい」
「んー……幽霊っていっても別に悪さしないんだろ?」
「そうですねー。自分を殺した相手とかにはイロイロするみたいですけど」
そういうの聞くと怖いが……
ゴン! ぐら、パリーン!
「……いたい」
「ああやってテーブルの下に頭ぶつけてコップ落として割るような妹のほうがよっぽど怖いわ。いつかコップじゃ済まない気がしてな」
はぁ、片付けないと。
「なるほどー。あ、カカちゃん。右肩に青白い手が」
ゴン!!!
「……いたぁい」
「カカちゃん、かわいい♪」
……あと、そうやってニヤニヤしてる今のサエちゃんも結構怖いぞ。
「でしょ♪」
「や、でしょって……」
心読まれた?
どんどん侮れなくなってくるサエちゃん……
サエちゃんはそういうの見える人です。
結構前の話ですけど、姉と同じもの見てたときもありましたね。
まさか……サエちゃんは姉化してる!?
……なぃなぃ。
まさかまさか。
こわいこわい。