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カカの天下  作者: ルシカ
137/917

カカの天下137「ワンモアセッ!」

「キャンプにいこう!」


 雨うざったいなーと思ってたところのカカです。


 外に出れなくて家でしょんぼりしてたところに姉のこの言葉。なに言ってんだろこの変な人って感じです。


「む、なにさカカちゃん。そのポイ捨てされたタバコを見るような目は」


「ほんと、誰が捨てたんだろうねこの姉」


 私と同じようにげんなりしてるトメ兄は雑誌から顔も上げずに答えます。


「僕らの親だろ」


「まったく、ちゃんと産業廃棄物の日に捨てたのかな」


「……あれー? なんだか今日は一段とカカちゃんが冷たいよー。しかも前にも聞いたようなやりとりだよー?」


「だって外出れないのにキャンプ行こうとか言うから」


「ああ、キャンプって言っても家でできるやつだよ」


 はぇ? 家でできる?


「これこれ。ほら、最近流行ってるビリーズ・ブートキャンプってやつ」


 それなら私も聞いたことある。たしか効果抜群と噂のエクササイズビデオ、らしい。見たことはないけど。


「へー、それが噂の。買ったのか?」


「サカイちゃんちから盗んできた」


「ぅおい。いいんかそれ」


「大丈夫、あの人は二十分で飽きたらしいから。いいからやってみよっ!」


「僕、別に太ってないからいいんだけど」


「私も別に」


「いいからいいから。経験だよ」


 というわけで。私たち三人はテレビを前にして、筋肉ムキムキの黒人、ビリーさんの動きを真似てみたのだけど……


 基本編を始めて十分後、ストレッチの段階で汗だくだったトメ兄はスクワットしていて脚がつり、ダウン。


 私は途中いくつかできないのもあったけど、なんとか最後までやりとおした。と言っても腹筋系はほとんどできなかったけどね。


「カカちゃん、その歳でそんだけできればすごいよー」


 そして一人、全部カンペキにこなしてさらに次の応用編へすすもうとしているバケモノな姉。


「姉は、元気だね……はぁ、はぁ」


「伊達に日頃暴れてないよ」


「僕さ、ワンモアセッ! っていうのが耳から離れなくなったんだけど」


 脚がつってから動きを止めて、私らの様子をぼーっと見ていたトメ兄は情けないと思う。


「ああ、ワンモアセット、『もう一セット!』ってやつね。あたしはサイクル! サイクル! って『回せ!』って言ってるのが耳に残ったよ」


「はぁ……はぁ……とにかく、私もう疲れた」




 次の日、身体を筋肉痛で軋ませながらなんとか登校。


「身体……痛い……」


「おい、カカ。大丈夫か?」


 心配するよりは呆れたようなテンカ先生の視線が痛い…… 


「大丈夫……です」


「え、なんだって?」


 聞こえなかったらしいテンカ先生が聞き返してきたそのとき、私の中で何かが弾けた。


「もう一回言ってくれ」


「ワンモアセッ!」


「うぉう!! びっくりした」


 ……は!? なんか思わず叫んでしまった! 『もう一回』っていう言葉に反応して……


「す、すいません……授業、続けてください」


「そ、そうか? じゃ……サエ、次から読んでくれ」


「はい。そこで庄吉は言いました。回せ」


「サイクル!!」


「ひゃう!?」


 今度は『回せ』という単語に反応して思わず叫んでしまった……そんな私に驚いてサエちゃんが可愛い声をあげる。


 ……ほんと可愛かったなぁ、今の。


「……カカ。おまえなぁ」


「すいません、なんか『もう一回』とか『回せ』って言葉に反応しちゃって……文句はビリーさんに言ってください」


「誰だよ」


「テレビの中で何回も回ってる人です」


「わけわからん」


 はぁ、とため息をついたテンカ先生は、少しだけ考えてから口を開きました。


「じゃあサエ。『もう一回』な」


「ワンモアセッ!」


「……先生、遊んでるでしょー」


「あはは、鋭いなぁサエは。いやな、なんかカカの言葉が頭の中を妙に『回って』な」


「サイクル!」


「くくく……」


「先生……ほんとにもう、ちゃんと授業してください! このままだと授業がうまく『回ら』ないから『もう一回』読みますよ」


「サイクルワンモアセッ!」


「先生! これおもしろいですー」


「だなー」


 そんな感じでしばらく遊ばれた。


 ちょっと楽しかった。


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