カカの天下167「吸血鬼サカイさん?」
こんにちは、トメです。
最近ムカつくほどに晴ればかり続いている空は、やっと日が落ちかけてきたところだ。倒れる人が続出しそうな殺人的陽光が薄らいで、僕の会社帰りは少しだけ快適だった。
暑いことには変わりないが、程よい風が身体を涼めてくれるのだ。うん、夏って感じ。
そんな夕方に近い時刻。ふと地面を見るとセミの死骸が転がっている。
命短し、か。これも風流だねぇ。
その横に人が転がっている。
風流だねぇ。
……風流?
ちょっと待て。地面に人が転がってる光景が風流だなんてどこの戦場の話だ!?
「ちょっ! 大丈夫ですか!?」
僕は慌てて倒れている人に駆け寄った。
身体に負担がかからないように気をつけながら、そっとその身体を起こすと……
「って、サカイさん!?」
「……ぅ、あれ、トメさん?」
薄らと目を開けたその人は、紛れもなく近所の引きこもり(改善中)のサカイさんだった。
「どうしたんですか!?」
「ぁ……あの、ですね」
「とにかく家に!」
僕は今にも意識を失いそうなサカイさんを背負い、自分の家に駆け込んだ。
カカはまだ帰ってきていないようだった。
サカイさんを居間に運ぶ。急に倒れたようだったから心配だったけど、水を飲ませてあげたらすぐに元気になったようだ。
大したことないみたいでよかった……
「ふぅ……ありがとうございます……おかげで助かりましたー」
「いえいえ。でもどうして急に倒れたりなんかしたんですか?」
「はいー……多分、日光に当たったからじゃないかとー」
は? 日光に当たったから倒れるなんて、そんな吸血鬼じゃあるまいし。それもこんな夕方に近い時間の日光に……
「普段はまったく浴びませんからー」
「い、いくらインドアなサカイさんでも……最近は頑張って働いているんでしょ?」
「はいー。パートをなんとか続けてますー。でもそこは室内ですしー、クーラーが効いてますしー」
「……会社まで移動するときは日光浴びるでしょ」
「移動はクーラーをガンガンにかけた車ですしー、外へ出るときは日傘さしてますしー」
「そこまで徹底するとほんと吸血鬼みたいだねサカイさん」
「わたし、日光と暑さに弱くて……トメさんの血を吸えば強くなります?」
「なりません!!」
ちょっとイケナイ妄想が浮かんだけど却下!
にしてもインドアにも程がある。クイーンオブインドアだ。略してイーンインだ。変なの。
「今日は会社に車と日傘を忘れてしまってー」
「日傘はともかく車忘れるってなに!?」
「歩いて帰ろうとしたらポックリといっちゃったんですー」
「いやポックリ逝っちゃったらダメだから!?」
……久々に話したけど、そういやこんな人だったなぁ……サカイさん。
「歩いて帰れるって、会社って近いの?」
「車で三分ですー」
「近っ!? それで車? しかもその距離で倒れるの!? やっぱサカイさん、あまりに引きこもりすぎて吸血鬼になったんじゃ」
「あらー、引きこもってると吸血鬼になるんですかー?」
「へ、いや、そんな素の顔で返されても」
「じゃあ今の世の中は引きこもりでいっぱいですから……ホラーな社会になりますねー」
そらー厄介な社会問題だ。なんとかできるのか政治家たちよ。ガンバレ。まずは吸血鬼を倒せるように身体を鍛えるのだ。ムキムキ政治だ。
「それはいいとして」
「いいんですかー? 吸血鬼社会。みんな血をちゅーちゅーですよ」
「流そうとしてるんです」
この人わかってて言ってるのか素なのか、ほんとどっちかわからん。
「あ、わかった。カカちゃんに吸ってもらいたいんでしょ。本当に男の人って妹萌えな人が多いんですねー」
「なんでそうなる!?」
あと萌えってなに!?
あ、こないだカカが言ってたっけ。たしか何とも言えない感情だっけ。
カカに血を吸われる? 噛まれて?
どこを噛まれて?
……や、ほんと何とも言えない。
言うわけにはいかない。
僕がいま何をどう思ったかは誰も聞くな。
「トメさん、顔赤――」
「じゃかあしい! ともかくサカイさん。そんな近いんなら会社まで送りますよ。うちの傘使ってください。日傘じゃないですけど、この時間なら普通の傘で充分日よけになるでしょ」
「ありがとうございますー」
というわけで、サカイさんと僕は外に出た。晴れてるのに傘をもって。うーん、変な気分。
「トメさん、吸血鬼って日光に当たると灰になるんですよねー」
「そういう伝説もありますね」
「きゃー!! いやー!!」
「ど、どうしました」
「ハイになってみましたー」
「はよ歩け」
僕の周りってダジャレ好き多いなぁ。
僕? 大好きですが何か。
人間、たまには日光浴びないとダメですよね^^;
久々に登場のサカイさん、見えないとこで頑張ってます。
さて、次回は海の話です。リアルの私も明日海いきます、バーベキューです。
泳ぎません。食べるのみです(ぇ
あ、もちろんトメたちは泳ぎますよ(笑