カカの天下151「0から、がんばれタケダ」
「俺は鳥になりたい……」
「なんでー?」
「ほら、あの鳥を見ろっ。おもいっきり羽をのばしている」
「羽をのばしたいの? タケダ君つかれてるんだねー」
「そういう意味じゃない!」
そう、俺はタケダ。
恋に情熱を燃やす小学四年生さっ。
最近カカ君と仲直りして、いい方向にいくかと思っていたのだが……やはり人生はうまくいかない。
「俺はな、このもどかしい状況が嫌なんだ! カカ君に話しかけようとしても、この前の自分の情けない姿が頭の中をよぎり、モンモンとしてムンムンとしてうああああとなってしまうのだ!」
「つまりは恥ずかしいんだねー」
「ああ、この自分を縛る想いが苦しい! だからあの空飛ぶ鳥のように、自由になりたい……などと思ってしまうのさ」
「あの鳥、いまフンを落としたよ。たしかに自由だね」
「……いや、ある程度は常識的な自由を」
「わがままだねー」
「なぁサエ君。付き合ってくれるのは嬉しいが、なんというかこう、言葉を柔らかくできないものかね」
カカ君のことで毎度相談に乗ってくれているサエ君は、相変わらずホヤホヤ笑いながら、
「言葉のことでタケダ君に言われたくないなぁ。なんでそんなにうざい喋り方なのー?」
「う、うざ……あ、いやな? 父親が小難しい本を朗読するのを子守唄にして育ったからだと思うんだが」
「恨みがあって枕元に立つ幽霊みたいなことするねー。まぁ、面白いからいいんだけどねー」
サエ君。最近はほんとに手強い。さすがこの貴桜小学校の無敵番長カカ君の片腕にして裏番長と噂されるだけはある。
「それで、私を呼んだのはー?」
「うむ。この間、俺はカカ君に一応許しをもらったわけだが……それ以降、どうにも話しかけることができないのだ。どうすれば、いいと思う?」
サエ君はそれを聞くと、小首を傾げて考え始めた。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
なにか閃いたようだ!
「うーん、とりあえず自己紹介から始めたらどうかな」
「自己紹介……いまさらか」
「多分、カカちゃんタケダ君の名前覚えてないよー。小学四年生になってから一回も名前で呼ばれてないでしょ?」
そ、そういえば!!
考えてみればカカ君と話すようになってから俺は名前を呼ばれたことがあるか? いや、始めの一週間くらいは呼ばれていた気がするがそれだけだ! 一回も呼ばれてない!! なんか変なあだ名で呼ばれたことはあるけど!!!
と、いうわけでサエ君に言われるままに俺は久々にカカ君に話しかけた。
「カカ君、俺はタケダだ!」
「あっそ」
……あれ、すごい淡白。
この前に謝って許してくれたのではなかったのか!?
助けを求めるようにサエ君を見ると、
「まぁ、カカちゃんはもともとタケダ君嫌いだしね」
彼女はにっこりと聖母のように笑って悪魔のような言葉を言った。
「お、俺は……俺はあああああ!」
「なにしてるのサエちゃん。かえろー」
「あ、うん」
ああ……味方のサエ君が行ってしまう……本当に味方なのだろうか彼女は。
俺は……俺は……
「ばいばい、タケダ」
「……え」
ひらひらと手を振って、去っていく我が女神。
名前、呼んでくれた……
「俺は……幸せだ!」
「ちっちゃいなー、タケダ君」
まだ教室を出てなかったサエ君が何か言ったが聞こえない!
とにかく一歩前進した!
これからも頑張るぞ!
ほんっと頑張れよータケダ!