カカの天下171「海から見ればそんなもん! 後編」
どうも、カカです。ただいま海でサユカンと遊んでいたところだったのですが……
「お、浜辺にトメ兄たち見っけ」
「……うぁう」
たった今までいつも通りだったのに、トメ兄の姿を見ただけであたふたしてるサユカン。
ダメだこりゃ。
「サユカン、ちょっと待ってて」
私は先行して浜辺に向かって泳ぎ出した。
するとトメ兄と一緒にいたサエちゃんも何か察したのか、こちらに向かって一人で歩いてきた。
ちょうど海と浜の境目あたりで私とサエちゃんは合流する。
「サエちゃん、トメ兄はどう?」
「んー、ちょっとは元気でたと思うんだけどー」
「こっちもそんな感じ。どうする?」
二人の仲が微妙なままだとつまんない。
や、いい意味で微妙ならおもしろいんだけど……今みたいに居心地の悪いすれ違いをされていては、楽しい海水浴も台無しになってしまう。
「どうやったら仲直りするかな」
「ケンカしてるわけじゃないから謝るのも変だよねー」
「とにかく話してもらわないとね」
「何か共通の話題とかー、趣味とかー、そういうのがあればいいんだけど」
共通……共通……トメ兄とサユカちゃん……
あ、そうだ。
いいこと思いついた。
「第一回、息がどこまで続くか大会!」
どんどんぱふぱふー、と私とサエちゃんで適当に盛り上げる。
「ルールは簡単! みんなで一斉に海に潜って、一番長く息が続いた人の勝ちです」
「みんなって……そういや四人しかいないな。姉はどした?」
「お姉さんならさっき、海の家の店員さんに焼きそばの焼き方を教えてましたよー」
「……なにをしとるんだあの人は」
「まぁまぁ、お姉ははずそうよ。あの人ならバミューダ海域に石のせて沈めても多分平気で帰ってくるよ。圧勝しちゃうよ」
ちなみにバミューダ海域っていうのは、たしか死の海とか言われて恐れられている場所だ。よく知らないけど。
「つくづくバケモノ、というかイロモノだな姉って」
「さぁさ、準備はいい? あ、トメ兄それはずして」
「……む」
トメ兄の頭にあった水中メガネを奪い、いざスタンバイ。
さっきからサユカンは一言も喋っていない。トメ兄もそれを気にしてるようだけど……まどろっこしいなぁ、もう!
「じゃ、用意……スタート!」
合図と同時に、パチャン! と一斉に水面に顔をつける。
私とサエちゃん以外は。
サエちゃんと目を合わせて、二人してにんまり笑う。
私たちはズルしている。でもばれない。
なぜなら……サユカンはもちろん、水中メガネをはずしたトメ兄も、水中で目を開けていられないからだ!
サエちゃんは私に手の平を見せる。じゃんけんのパー、じゃない。カウントだ。
五、四、三、二、一……
私とサエちゃんは水面に顔をつける、と同時にトメ兄とサユカンが「「ぷはぁ!」」と顔を上げたらしい声が聞こえた。ビンゴ。
「はぁ……はぁ……あ」
「あ、さ、サユカちゃんと同着かぁ」
あんまり深く潜ってないから水上の会話が聞こえる。盗み聞きしてるみたいでちょっとドキドキ。
「いやぁ、僕さ、水中メガネなしで潜るの苦手で……」
「あ、そ、そそ、そうなんですか、わ、わたしもなんだか怖くて……」
「は、はは」
「ふ、ふふ」
あー、ガチガチだなぁこの二人。
やっぱ失敗だったかなぁ……
…………
……あれ? なんか静かになった。
「海、広いね」
「広い、ですね」
「こうしてると、二人しかいないみたいだね」
「そう、ですね」
「……僕たち、ちっぽけだね」
「……そう、ですね」
ふぅー、と。
長い吐息が聞こえた。
それはまるで、リラックスして深呼吸したかのような……
「……しかし長いな、こいつら。カカはわかるけどサエちゃんまで」
「カカすけといつも一緒にいるから、サエすけの肺までカカ化してきたんじゃないですか?」
「カカ化、そりゃ大変だ」
「カが三つもあって言いにくいですしねっ」
「ははは! 確かに。カカ化かー」
「カが四つになりましたよっ」
「もっと言いにくくなったじゃないか!」
楽しそうな笑い声が聞こえる。
なんかよくわかんないけど作戦成功だ!
だだっ広いところで二人きりになれば会話せざるをえないだろう、と思いついたこの作戦。
うまくいってよかった。
ただ……一つ、誤算が……
「ん、おい、なんかカカとサエちゃん……」
「もしかして……溺れてるっ!?」
この仲いい会話を聞いてると……ひっじょーに水面から顔を出しにくいということだ。邪魔するのが申し訳なくて。多分サエちゃんも同じだろう。
というわけで……ぶくぶくぶく……
急いで助けられた私とサエちゃんだが、少し頭痛が残っていたのでしばらく浜で休憩させられた。
……でも回復したあとはいつも通り、みんなで遊んだ。
トメ兄とサユカンはいつも通りの笑えるすれ違い。
サエちゃんはいつも通りその二人で遊んでる。
姉はいつも通りぶっとんでる。
ああ、楽しい。でも疲れた。
やっぱ気を使うのは性に合わない。
明日からは私もいつも通り、周りに気を使わせるとしよう。
「ところでサユカン、カカ化ってなにさ」
「あー、その……カッカッカ!」
「笑って誤魔化すな!」
「「カッカッカッカ!」」
「トメ兄も混ざるな!」
「「「「カッカッカッカ!」」」」
「合唱するなー!」
笑い声と潮の歌を聴きながら。
もう一回くらい、ここにみんなで来たいなと思った。
まだまだ、夏は長いのだから――
海から見ればそんな問題ちっぽけなもんだ。
よくある話ですね。広大な世界を見て、自分や自分の問題がちっぽけに見えるっていうのは。そんなよくある話が結構好きなので、今回はカカたちに味わってもらいました。
悩むのも大事ですが、ふとしたときに肩の力を抜くことも大事ですよね。
自分がちっぽけだと思って落ち込むこともあれば、自分の問題のちっぽけさに気が楽になることもある。ほんと、海ってにくらしいほど影響力あるもんです^^;
にくらしいほど、と言いつつ大好きですけどね、海。