カカの天下173「ミッション・イン・飲み会 前編」
「よう、トメ」
「こんばんは、テンカせんせ」
「堅苦しいなぁ。こっちがトメって呼んでるんだからそっちも呼び捨てでいいよ」
「んじゃ略してテンで」
「急にフランクになったな、まぁいいが」
フランクな感じのトメです。
今日はカカの担任であるテンカ先生と飲みにきました。テンカ先生、いやテンは歳も近いし話しやすいからノリでこんな約束をしたわけですが……別に他意はないよ?
格好いい女性とは思うけど、いかんせん格好よすぎて男友達と同じに思えるのだ。
「で、今日はここで飲むのか」
「おぅ、オレのいきつけだ。トメは酒強いか?」
「それなりには」
そんな会話をしながら入ったのは『病院』という居酒屋。なんとも入りにくい名前である。というか居酒屋に聞こえない。これで結構流行ってるらしいのが驚きだ。
「いらっしゃいませ……おお!」
「テンちゃんが男連れてきた!?」
「なに!?」
「彼女じゃなくて!?」
入った途端に叫ぶ店主っぽい人と店員っぽい人とお客っぽい人。皆どんだけ常連なんだよ。というかテンは一応女なのに彼女ってどういう意味だ。
「あーうるせうるせ。いいから席通せ」
気さくに笑う店員に案内され、少し奥の席に通される。
「あ、そうそう。後からくる子らはちゃんとあっちの席に」
「あ、はいはいわかってますよー」
にしし、と笑いながら店員と話すテン。
「何の会話だ?」
「あ、こっちの話だから気にしなくていいぞ。とりあえず生ビールでいいか?」
「おう」
「ね、いいの? こんなとこ入って」
「今頃この中でトメ兄とテンカ先生はらぶらぶげっちゅうだよ」
「ゆくぞものども!」
「二人ともー、ちょっと落ち着こうねー」
どうも、カカです。
ただいまトメ兄の後をつけていて病院にたどり着きました。
妙にお酒くさい病院です。そんなに消毒液をどばどば使ってるのでしょうか?
「だってさ、サエすけっ。とりあえず入ってみるしかないんじゃないのっ?」
「でも病院って書いてあるよー? 中で何してるのかなー」
「病院……お医者さんごっことか?」
あの歳で?
「いこっ! 続けサエちゃんサユカン!」
二人の手をひいて入ると、そこには病院のような雰囲気は欠片もなかった。
騒がしい店内、おいしそうな匂いとお酒の匂い。そして……
「「「いらっしゃい!」」」
店員はもちろんなぜかお客っぽい人まで合唱するこの妙な雰囲気。なんでみんなそんなニヤニヤしてんの。
「ご予約のお客さまですね、どうぞこちらへ」
予約?
わけがわからなかったけど、てっきり追い出されると思っていたから奥にいけるなら文句はない。私たちは困惑しながらも店員さんについていく。
そして通された席に座って……私たち三人は同時に気づいた。席を分けるすだれの向こうは……なんと、トメ兄とテンカ先生の席だった。
トメ兄はこちらに背を向けている形。そしてテンカ先生はすだれの向こうからこちらを見て――見てるしっ!?
「なにこれ、どゆこと?」
「サユカン、これはテンカ先生が仕組んだことみたい」
「……つまり、どゆこと?」
「挑戦されてるんだよ、サユカン!」
「そゆことかっ! よーし、受けて立つ!」
「二人とも落ち着いてー」
「これが落ち着いていられるかっ!」
「そうだよ、サユカンのために!」
「落ち着いて静かにしないとトメお兄さんたちの会話聞こえないでしょー」
そう言いながらすだれに耳を押し当ててるサエちゃん。なんだかんだで一番聞きたいんじゃないの?
と、言いつつ私たち三人は仲良くすだれに耳を押し当てる。
そのとき。
「失礼しまーす。はい、オレンジジュースでいいですよね?」
「……あの」
「あ、サービスですからお気になさらず。どうぞ盗聴を続けてください」
「「「は、はい……」」」
ここどんな店なんだ? あ、病院なんだっけ。
そっかそっか。
……どんな病院だよ。
ま、いいや。それよりもトメ兄とテンカ先生の会話を盗み聞きしないと!
サユカンのために!
あくまでサユカンのために!
トメとテンカ先生は何を喋るのか、次回へ続きます。
にしてもいいですよね、この暑いときに生ビール。
あ、書き忘れてました。
この病院はフィクションですのであしからず!




