カカの天下146「ケロケロ合唱」
「ただいまー」
仕事から帰ってきましたトメです。
さて、皆様。
皆様は家に帰ってきて、まずは何をしますか?
普通は靴を脱ぎますね、ええ常識です。
そして家に上がるでしょう、ええ言うまでもないことです。
しかし皆様。
玄関が足の踏み場もないくらいカエルのぬいぐるみで埋め尽くされていたら、皆様はどうしますでしょうか?
僕ですか?
そうですね。
とりあえずそこらのカエル君を適当にけっとばします。
「シュート!」
「いたぁん!!」
げ、なんか思いのほか重い感触が。
なんとそのカエルのぬいぐるみの中に妹のカカがいた。そうとも知らずに蹴ってしまった……
なんとも清々しい気分になってしまったじゃないか!
「うぅ……痛いなぁトメ兄。なにするの」
「なにって、まずおまえが何してるんだよ」
僕が気づかなかったのも無理はない。
カカはカエルのぬいぐるみの中心で、カエルの着ぐるみを着ていたのだから。
「なにって、カエルしてんの。通称カエラー?」
「マヨラーの親戚か」
「そうそう」
なんにでもカエルかけて食べるんか。
「このぬいぐるみ共は?」
「えと、生んだの」
「おまえがか」
「カエルって卵いっぱい産むし」
「……へぇぇ、そうか、カカって卵産むんだぁ、そのお腹にも詰まってるのかぁ」
「お腹が出てるだと!?」
「そんなことは一言も言ってないが」
少し出てると言えなくもないが、まぁ子供だし。
「それで、冗談はこのくらいにして……このカエルグッズは一体なんなんだ?」
「商店街でデンジャーケロリンのキャンペーンしてて」
「どんなキャンペーンだ。つうかデンジャーケロリンてなに」
「商店街のマスコットキャラだよ」
「なぜにデンジャー」
「えとね、よくわかんないけど『はたして君はこのキケンな商店街からカエルことができるか!?』っていうスローガンあったよ」
そんな商店街いきたくねーよ。
「でね、レシート持ってったら千円分で一回くじ引きを引けて、『当たり』を引いたらデンジャーケロリンのぬいぐるみが一個もらえるの。特別賞なら着ぐるみもらえる」
なるほど、僕は全然知らなかったけど、このマスコットを広めようってつもりのキャンペーンなわけだ。
「ん? じゃ、このぬいぐるみ全部当ててきたのか。てことは……どんだけ買い物したんだよ」
見たところぬいぐるみは十匹以上いるぞ。てことは、一万円以上!?
「や、買い物なんかしてないよ」
「へ? じゃあこれ、盗んできたのか」
「そんなタチの悪いことしないよ」
「そうだよな、姉じゃあるまいし」
「くじ引きの箱ひっくり返して、『当たり』入ってないじゃんって文句言って全部まきあげてきたんだよ」
「もっとタチ悪いわ!」
「はずれしかないくじ引かせるほうがタチ悪いと思うけど」
それは、そうだけど、なぁ……
「それでね、このぬいぐるみ喋るの。だから皆でトメ兄をお出迎えしようかと」
へぇ、玄関で出迎えってことは「おかえりー」とか言うのかな。
カカは手持ちのぬいぐるみを手に取り、後ろのスイッチを押した。
『か、え、れ』
その妙に渋い声は、ものすごく冷たく僕の胸に突き刺さった。
しかしカカは僕の悲しいトホホ顔に気づかず、次々とぬいぐるみのスイッチを押していく。
『か、え、れ』
『か、え、れ』
カエレカエレとカエルの合唱。
『か、え、れ! か、え、れ!』
開いてもないコンサートを失敗した気分だ……
「……カカちゃんは、お兄さんが嫌いなのかな?」
「給料日のトメ兄は好きだよ」
「今日、給料日なのにこの仕打ちは……帰れ帰れって」
帰ってきてからそんなこと言われると帰る場所がなくなった気がして素でヘコむんですけど。
「これは『キケンな商店街から無事に帰れますように』って入れた声らしいよ」
「なぜにカエレ」
「カエルと似てるからじゃない?」
「で、なんでその声でお出迎え?」
「おかえりもかえれも似たようなもんでしょ。ダジャレは二文字合ってれば成立するって言うし」
他意がないようで安心した。僕の家はここだよね、うるうる。
「トメ兄、変な顔」
「ゆけ、デンジャーケロリン!」
僕の蹴り飛ばしたケロリンは妹の顔に見事命中した。
さて、片付けるか。ケロケロ。
ぬいぐるみのカエルってふさふさでいいですよね。
本物のカエルもぬめぬめしてないで毛を生やせばいいのに(無茶