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カカの天下  作者: ルシカ
171/917

カカの天下171「海から見ればそんなもん! 後編」

 どうも、カカです。ただいま海でサユカンと遊んでいたところだったのですが……


「お、浜辺にトメ兄たち見っけ」


「……うぁう」


 たった今までいつも通りだったのに、トメ兄の姿を見ただけであたふたしてるサユカン。


 ダメだこりゃ。


「サユカン、ちょっと待ってて」


 私は先行して浜辺に向かって泳ぎ出した。


 するとトメ兄と一緒にいたサエちゃんも何か察したのか、こちらに向かって一人で歩いてきた。


 ちょうど海と浜の境目あたりで私とサエちゃんは合流する。


「サエちゃん、トメ兄はどう?」


「んー、ちょっとは元気でたと思うんだけどー」


「こっちもそんな感じ。どうする?」


 二人の仲が微妙なままだとつまんない。


 や、いい意味で微妙ならおもしろいんだけど……今みたいに居心地の悪いすれ違いをされていては、楽しい海水浴も台無しになってしまう。


「どうやったら仲直りするかな」


「ケンカしてるわけじゃないから謝るのも変だよねー」


「とにかく話してもらわないとね」


「何か共通の話題とかー、趣味とかー、そういうのがあればいいんだけど」


 共通……共通……トメ兄とサユカちゃん……


 あ、そうだ。


 いいこと思いついた。




「第一回、息がどこまで続くか大会!」


 どんどんぱふぱふー、と私とサエちゃんで適当に盛り上げる。


「ルールは簡単! みんなで一斉に海に潜って、一番長く息が続いた人の勝ちです」


「みんなって……そういや四人しかいないな。姉はどした?」


「お姉さんならさっき、海の家の店員さんに焼きそばの焼き方を教えてましたよー」


「……なにをしとるんだあの人は」


「まぁまぁ、お姉ははずそうよ。あの人ならバミューダ海域に石のせて沈めても多分平気で帰ってくるよ。圧勝しちゃうよ」


 ちなみにバミューダ海域っていうのは、たしか死の海とか言われて恐れられている場所だ。よく知らないけど。


「つくづくバケモノ、というかイロモノだな姉って」


「さぁさ、準備はいい? あ、トメ兄それはずして」


「……む」


 トメ兄の頭にあった水中メガネを奪い、いざスタンバイ。


 さっきからサユカンは一言も喋っていない。トメ兄もそれを気にしてるようだけど……まどろっこしいなぁ、もう!


「じゃ、用意……スタート!」


 合図と同時に、パチャン! と一斉に水面に顔をつける。


 私とサエちゃん以外は。


 サエちゃんと目を合わせて、二人してにんまり笑う。


 私たちはズルしている。でもばれない。


 なぜなら……サユカンはもちろん、水中メガネをはずしたトメ兄も、水中で目を開けていられないからだ!


 サエちゃんは私に手の平を見せる。じゃんけんのパー、じゃない。カウントだ。


 五、四、三、二、一……


 私とサエちゃんは水面に顔をつける、と同時にトメ兄とサユカンが「「ぷはぁ!」」と顔を上げたらしい声が聞こえた。ビンゴ。


「はぁ……はぁ……あ」

「あ、さ、サユカちゃんと同着かぁ」


 あんまり深く潜ってないから水上の会話が聞こえる。盗み聞きしてるみたいでちょっとドキドキ。


「いやぁ、僕さ、水中メガネなしで潜るの苦手で……」


「あ、そ、そそ、そうなんですか、わ、わたしもなんだか怖くて……」


「は、はは」


「ふ、ふふ」 


 あー、ガチガチだなぁこの二人。


 やっぱ失敗だったかなぁ……


 …………


 ……あれ? なんか静かになった。


「海、広いね」


「広い、ですね」


「こうしてると、二人しかいないみたいだね」


「そう、ですね」


「……僕たち、ちっぽけだね」


「……そう、ですね」


 ふぅー、と。


 長い吐息が聞こえた。


 それはまるで、リラックスして深呼吸したかのような……


「……しかし長いな、こいつら。カカはわかるけどサエちゃんまで」


「カカすけといつも一緒にいるから、サエすけの肺までカカ化してきたんじゃないですか?」


「カカ化、そりゃ大変だ」


「カが三つもあって言いにくいですしねっ」


「ははは! 確かに。カカ化かー」


「カが四つになりましたよっ」


「もっと言いにくくなったじゃないか!」


 楽しそうな笑い声が聞こえる。


 なんかよくわかんないけど作戦成功だ!


 だだっ広いところで二人きりになれば会話せざるをえないだろう、と思いついたこの作戦。


 うまくいってよかった。


 ただ……一つ、誤算が……


「ん、おい、なんかカカとサエちゃん……」


「もしかして……溺れてるっ!?」


 この仲いい会話を聞いてると……ひっじょーに水面から顔を出しにくいということだ。邪魔するのが申し訳なくて。多分サエちゃんも同じだろう。


 というわけで……ぶくぶくぶく……




 急いで助けられた私とサエちゃんだが、少し頭痛が残っていたのでしばらく浜で休憩させられた。


 ……でも回復したあとはいつも通り、みんなで遊んだ。


 トメ兄とサユカンはいつも通りの笑えるすれ違い。


 サエちゃんはいつも通りその二人で遊んでる。


 姉はいつも通りぶっとんでる。


 ああ、楽しい。でも疲れた。


 やっぱ気を使うのは性に合わない。


 明日からは私もいつも通り、周りに気を使わせるとしよう。


「ところでサユカン、カカ化ってなにさ」


「あー、その……カッカッカ!」


「笑って誤魔化すな!」


「「カッカッカッカ!」」


「トメ兄も混ざるな!」


「「「「カッカッカッカ!」」」」


「合唱するなー!」

 

 笑い声と潮の歌を聴きながら。


 もう一回くらい、ここにみんなで来たいなと思った。


 まだまだ、夏は長いのだから――


 海から見ればそんな問題ちっぽけなもんだ。

 よくある話ですね。広大な世界を見て、自分や自分の問題がちっぽけに見えるっていうのは。そんなよくある話が結構好きなので、今回はカカたちに味わってもらいました。


 悩むのも大事ですが、ふとしたときに肩の力を抜くことも大事ですよね。

 自分がちっぽけだと思って落ち込むこともあれば、自分の問題のちっぽけさに気が楽になることもある。ほんと、海ってにくらしいほど影響力あるもんです^^;

 にくらしいほど、と言いつつ大好きですけどね、海。

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