カカの天下169「海から見ればそんなもん! サユカ編」
「はぁ……やっちゃった」
「ほらサユカン、気を落とさないで……」
「そうだよ、サユカちゃんが勢いで失敗するのなんていつものことじゃないのー」
「そうよね……いつもよね……」
「サエちゃん!」
「ごめん、しまったー」
はぁ……とため息ばっかのサユカです。
今日はみんなと海へお出かけ。トメさんが似合うと言っていた(というかカカすけに言わせたんだけど)水着を着て、うきうき気分だったのに……
またまた緊張のあまりに混乱しちゃって……心にもないこと言っちゃった……
きっと……嫌われちゃったよね……
「あ、あのさサユカちゃん」
もうトメさんの顔を見れないよっ!
「サユカちゃんってたしか泳げなかったよね」
もうトメさんの声も聞こえないよっ!
「もしよかったら僕が教えて――」
「カカすけ……泳ぎ教えて」
「……へっ!? あ、いや、でもその……ええ?」
なによぅ……なんでそんな福笑いみたいな複雑な顔してるのよぅ……
「なに、わたしの後ろに背後霊でもいるの?」
「えっと、それに近いものが……」
「そんなのいるわけないでしょ……いこ……」
はぁ、落ち込みすぎだよわたし……
「あーっと……サエちゃん、そっちお願い」
「いえっさー」
二人が何か言ってる……けどどうでもいいや。
トメさんは……ダメダメ! 今はトメさん禁止! あんなこと言っちゃったわたしにトメさんを視界にいれる権利なんてないんだわっ!
「わたしって……最低」
はぁ……海は広いなぁ……
あ、カモメが飛んでる。
自由でいいなぁ……
あ、それを捕まえようとトメさんのお姉さんが跳んでる。
バカはいいなぁ……
「サユカン、大丈夫?」
「あんまし……うううぅ」
カカすけに連れられて海の中に入りつつ、わたしは情けない声で答えた。
「あんなひどいこと言っちゃって、トメさんも怒ってるよね」
「や、怒ってたらあんなことは言わないと思うけど……」
「あんなことってなに? トメさん何か言ってたの?」
「聞こえてなかったの?」
「トメさんの声を聞くなんて……そんな、そんな勇気ないわよおおおおお!」
「どんだけ偉い人なのさトメ兄は」
「わたしの神様……ほら、さっさと教えて」
「でっかいなートメ兄。じゃまず、こないだのプールのときみたいにバタ足で」
手始めのバタ足練習で、カカすけの手に引かれながらちょっとずつ進んでいく。
う、口に水はいった。しょっぱい……な、涙の味じゃないんだからねっ!
「だいたいさー、トメ兄を誰のお兄ちゃんだと思ってるの、私のだよ?」
「ぶくぶくぶくぶく」
それがどうしたのよー、と口を水につけながら言ってみる。
「私みたいなじゃじゃ馬といつも一緒にいるトメ兄が、たかがあんな言葉でサユカンみたいな可愛い子を嫌いになるわけないでしょ?」
「ぶくぶくぶくぶく」
全然可愛くないもん、可愛かったらトメさんだって……とぶくぶく言ってみる。
「サユカンは気にしすぎなんだよ。だからさっきもトメ兄はサユカンに気を使って、泳ぎを教えようかーって言ってくれたのに」
「ぶくぶ!?」
まじで!? とぶくぶく言ってみる。
と、トメさんが教えてくれるって……海で、二人っきりで、つきっきりで!?
「だからさ、トメ兄はサユカンのこと怒ってなんかいないよ。なのにサユカンたら気にしすぎて、せっかく二人だけになれるチャンスを逃しちゃって……」
「ぶくぶくぶくぶく!」
じゃ、じゃあ今からでも! と勢いこんでぶくぶく言ってみる。
……あれ。
カカすけ、なんでそんなにんまり笑ってるの?
「サユカン……元気でたね?」
「ぶ、ぶくぶく」
お、おかげさまで出たけど……
「じゃ、私と心ゆくまで遊ぼうね」
「ぶくぶく!? ぶくぶく……」
え、いや!? わたしはトメさんと二人で……
「だめ、なんかチャンスとか自分で言っててムカついてきた」
なんで!?
「ほーら泳いでこっちまでおいで」
「ぶくぶくぶくぶく!?」
いきなり手を離すなぁ!!
ぶくぶくぶく……
それからしばらく、わたしはカカすけのおもちゃになっていた……
トメさんに教わるチャンスは逃したけど、わたしはホッとしていた。カカすけの言葉を聞く限り、どうやら嫌われてはいないみたいだったから。
「見ないで」とか「来ないで」とか、ひどいこと言っちゃったのは変わりないから会わせる顔がないのは変わりないんだけど……
でもカカすけ、なんでムカついてたんだろ。
ちょっとだけ元気を出したサユカちゃん。でもまだ復活とは言いがたいですね。
そのころトメはどうしていたのか……次回はトメ編です^^
にしてもカカって自分で自分をじゃじゃ馬ってわかってるんですねぇ。