カカの天下160「スイカ割り大会! 食い編」
「さぁ始まりました第一回スイカ食い大会! 解説は続いてあたし、最近出番が減ってきたような気がしないでもない姉ことカツコです!」
「今回も解説の助手をさせられるらしいトメです……」
どうも、姉が言うとおり前回の続きで今度はスイカ食い大会だそうです。
姉の威勢のいい声に呼応して歓声をあげる野次馬の皆さん。どうもこの街は暇なやつが多いらしい。
「そういや……さっきのは選手権で、今回は大会なのな」
「うん、ほんとはさっきのスイカ割りで決まった選手とあたしが最後に一騎打ち、って形にしたかったんだけどね。三人とも勝ち残っちゃったし」
なるほど……すると姉はスイカを食べる機会を失ったわけか。可哀想に。
でも多分姉のことだから勝負事となれば本気モードになり、三秒でスイカを半分は食べてしまうだろう。それを考えると、このバケモノに食べさせないでよかった。他の人の分が無くなる。
「さて、では選手入場! 赤コーナー! っていうネタは使っちゃったからいいや」
「ネタとか言うな」
ともかく前回と変わらないコスプレ姿で登場するカカサエサユカの三人。
や、だからあんたらそんな可愛い格好くせに……なんで目がギンギラギンにさり気ないんスか。
「ちなみに選手の皆さんが気になる副賞、トメ君ですが……なんか三人のものって言ったら泣きそうになったので、この大会で優勝した人に改めてプレゼントふぉぅゆぅ♪ ということで」
「……誰かにプレゼントされるのは変わらんのか」
「当たり前じゃん。あんたが賞品だから三人とも殺るきなんだし」
「ちょっと待て、なんか物騒な響きしたぞ」
「む、鋭い……まぁまぁ、どうせこんな賞品なくてもあんたはあの三人に振り回されて生きてくんだから、そんな気にすることないっしょ」
……なぜだろう。反論できん。
「さて! 副賞が納得したところで勝負の説明をします! 先ほど割ったこのスイカを使って、観客の皆さんに最も大きな拍手させた人が勝ち!」
「拍手……? 意味がよくわからんが」
「要はスイカをネタに芸をしろってこったろ」
「……ゲンゾウさん、あなたまでネタとか言うのやめてもらえませんか? なんか僕らが全員コメディアンみたいに思えてくるんで」
「似たようなもんだろ」
「言わないでっ!!」
しかし野次馬のほうを見ると「いいぞいいぞー」「やれやれー」とノリ気な様子。ご近所の方から知らない人までいっぱいいるけど、どうも奇天烈な格好のカカ達を気に入ったらしい。アブナイ人いないだろうな。
「さぁ、一番手は誰がいきますか?」
「私がいきますー」
ほぇーっとした声の割に目がメラメラ燃えているサエちゃんが名乗り出た。
「勝ってトメお兄さんで遊ぶのー♪」
……やば、なんか一瞬遊ばれてもいいように思えた。おそるべし見た目が可愛い女の子。
「サエ選手、はたしてどんな芸をしてくれるのかっ!? おっと、まずはスイカの前に立ち……割れたスイカの破片を手に取った。赤い部分が結構残ってておいしそうだが、それを……」
ズバ! っと音がした。
サエちゃんが持つスイカは、なんと一瞬で赤い部分が消えていた。
「な、なななんと志村け○食いだ! 通称ドリフカット!」
またの名を超早食い!
まさかこんな力技かつ正攻法でくるとは……サエちゃん、口のあたりがモノスゴイことになってるけど格好いいよ!
野次馬も感動したらしく、興奮しながら手を叩きまくっている。これはもう決まったんじゃないかな。
サエちゃんは満足そうに口をもごもごさせながら退場し、次の出番のサユカちゃんとすれ違う。
そのとき、サユカちゃんにサエちゃんがぼそっと何かを言った。
「えっ!? そ、そんなこと言われても」
「トメお兄さんがかかってるんだよ」
「……! 何だってやってやるわっ」
だから君たち、なんでそんなに僕で遊びたいのさ。
「続きましてサユカ選手! サエ選手を越えることができるのか。まずはスイカの前に立ち……おや、なんだかすごく小さなスイカの破片を取りましたよ。ほとんど赤い部分がない……」
サユカちゃんはそのみすぼらしいスイカをじっと見て……
「……ぐずっ、わたし、これだけしかもらえないのかにゃ……」
泣いたぁ!?
「ぐっじょおおおおおおおおおおぶっ!!」
野次馬たちがなんか吼えたぁ!!?
「おっとサユカ選手、女の最大の武器、涙を使いました! 色気とか演技とかそのへんが不足してますが、精一杯の可愛らしい涙に野次馬たちはノックアウトです!」
たしかに可愛かったけどさぁ……
「ちなみにサエ選手はサユカ選手に何と助言したのでしょうか!? サエ選手、どうぞ」
「えっとねー、女はとりあえず泣いとけば勝てるって言いましたー♪」
こっちは可愛いけど可愛くないなぁ! 女ってやつぁ!
「……カカも相当なもんだと思ってたけど、その友人も負けずに成長してるようね……おねーさんうれしいよっ!」
成長の仕方が間違ってる気がするのは気のせいか。
「さー、いよいよ真打登場! カカ選手、この二人に拍手の勢いで勝つことができるのか!? おっとカカ選手、無言でスイカの前で立ちました。そして……」
その手に持っていた木刀を振り下ろした。鈍い音が響き渡る。
さらに砕かれたスイカのしぶきが、カカの着ている着ぐるみにかかった。
白ネコの身体が赤く染まる。そう、まるで返り血を浴びたかのように……
先ほどの「赤コーナー!」のくだりを証明するかのような血まみれの(ように見える)ネコもどきは、いつのまにか静まりかえっていた観客を見渡した。
「拍手しろ」
パチパチパチパチ!!
ってぇ、脅しかよっ!
「おっとぉカカ選手、他の二人が受けに回ったのと違い、攻めにでた!」
や、たしかに攻めっちゃ攻めだが……
「音がちいさい!」
パチパチパチパチ!!!
これ、いいのかなぁ。
「勝者、カカ!! トメはカカのものです!」
「もともとそうなんだけどね」
「カカおまえ何様だ!?」
「ご主人様とお呼び、この副賞め」
僕の運命やいかに!?
というか僕が何をしたぁ!?
「ふふふ」
血まみれで笑うな、怖いから。
このスイカはフィクションです。
実際のスイカは血のようには見えません。