カカの天下15「誕生日の戦い」
「友達の誕生日でさ」
「またかいな」
唐突にそんなことを言い出したのはこの僕、トメの愛すべき(?)愚妹カカです。
(?)とつけたのは、果たしてこんな愚かな妹を愛して意味があるのかと自問してみたからです。
我輩は兄である。答えは、まだない。
「で、今度は何をやるのよ。高級コシヒカリでもやればいいのか?」
「ううん、そうじゃなくてさ」
「なんだよ」
「昨日昨日、あるところに」
「なんで昨日って二回言うんだ?」
「昔々、みたいなアクセントで」
「ああなるほど。で?」
「あるところに四人の女子が集まりました。その女の子たちは誕生日を迎える友達にケーキを作ってあげようと集結したのでした」
「なんだ、もう終わってたのか」
どうやらそのときの様子を話したいらしい。
む? ならなんで昨日じゃなくてわざわざ今日に言うんだ? そういえば昨日のカカの様子、少し変だったような。
「準備も買い忘れなく終えて、そこそこに作業は進んでいきました」
「ふむ」
カカにお菓子作りのスキルはないが、女の子なら小学生でも一人か二人くらい器用に作れる子はいるものだ。まぁ小学生となると作れない人間が一人でもいれば台無しになる可能性も充分に高いのだが。
「スポンジが焼けて、冷ましてからクリーム塗るのよー、とリーダーが言いました。しばらく放置でやることがありません。しかし中々スポンジが冷めず、待ちきれなくなった部下Cがクリームをかけてしまいました」
「なんで一気にAじゃなくてCに飛ぶのかは置いといて……それで、どうなった?」
「クリームはもちろんドロドロに溶けてしまい、スポンジから皿へとぽちゃぽちゃと落ち、皿のなかには液体のクリームがたぷたぷと溜まりました」
うむ、妙な擬音がそこはかとなく惨状を描いている。
「やっちゃったものは仕方ないじゃん? と開き直った部下Cは、もうどうにでもなれと用意していた缶詰のフルーツをこれでもかと適当に散りばめました」
豪快なヤツだな。
「するとどうでしょう。ケーキになるはずだったものは憐れ、『スポンジのクリームおひたし』とでもいうかのような、見事に変な料理へと変わってしまったのです」
ああ、よく言うよな。料理は適当に作っても食えるもんができるが、お菓子はちょっと失敗しただけで大惨事になるって。
「で、そのケーキもどきをどうしたんだ?」
「でもまぁせっかく作ったしお金もかかってるし、誕生日の友達には死んでも食べてもらおうという流れになり」
「鬼かおまえら」
「連れてきた友達は涙を浮かべながら食べてくれましたとさ」
「可哀想に……」
「でもさすがに半分くらいしか食べれなかったんで、作った皆も仕方なく一切れずつ食べさせられましたとさ。可哀想な私たち……」
「そんなもん半分も食わされたその友達のほうがよっぽど拷問だろうに」
「……やっぱ。そうかな」
「む?」
今まで面白げに話していたカカの顔が急に歪む。
ああ、なるほど。
昨日の様子がおかしかったのは、変なもんを食べたからじゃなかったのか。
「料理だの菓子作りだの、初挑戦に失敗は付き物だ。でも自分のためにそこまでしてくれる友達がいたんだから、その子も内心喜んでたんじゃないのか?」
「でも、吐きそうな顔してたよ?」
「う……それでも大丈夫だって。今日はその子と話したか?」
「ううん……なんとなく声かけづらくて……あんなになったの、私のせいだし」
やっぱ部下Cっておまえか。
落ち込んでたわけね。いっちょまえに。
「ま、明日ちゃんと話してみろって。あんなことになってごめん、とでも言えばきっと許してくれるさ」
「うん……」
翌日。
カカが上機嫌だったのでうまくいったんだろうな、と思いつつ一応どうだったか聞いてみた。
「笑顔でありがとうって言われたよ!」
「へえ、そりゃよかったな」
「私の誕生日にはもっとすごいお返ししてくれるって!」
「へえ、そりゃ、よか……」
「なんかすんごい笑顔で言ってくれた」
えと……なんかカカは嬉しそうに言ってるけど。
それ……
『お返し』じゃなくて『仕返し』って言わないか?