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カカの天下  作者: ルシカ
136/917

カカの天下136「おまえは腐ったトマトだ」

 こんばんは、トメです。


「ただいまー」


 仕事も終わって疲れて帰ってきた僕は、そう言いながら我が家の扉を開けました。


「ふふふ、カカちゃん。あなたのそのとろけるチーズのような唇をもっと」


「お、お姉、私にもお姉の賞味期限の切れたタラコみたいな唇を――」


「いってきまーす」


 とりあえず扉を閉めました。 


「さー、みんなでー考えよー」


 一人しかいないのはわかってるけど、そんな独り言を呟く僕。


 なに、いまの三流昼ドラ。


 玄関で妹のカカと姉が……抱き合ってなんかやってた。


 ……も、もう一回見てみよう。


 僕は玄関の扉を開けた。


「……ただいまー」


「カカちゃん、ぼくにはもう君しかいないんだ! そう、たまごも黄身しかいらないんだ個人的に!」


「お姉、いけないわ。私には、私には兄が! たまごが安売りのときに大はしゃぎする兄がいるの!」


「そんなの関係ないよ! ぼくにその焼肉のようにおいしい身体を味あわせておくれ!」


「お姉……私にも、失敗したアルデンテみたいなあなたの身体を――」


「おじゃましましたー」


 閉めました。


 なに、今の別タイプの昼ドラ。


 というかなんでいちいち食べ物が入るんだろう。そしていちいち表現がひどいなカカ。失敗したアルデンテってどんなだ。


 ……もう一度、開けたらどうなるんだろ。


 ちょっとわくわくしながら、僕は玄関のドアをもう一度開けてみた。


「……ただいま」


「いやあああああぁぁぁぁ!! お、お姉の頭がトマトみたいにブチャッて潰れてる!」


 グロッ! 表現がグロ!!


 ってぇ、そんなことより。


 いまだに叫び続けるカカを無視して、僕は靴を抜いでズカズカと血みどろで倒れている姉に近づく。


「は、犯人はきゅうり――」


「潰れたトマトが喋るな」


 げし、とそのトマト頭をさらに潰す僕の黄金の左足。


 そう、今日の帰り道に犬のアレを踏んで僕の左足は黄金に……や、そんなことはどうでもいい。


「なんだこの赤いのは!」


 玄関を汚しまくっている姉の血、にみせかけた赤い液体。


「と、トマトソース」


「この腐ったトマトめ!」


 どこかの熱血先生は「おまえ達は腐ったみかんじゃない」とか言ってたのをなんとなく思い出しながら、紛れもなく腐ったトマト頭を踏みつける。


「い、いたっ! ごめん、掃除するからそんな怒んないでよぅ」


 傍若無人な姉も自分が本気で悪いと思っているときは聞き訳がいい。滅多に自分が悪いと思わないのが難点だが。


「さすが潔癖症トメ兄、家の汚れのことに関しては鬼になるね。よっ、我が家のヨゴレ鬼」


「変な意味で汚れてるみたいなあだ名つけるな。それで、さっきからやってたこれは何のつもりだったんだ?」


 踏みつけていたトマト姉が僕の足から逃れ、むくりと起き上がる。


「いやさ、昼ドラってどのパターンが一番面白いかなーって検証を」


「……最後のはなんだ」


「殺人事件」


 ……まぁ、たしかに昼にやってる番組系ではよくあるな。


「人生相談系とかもやってみたかったんだけど、その前にトメ兄に怒られちゃったし」


「でさ、弟よ。どれが一番面白かった?」


 こいつらは……いったい何をやってるかと思えば。


「賞味期限のきれたタラコ唇かな」


「ふむ、そうか。あたしとしては焼肉のような身体っていうのもいい感じだったと思うんだけど」


「あれ……兄姉、昼ドラと関係ないとこ見てるけど」


「や、そっちのがおもしろかったし」


「演じててあたしもそう思ったし」


 正直、人生相談系というのも見てみたかった。


「ま、それはそれとして……これ片付けろよ」


「えー……人生相談編見せてあげるから許してよー!」


「掃除してから見せろ」


 文句を言う二人を背中に、僕は自分の部屋に向かう。


 ほんと暇なんだなー、こいつら。


 面白いからいいけど。


 家が汚れるのはよくないけど。 


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