カカの天下149「覆面少女けけけ現る」
どうも、トメです。
穏やかな午後。居間で休日をすごしていた僕は、ラジオか何かで鳴らされた音楽が耳に入り、雑誌をめくる手を止めました。
だだっだっだだん!
これ、ターミネーターの音楽?
誰が抹殺されるんだ?
この流れでいくと、どうせ僕なのだろうが……
「トメさん! こっちを見ろっ!」
言われたとおりに振り向くと、そこには……覆面少女が妹のカカの首筋におたまを突きつけているという光景が。
「トメ兄、たすけてっ」
なんだ、抹殺されるのはカカか。
……おたまで? プロってすげぇな。そんなんでも抹殺できるのか。
おたまで活躍する抹殺屋か……見てみたいなそんな映画。
「い、いいかトメさん! そ、その……あんまり見ないで恥ずかしい!」
「見ろっつったのはそっちだろが」
弱そうな犯人だなぁ。や、覆面してても正体なんか丸わかりなんだが。
「か、カカすけの命が惜しかったら」
「惜しくない」
「……へ」
「惜しくないからお好きにどうぞ」
「ちょっとトメ兄!? それどういうこと、私がどうなってもいいの!?」
おたまなんぞでカカがどうにかできるのなら世の中はもっと平和である。ん、間違いない。いいこと言うなぁ僕。
「ちょっと、どうするのよカカすけっ! 段取りと違うじゃないっ」
「仕方ない……じゃあプランBで」
一体なんの遊びなんだか。
お、覆面少女――誰なのかモロわかりだが一応そう言っておく――がカカを離して僕のほうにきた。
そしておたまを僕に突きつけて叫んだ。
「わたしの言うことをきけ! さもなくばこのおたまで!」
「料理でもしてくれるのか?」
「おたまでお料理! トメさんは何が好きですか!?」
「じっくり煮込んだシチューとか」
「わかりました! じゃあ今度このおたまでじっくり……じっくり」
お、話を逸らされてることに気づいた。それにしてもすんなり剃れる子だ。おっと漢字を間違った。逸れるだ。剃るってどこを剃るんだどこを。
「じっくり煮込んで殺されたくなかったら言うことを聞きなさい!」
だだっだっだだん!(BGM)
「普通に怖いな、それは」
なんかおたまも凶器に見えてきた。
「だいたいな、人を脅すなら包丁じゃないか、普通」
呆れた僕の声に、覆面少女の後方で自由になっているカカが口を尖らせる。
「それだとトメ兄、本気で怒るじゃん」
「よくわかってるな。えらいえらい」
隣にいたら頭を撫でてやるところだ。
「それで、要求はなんだ?」
「け、けけけけけけけ」
「……カカ。お兄さん本気でこあいですピンチです」
「私もちょっと背筋につららが走った」
それは冷たそうっていうか痛そうだ。
「け、携帯の番号とアドレスを教えてください!」
……あれ。
そういえば教えてなかったっけ。
「つまりこれ、ナンパか」
ナンパと聞いた瞬間、覆面少女の顔が爆発した。
「私が教えてもよかったんだけど、なんかこういうのは直接聞かないと意味ないとか言ってさ」
「直接か、これ」
「普通じゃないけど直接だよ」
うまいこと言うなぁ。
さて、それじゃなぜか固まってる覆面少女の覆面をとって、と。
「あ、う」
「サユカちゃん。そんなの普通に聞けばすぐ教えてあげるのに」
「か、カカすけが……トメ兄はドケチだから普通に聞いたらイロエロ要求されるって」
「……へー、カカが。カカがね。わかった。あとで言っとく。イロイロじゃなくてイロエロってなんだろねあははは」
「あはは、わかってるくせに」
「カカ、今日のおしおきはロープな」
「さらばっ!」
カカは脱兎のごとく逃げ出した。ま、どうせ寂しくなったら帰ってくる。兎のごとくだし。
「じゃ、サユカちゃん。これ僕の携帯アド……」
と、そのとき。サユカちゃんが目にも止まらぬ速さで僕の携帯を奪った。
そしてディスプレイを見ながら、なんかくらーい声で言う。
「と、トメさん……テンカ先生の番号、入ってるんですけど」
「ん、ああ。こないだ初めて会ったとき、気が合うなーって交換した」
「にゃああああああああああ!!!」
なぜかネコ化したサユカちゃんは急に走り出して玄関の向こうへと去っていった。
……えと、あの、僕の携帯……返して。
けけけけ。
素でこんな笑い方する人、いるんですかねぇ。