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カカの天下  作者: ルシカ
134/917

カカの天下134「正格(正解と合格)の違い」

「はい、これ読める人〜」


 こんにちは、カカです。


 ただいま国語の授業中です。


 テンカ先生が書いた黒板の漢字を見て、わりと授業に積極的なうちのクラスメイト達は次々と手を上げていきます。


「はい、じゃあ出席番号15番君」


「え……あの、僕には西川っていう名前が」


「ああごめん。オレって人の顔と名前覚えるの苦手でさ。覚えてほしかったらもっと目立て」


 先生らしからぬ無茶なことをいうテンカ先生は、そのさばさばした性格がうけて学校の人気者だ。


 ちなみに「オレ」とか言ってるけど女の人だ。格好いい女性がそういう呼び方をするとすごく似合うのだと私は初めて知った。


「じゃあ西革君、答えて」


「西革じゃなくて西川です!」


「……なぁ西川。おまえ字を間違ったの、よく気づいたな。言い方一緒なのに」


「家族には目ざとい耳ざといってよく誉められます」


 得意げに胸を張る西川君。ほんとすごい。私には全然わからなかった。


「ん、よし。おまえの名前は覚えた。じゃあ答えてー」


「その漢字は、しゅじゅつ、です。そんなの簡単ですよ!」


 黒板にある『手術』という文字は、確かにわざわざ生徒に質問するにしては簡単な漢字だった。


 しかしテンカ先生は「はぁ」とため息をついた。


「正解。でも不合格」


「え! 正解じゃないんですか!?」


「いや、正解だが不合格なんだよ西革君」


「西川です!」


「つっこむねぇ、君も」


 どうやって聞き分けてるんだろう……


「不合格っていうのはあれだ、面白くないってこと。てめーら子供なんだからもっと変な答え言えよ。あえてオペとか言うとかさ」


 この先生はいろいろと自分に正直でほんと面白い。

 

 今年に就任してきたばかりのころは猫をかぶっておとなしくしてたけど、そのどことなく姉に似た本性を段々と現してきたのだ。


「じゃ、どんな答えが合格なんですか」


「そうだな……んじゃカカ。答えてみ」


「……へ? は、はい」


 まさか自分が当てられるとは思ってなかったから少し焦った。


「面白い答えですか」


「ああ、おまえの場合は別に気構えなくていいぞ。素直に考えてみ」


 素直に……


 手術っていうことは病気なんだよね。


「ずっと入院してるんだね、可哀想」


 それで、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよね。


「でっど、おあ、あらいぶ」


 それで、大抵一回は成功するんだよね。


「目が、目が見えるわ!」


 でも身体に負担かかってきて、


「短い間だったけど、楽しかったわ!」


 大抵そばには恋人がいて、


「愛を教えてくれて、ありがとう」


 恋人に手を繋いでもらいながら死んじゃって、


「ぽくぽくぽく、ちーん」


 恋人も後を追おうとして、


「いますぐ僕もそっちに行くよ! さぁ、飛び下り自殺だ! ぴょーい」


 でも助かっちゃって、助けてもらった女の人と恋に落ちて、


「いやー、あんな女のことは忘れよう、いちゃいちゃ!」


 そしたら死んだ人が幽霊になって出てきて、


「ワタシノコト、ワスレチャッタノ?」


 恋人さんはとり憑かれて、


「うわぁぁぁぁ見るな、来るな、近寄るな」


 そう叫ぶんだけど、


「ほーら私の内臓を見てごらん」


 コートを広げる変態みたいなノリで皮膚を広げる幽霊に、


「見せるなああああああ! がく」


 とり殺されましたとさ。


「ぽくぽくぽく、ちーん」


 めでたしめでたし。


「こんな感じでどうですか?」


「大合格!」


 なぜかクラスにいる全員から拍手をもらってしまった。


「それで先生、こんなのをテストに書いたら正解にしてもらえるんですか」


「そんなわけないだろ」


「ですよねー」


「でも私は面白いやつのほうが好きだぞ。適度に正解して適度に変なこと言え。いいな」


 ほんと面白い先生だ。


「ちなみにカカを見本にすると合格率は上がるぞ。正解率は下がるが」


「「はーい」」


 なぜに。


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