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カカの天下  作者: ルシカ
140/917

カカの天下140「かぐわっすぃ」

 こんばんは、トメです……はぁ。


 昨日サエちゃんに手を出した責任を取れ! とのことで、今日はセイジ食堂で妹のカカとその仲間たち三人に奢ることになってしまいました。


 や、どちらかというと手を出されたのは僕のほうなんだけど……


「ああ、奢ってもらわないと私もうお嫁にいけません……」


 とか言って泣き崩れるフリをするサエちゃんに負けた。ほんっと手強くなったなぁサエちゃん。


 そんなわけで僕らはいま、セイジ食堂に座ってメニューを見ている。


 夕方ということもあってそれなりにお客さんはいるものの、『あやしい定食』という妙なものをおすすめしているこのお店はあまり繁盛しているようには見えない。


「きまったか?」


 ぶっきらぼうに聞いてきたのは食堂の店長、ゲンゾウさん。相変わらずしぶい、けど他のお客さんもいるのに料理しなくていいのだろうか。


 厨房のほうを見てみると、ばたばたと何人か動いているのがちらりと見える。食堂の店員はほかにもいるようだけど、店長以外の顔を見たことがないのが不思議だ。


「あ、私はから揚げ定食でお願いしますー」


「私もサエちゃんと一緒でから揚げ定食。あ、でも私のは揚げ盛りで」


「あいよ」


「……揚げ盛りって、なんだ?」


「から揚げを大盛りでって意味で言ってみた」


 しかしカカの言葉にゲンゾウさんは首を横に振る。


「いや、もりもり揚げるという意味にとった」


「じゃ、それで」


 も、もりもり揚げる?


「もりっと揚げる、でもいいよ」


「いや、今日はもりもりな気分なんだ」


 ……か、カカとゲンゾウさんの会話についていけない。


「サユカちゃんはどうする?」


 同じくついていけないのか、目を白黒させていたサユカちゃんに声をかけてみる。


 ちなみにサエちゃんはわかっているのかいないのか、常にニコニコしていた。


「そ、そうですねっ。じゃあ新メニューの『かぐわしい定食』をっ」


 相変わらず僕が話しかけるとなぜか声がうわずるなぁ。いや、それは置いといて。


 かぐわしい、定食?


 なに、その『あやしい定食』よりあやしい定食。


「ゲンゾウさん、なんですか『かぐわしい定食』って」


「なにがかぐわしいんですかー?」


 ゲンゾウさんは渋い顔をゆがめ、『何言ってるんだこのダァホは』って感じのムカつく視線を僕にくれた。 あの、サエちゃんも聞いたのになんで僕だけ。


「そりゃ、定食がかぐわしいんだよ」


「そ、それはそうだろうけど」


「ええい、男が細かいことをグチグチと。この嬢ちゃんを見習え! 人間は挑戦することをやめたら死んだも同然。たとえ先が見えなくても心の琴線に触れたら突撃するのが粋ってもんなのさっ!」


 無駄にドスの効いた声で賞賛されたサユカちゃんは、目を点にしてなにか言いたげにしている。


「じゃあな、少し待ってろ」


 それに気づかず、言うだけ言ってゲンゾウさんは厨房へと戻っていった。


「……絶対サユカちゃん、テンパって何も考えずにメニュー選んだよね」


「普通なら選ばないよね、あんな変なメニュー」


「あ、あははっ……うん、言ってから後悔した」


 でもあんなこと言われた手前、変更なんかできないしなぁ。


「ところでさ、僕は何も注文していないんだけど――」


「へい、お待ち」


「「「「はやっ!!!」」」」


 僕ら四人の声が思わずハモった。


 そしてとりあえず僕の注文は置いといて、僕ら四人はその『かぐわしい定食』に視線を注いだ。


「か、かぐわしいね」


「この上もなくかぐわしい……うぅ、ちょっと」


「この匂い、僕ダメだわ……」


 カカ、サエちゃん、僕はそのあんまりな匂いに顔をゆがめた。


 ……ん? でもこの匂い、どこかで嗅いだような……


「あれ、サユカちゃん、どうしたの?」


「サユカン? なんか顔がゆでだこよ? たこよ? なんかたこ焼き食べたくなっちゃったよ」


 サユカちゃんの様子がおかしい。顔を赤くして、目がとろんとして……


 その目がこっちを向いた。


 なぜかな。


 なんかほら、あれだ。


 肉食獣に捕捉された気分になったんだけど……


「トメさん……」


「は、はい?」


「ちゅーして」


「はっ!?」


「ちゅー!」


 飛び掛ってきたサユカちゃん!


 迫る唇!


 僕はとっさにテーブルの上にあったマヨネーズをその口に突っ込む!


 ズボッ!


 ちゅー、ちゅー、チュー!


「ふぅ……ゲンゾウさん。この匂い、ワインでしょ」


「肉にぶっかけたんだがな。子供にゃきつかったか?」


「どれだけかけたんですか?」


「一本」


「失せろ」


 やることが姉並だったのでそれなりのツッコミをしてしまった。しかしゲンゾウさんは本当に悪いと思ったらしく、素直に謝ってくれた。


「まったく、ひどいことするなぁ」


「トメ兄のしたことも、けっこう」


「ひどい、ですよ」


「そうか?」


「まよちゅー」


 それがサユカちゃんの(その日の)最後の言葉となった。




 次の日。酔いつぶれ状態から回復しきってないサユカちゃんは……


「うぅ……頭痛い」


「おはよ、マヨ中」


「薬中みたいな言い方やめろカカすけ!」


 そのあとも頭痛に苦しみ、イライラしてて、薬中に見えなくもない一日を送ったのでした。


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