カカの天下141「犯罪者に返り討ち」
「ただいまー」
「おー、おかえりー」
お晩どすえ、トメです。
居間でごろごろ雑誌を読んでいると、カカが帰ってきました。学校からまっすぐ帰ってきたにしては遅めの時刻。たぶん寄り道でもしてきたのでしょう。
と、カカが帰ってきた直後にピンポーンという音が。
「誰か来たみたいだね」
「ん、出るよ。おまえは部屋行ってな」
玄関で靴を脱いだばかりだったカカとすれ違う。
ん? 今なんか変なものが見えたような。
ピンポーン!
「はいはい」
とりあえずそれは置いといて玄関に出る。
「どちら様ですかーって、あらシュー君。お久しぶり」
「どうも!」
ビシッと敬礼を決めたその人は、ご近所の平和を守っているつもりの警官、シュー君だ。
「何か用ですか?」
「ええ、実はですね、お宅に」
「なったんですか?」
「……は?」
「オタクになったんですか? それなら近所のサカイさんととても仲良くできると」
「違います! お宅に窃盗の嫌疑がかけられてるんです!」
むぅ、冗談にそんなムキにならなくても。
って、窃盗?
「犯人は姉です」
「……言い切りますね」
「だってそういう生物ですし」
「それはそうですが」
あんたも迷いないじゃん。
「今回は違います。実はお宅のカカちゃんが」
「カカもオタクになったのか」
「そのネタはそれくらいで……」
「呼んだ?」
シュー君と遊んでいると、廊下からカカが顔を出した。まだ部屋に戻っていなかったらしく、今すれ違った格好のままだ。
その、肩に木刀を担いだ格好のまま。
「ときに妹。その木刀はなに?」
「武器」
「……なんのさ」
「ケン――」
「まぁいいや!」
カ、と警官の前で言わせるのもなんだったので遮っておく。
「それで……その木刀の先にぶら下がってるのは?」
カカは気づいていなかったらしく、小首を傾げて後ろ、肩に担いだ木刀の先を見る。
そこにぶら下がっていたのは……
「ぶ、ブラウニー?」
「誰だよ!? そうじゃなくて、それブラジャーじゃんか!!」
そう、木刀の先にあるのは紛れもなく、それなりにカップがワンダホーなブラジャー!
しかも黒い! 黒いとね、なんかこう……ね!?
「ええ、実はデパートとか、通行人の皆様から、値札のついたブラジャーを堂々と盗んでいったツワモノがいると通報がありまして……」
「あー、デパートで歩いてたら引っかかっちゃったんだね。気づかなかった」
誰か教えてやれよ!
「きっと周りの人も教えづらかったんでしょうね……」
まぁ、知らない子供に「お嬢ちゃん、ブラジャー下がってるよ?」なんて声かける勇気がある人はなかなかいないか……
「ともかく、それは僕がデパートに返しておきますんで」
そう言ってカカから受け取ったブラジャーを、シュー君はポケットへ……
「ねぇシュー。それやばくない?」
「え、なにがかな、カカちゃん」
「警官がポケットにブラジャーいれるの」
……言われてみれば、今どきの犯罪のにおいが。
「じゃ、じゃあどうしろと」
困惑するシュー君に、にやりと笑うカカ。
「つけてけ」
「えぇ!?」
「つけろ」
「いや、それは……」
「つけないと下着ドロボウとして通報するぞ!!」
「はい!!」
よわいなー警官。
「じゃ、女装趣味の変態として通報を」
「そんなぁ!!」
そんな感じでしばらくカカのおもちゃになったあと、シュー君は帰っていった。
ビニール袋に入れるという案を僕が教えてあげたおかげだ。
……あの姉妹におもちゃにされるなんて、難儀な人だなぁ。
ビニール袋をすぐに提案しないで見物してた僕も同罪か。