カカの天下166「本物の鬼は誰だ」
「カカちゃんが鬼だー!」
「にげろーっ!」
ども、サエちゃんとサユカンに逃げられてる鬼のカカです。
あ、本物の鬼じゃないよ? 鬼ごっこの鬼ね。
今日も今日とて暑いけど、元気な子供な私たちは近所の空き地で鬼ごっこして遊んでいます。
「赤鬼だー」
「赤って言うなー! タッチ!」
サエちゃんが鬼だ。
「逃げろー、サエちゃんが鬼だー」
「黒鬼だっ!」
「黒いって言うなー……えっほ、えっほ」
基本的に運動神経のないサエちゃんだけど、私と遊ぶようになってからはだんだんと走るのが速くなってきた。
「うわぁ!? サエすけ! ボール投げるなっ、危ないでしょ!」
「はい、タッチ」
そして足りない部分は頭脳でカバー。サエちゃんがどこからか取り出したボールの襲撃でサユカンが怯んだ隙に、見事タッチ。
「サユカンが鬼だー!」
「色鬼だー!」
「ちょっと待て! なんかわたしのだけ違くないか!? なにその新種っぽい妖怪!」
「そんなに喚きたてて……サユカン、私になんかようかい?」
「カカちゃん、おやじだねー」
う、うるさいなっ、トメ兄の真似しただけだよ!
そんな感じで楽しく遊んでいたんだけと……ふと、空き地の入り口からこっちを覗き込んでいる顔に気がついた。
「あれ、お姉。どしたの」
「やっ、カカちゃん! ちょっといいかな」
一旦鬼ごっこは中断。サエちゃんとサユカちゃんも一緒に、姉のもとへ集まった。
「ちょっと怪しい人を探してるんだけどさ、見てないかな」
「目の前にいる」
「ん、ああ。あたし……の瞳に映ってるカカちゃんのことか。ダメだよー自分のことそんな風に言っちゃ」
「ダメだよー、自分がどういう風に見られてるのかちゃんと自覚しないと」
あっはっは、と和やかに笑う私と姉。
「ほんと仲のいい姉妹だねー」
「サエすけにはそう見えるのっ?」
「やだなーサユカちゃん。私たちだって似たような会話してるじゃないのー」
「……そういえばそっか」
外野の会話は置いといて、私は話を戻そうと思う。早く色鬼ごっこの続きしたい。
「で、なんでその怪しい人を探してるの? というか誰それ」
「シュー君が護送中にうっかり逃がした殺人犯」
「あの警官は何をやってるの!?」
「仕事してるんだよ、犯人を追っかけるっていう。自分で作った仕事だけどねーあっはっは」
笑い事じゃないしっ!
「それで、あたしが例によって手伝ってるってわけ。あんたたち見なかった? この暑いのに革ジャン着て、帽子かぶってグラサンしててマスクしてて息が荒い男」
「わっかりやすい姿してるねー。でもそんなの見てないよ」
「わたしも気づかなかったです」
「私見たよー」
ほらね、そんな怪しい人近くにきたらわかるだろうし、ここら辺には来てないんだと思うーって見たのサエちゃ!?
「そこの土管の中に隠れてる」
しかも近っ!
「へぇー……土管の中に隠れるなんてどんなスーパーなマリオさんなんでしょうねー……くっくっく」
私たちの会話を聞いていたのか、土管の中にいた男はあっさりと姿を現した。
「帽子だけはマリオっぽいね」
「やかましい! このガキどもが……せっかくこっそり隠れたのにバラしやがって!」
男は興奮しているのか、ハァハァと教育に悪そうな荒い息で私たちを睨む。
そしてそれと対峙するのは、不敵な笑みを浮かべている無駄に頼もしい我が姉。
「俺ぁなぁ、五人も殺してるんだ! 今さら一人や二人、増えたところで構やしねぇんだぜ?」
「たったそれだけでいばるな! あたしなんか――」
「張り合うなバカ姉!!」
スパーン! とトメ兄直伝のツッコミを放つ。あんた一体何人……いや、聞くのはやめとこう。こあい。
「と、とにかくてめぇら、おとなしきゅごべ!?」
急に奇声をあげてうずくまる男。
ま、急でもないんだけどね。
「おー、カカちゃん腕あげたね。師匠として鼻が高いわ」
「あげたのは脚だけど」
解説しよう! 私と姉が漫才をやってる隙に、サエちゃんが地面に転がってたボールをさりげなくこちらに蹴ってよこした。そしてそれをシュート! 男の弱点にデッドボール! というわけだ。
この技もうカンペキ。見た目は子供の頭脳は大人な名探偵のキックも目じゃないね。
そして犯人は後から駆けつけたシュー君(役立たず)によって無事逮捕され、姉の監視のもと、きちんとしかるべきところへ送られましたとさ。
そして私たちの色鬼は……
「タッチ!」
「あぁん♪」
「変な声出すな!」
「だって色鬼ごっこだし」
こんな感じで楽しく続きましたとさ。
果たして姉の職業ってなんなんでしょうねぇ。
父と同じくらい謎かもしれません、って作者の私が言っててどうするんですかね^^;
暑いときこそ走りまわるのが子供です。
そして暑かろうが寒かろうが走らないのが大人です。
悲しいですねぇ(ぇ